『欲望』



 その朝、目覚めると机の上に大きな白い、無地の紙袋が置いてあった。
 二日酔いでふらつく頭で思い出した。
 昨夜、酔いにまかせて仲間と雪崩込んだいかがわしい店で5千円の福袋を買ったのだ。
 台所で冷たい水を飲み一息ついた所で、早速その袋を開けて見る事にした。
 
 流石にマトモなものは入っていない。
 カン入りパンティー、SEXYイラストのマッチ箱、コンドーム、髭メガネ…
 箱に入っていたのはバイブレーターだった。
 ビニール袋には衣装が入っている。
 バドガールのボディコン・スーツ、バニーガールの装飾品一式、看護婦さんの白衣…
 有名ファミレスの制服、メイド服、ウェディング・ドレス…
 いくら大きな紙袋といっても入り切れる量ではない。
 普段着のようなスカートやTシャツ、ブラウスやセーター等が続々出てくる。
 次には下着が山のように出てくる。
 俺の部屋が女物の衣類で一杯になってしまった。
(これで最後か…)
 俺は紙袋の底に貼り付くようにあった封筒を手にした。
 中からは便箋と銀色のリングが出てきた。
 便箋にはこうあった。
 
 
 毎度御買上有り難うございます。
 この『欲望高速増殖リング』は貴男の『欲望』を直ちに満たしてくれる魔法のリングです。
 使用方法は簡単。ペニスにリングを装着し、貴男の『欲望』を全開にして下さい。
 直ぐさまリングが反応し、貴男の『欲望』を満たしてくれます。
 それでは良い宵を…
 
 (注意:『欲望』はなるべく具体的にお願いします。
     場合によっては貴男の思っている欲望とは異なる場合がありますが、
     それは貴男の深層心理における欲望ですので製品の不具合ではありません。)
 
 
 俺はさっそく試してみる事にした。
 パジャマの中からペニスを引き出し、リングを嵌める。
 それだけでは、なんの変化もなかった。
(次ぎは欲望だな?)
 俺は気が小さく、これまで商売女も含めて女の子と付き合った事がない。
 だから今もって童貞である。
(やはり可愛い女の子を抱いてみたいな。)
 そこで、説明にあった記述を思い出した。
(具体的にか…)
 そんな俺の目に、部屋中に散らばったコスチュームが飛び込んできた。
(最初から看護婦さんやメイドさんは行き過ぎだろう。
 ファミレスやバーガーショップのアルバイトも捨てがたいが…)
 そして俺が目を止めたのが女子高生の制服だった。
 ぎりぎりまでたくしあげたスカートから伸びる健康的な太股。
 ショートカットの髪にふっくらとした面立ち。
 化粧などしなくとも充分に白い肌と紅い唇。
 可愛らしい女の子を妄想する。
(こんな娘がいいなぁ)
 
 俺の妄想が全開した。
 
 突然、リングが光を放った。
 眩しさに目がくらむ。
 俺の部屋が光に包まれた。
 
 
 
 
 
 俺は床の上に倒れていた。
 辺りを見ると部屋の中が綺麗に片づけられていた。
 あんなに溢れかえっていた女物の衣類も消えていた。
 唯一つ、ブレザーの制服を除いて…
 
 俺はゆっくりと起き上がった。
(あのリングはどうやって俺の欲望を満たしてくれるのだろうか?)
 立ち上がり部屋の中を見回す。
 片づけられたせいか、なにかいつもとは違って見える。
 
 壁に掛けられたブレザーを取った。
 その向こうには鏡があった。
 女の子が写っていた。
(??)
 俺はもう一度鏡を見た。
 確かにそこには女の子がいた。
 俺が妄想した娘を忠実に再現している。
 彼女は手にブレザーを手にしている。
 ブレザーに隠れた身体にはぶかぶかのパジャマがあった。
 見覚えのあるパジャマだ。
 それは、俺が昨夜から着ているパジャマだ。
 
 ふと、俺は彼女と同じようにブレザーを手にしている事を思い出した。
 鏡の中の女の子と同じブレザーを手にしている。
(手?)
 俺は改めて自分の手を見た。
 それは自分の手ではなかった。
 白く、細い指。
 爪はピンク色に輝いている。
(??)
 俺の手からブレザーが落ちた。
 鏡の少女もブレザーを落としている。
 もう一度、自分自身を確かめる。
 パジャマがぶかぶかだ。
 背が縮んでいる。
 胸に掌を当てると、そこにあるハズのないもの…
 考えようによってはあって当然のもの…があった。
 パジャマのボタンを外し、自分の目で確かめる。
 それは女の子の胸だった。
 ふっくらと膨らんだバストがあった。
 パンツの中に手をいれる。
(ない)
 当然の事であるのだが、俺は確かめられずにいられなかった。
 指先が女の子の割れ目に挟まれる。
(!!)
 何とも言えない感覚が身体の中を走り抜けて行った。
 
 
 
 間違いではない。俺は女の子になってしまった。
 俺の『妄想』は『こんな女の子を抱いてみたい』だった。
 が、説明書に書いてあったように、俺の深層心理ではこの娘になりたかったのだろう。
 とりあえず、この娘でいる事を俺は拒絶してはいないようだ。
 ならば『妄想』していたようにブレザーを着て、ミニスカートの裾から覗く太股のむちむち・プリプリを堪能する事に何ら問題はないハズだ。
 俺はタンスの引き出しを開けた。
 そこには女の子の下着がぎっしりと詰まっていた。
 手近のブラジャーとパンティーを手にして身に着けた。
 思った以上に身体にピッタリフィットする。
 ハンガーからブラウスを取った。
 ボタンの付け方が男物とは違うので嵌めるのに一苦労する。
 スカートをウエストの高い所で留め、ベストを被る。
 上着はハンガーに戻して、姿見の前に立った。
 ベストの下からスカートの端がかろうじて見える。
 ちょっと目にはスカートを穿き忘れたような感じだ。
 そして、真っ白な太股。
 俺はごくりと唾を飲み込んだ。
 ゆっくりと片足を上げるとスカートの奥の白いパンティーが見える。
 はしたない格好で悩殺ポーズ!!
 俺は興奮した。
 俺がこの娘になった事は、それはそれで正解だったのかも知れない。
 見も知らぬ女の子に「こんなポーズを取れ」と言っても、聞いてくれるとも思えない。
 聞いてくれたとしても、俺の思い通りのポーズがとれるかはなはだ疑問である。
 だが、俺がその女の子自身になっているのだ。
 どんなポーズも思いのままだ。
 鏡に背を向け、股の間から向こうを見る。
 そこにはパンツ丸見えの女の子がいる。
 
 
 俺の行動はどんどんエスカレートしていった。
 鏡の前に座り、パンティーを脱ぎ捨てる。
 スカートの奥には若々しい叢が繁っている。
 そこに手を伸ばした。
「あんっ!!」
 可愛らしい喘ぎ声がする。
 ブラウスのボタンを外し、ブラジャーの上から胸の膨らみを揉んでやる。
「う、ううん。」
 俺の目の前で少女のオナニーが始まった。
 スカートの中で指を動かす。
 俺の指にまとわりつくものがあった。
 愛液が滲み出ている。
 もう一方の手はブラジャーから乳房を引きずりだす。
 指先で乳房を弄ぶ。
 股間に愛液が満ちてくる。
 クチュクチュと淫らな音がする。
「うん。あん。ああ。」
 俺は既に少女の姿を見てはいなかった。
 目を瞑り、女の子の肉体からもたらされる快感に浸っていた。
 指先をソコに差し込んでは動かして刺激を与える。
「あん、あん、あ〜〜〜〜〜〜〜っ」
 指の腹が敏感な所に触れる度に快感が体中を駆け巡る。
 俺は床の上に転がり、身悶える。
(もっと、もっと…)
 『欲望』が暴走する。
 何かを欲して宙を舞う手が探し当てた。
 箱だった。
 それが何か、俺は覚えていた。
 箱からソレを取り出す。
 ビニールを破り、電池を入れる。
 ゆっくりと挿入してゆく。
 スイッチが入る。
 あっと言う間に俺は昇天した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 気がつくと、空は夕闇が迫っていた。
 俺は腹が減っているのに気がついた。
 これから支度するのも面倒なので、近くのファミレスに行く事にした。
 シャワーを浴びて服を着替え、鏡の前に立つ。
 ドライヤーで髪を乾かし、ブラシで整える。
 ソックスの長さとスカートの丈を確認する。
「よしっ!!」
 俺はポシェットを肩にして、何事もなかったように部屋を出ていった。
 
 
 

−了−


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