虜 囚



 彼女の指が太股をなぞり上げる。ふくよかな胸を押しつけてくる。うなじに掌を当て、首筋に舌を這わせる。俺は成す術もなく、彼女の与える刺激を甘受する。

 俺が彼女と出会ったのは渋谷の街角だった。いつものようにブラブラしている女の子に声を掛けお茶に誘う。食事をして、ショット・バーでアルコールを補給し、ホテルに連れ込む。やることをやればその場でサヨナラ。フィフティ・フィフティのドライな関係だ。彼女もそんな女の子の一人のつもりでお茶に誘った。
 いつもの通り、食事をし、アルコールを入れ、ホテルに向かった。ここまではいつも通りだった。しかし、ベッドを前にして突然身体の自由が効かなくなってしまった。先ず両脚から力が抜け、ベッドに崩れるように倒れ込んだ。眼前に迫るシーツに手を突こうとしたが、今度は腕が言うことを効かない。そのままうつ伏せに落ちていった。
「薬が効いたようね。」
 グイと仰向けにひっくり返される。彼女はベッドに転がる俺を見下ろしていた。
「薬?」どうやら、口は自由に動かせるようだ。
「そう、バーであなたがトイレに行っている間にグラスに入れておいたの。あなたは何も疑わずに飲み干したわ。」
 ベルトを外し、ズボンを抜き取る。シャツもボタンが外され、ゴロゴロと俺の肉体を転がしながら脱がしてゆく。本来は俺が自分でやる予定の事を彼女がやってしまう。あっという間に俺は丸裸にされてしまった。
「良い恰好ね。何も出来ない気分は最高でしょう?」
 彼女は見せつけるようにして一枚一枚服を脱ぎ去ってゆく。ビデオでAV女優を眺めるよりさらに始末に終えない。指先一本ままならずに、ただ彼女の瑞々しい裸体を見ているだけ。俺は何も出来ずにベッドの上に転がされていた。

 彼女の指が太股をなぞり上げる。ふくよかな胸を押しつけてくる。うなじに掌を当て、首筋に舌を這わせる。
「どお?気持ち良いでしょうU」
 確かに、何も出来ないでいるせいか、触感がいつになく敏感になっているようだ。
「我慢することないのよ。声に出してご覧なさいU」
 フッと耳の穴に息が吹き込まれる。
「ああっ」たまらずに声を上げてしまった。
 一度堰が切れると、身体の芯から怒濤の如く押し寄せてくる。
 彼女の舌が触れる度に、彼女の指が蠢く度に、幾度となく嬌声が上がる。
「あの薬には他に媚薬とかいろいろ混ぜてあるのよ。感じるでしょU」
 答える代わりに俺は最大級の媚声を上げた。それは媚薬だけのせいではない、手足を動かせないもどかしさ、彼女のテクニック、そして初めて経験する受け身のSEX、それらが相乗効果を上げている。
「良い声ねU女の子みたいだわ。かわいいわUあたしにされる度に感じるのでしょ?女の子はいつもこうなのよ。されるがままにいるのよ。選択の余地はないわ。あなたは遊びのつもりだったのでしょうが、捨てられた女の子はいい迷惑よ。そんな女の子達の恨みを思い知るが良いわ。」
 彼女の指が太股の内側を這い登ってくる。両脚の付け根に掌をあて、指を突き立てる。「あ〜〜っ」得体の知れない快感が脊椎を駆け登ってきた。
「良いでしょ?これが女の子よ。あの薬には強力な性転換剤も入れておいたの。おや、感じているの?悪い娘ね、もうこんなにぐしょぐしょにしてしまって。ご褒美にこれをあげるわ。」
 俺の眼の前に巨大なイボ付きのバイブをちらつかせた。俺には拒否することはできなかった。下腹部にそれが押し当てられた。
『痛!!』
 そいつが強引に押し入ってくる。強烈な痛みに悲鳴をあげてしまった。
「あ〜〜〜ッ!!」
 しかし、悲鳴は嬌声となんら変わらない。
「痛い?それとも感じているの?」
 いやらしく彼女が尋ねてくる。
「じゃあ、いくわよ。」
 バイブのスイッチが入れられた。俺の胎の中でそいつが蠢きだす。痛みと快感が一丸となって押し寄せてくる。そのパワーに俺はぶちのめされ、頭の中が真っ白になった。



 気がつくと手足の自由は回復していた。下半身はズキズキと痛むがどうにか起き上がれる。部屋の中に彼女の気配はない。が、その部屋には女がいた。
 壁に据えられた姿見に裸の女の姿が写っている。振り向くが誰もいない。
「俺か?」
 自分の胸に視線を落とす。昨日までなかった肉の双峰があった。下半身に手を当てるまでもない。彼女に飲まされた薬で俺は女になってしまったのだ。

 彼女は消えていた。ご丁寧に女物の服を一式置いていってくれた。(もともと俺の着ていた服はどこにも見当たらない)取り合えず、シャワーを浴びて汗を流す。適当に下着を付け(とはいってもブラジャーは苦労した)、スカートを穿く。ブラウスのボタンが左右逆なのには参った。かつらを付け(いくら薬でも髪形まではどうにもならないらしい)、とりあえずらしくなった。もちろん化粧とかは諦めている。ポーチに俺の財布や手帳(もともと俺の上着のポケットに入れていたやつだ)が入っているのを確かめ、部屋を後にした。

 ロビーに降りると、彼女がいた。
 俺は怒りに駆け寄ろうとしてバランスを崩してしまった。初めて穿くハイヒールではなかなか自由な行動がとれない。慌てて彼女が飛んできた。
「シッ」
 即座に口を塞がれた。
「チェックアウトは済ませてあるわ。おとなしくしてあたしの後についてきて頂戴。」

 彼女に連れられてきたのはマンションの一室だった。そこには何人かの先客がいた。
「覚えている?」
 言われるまでもない。彼女達は以前俺がナンパした女達だった。
「おまたせ。連れてきたわ。」
 彼女等の視線が俺に集中する。
「いい恰好ね」
「本当なの?」
「…」
 彼女等の反応は様々であったが、一様に俺を見る視線には刺があった。
「あたしの仕事はこれまでね。あとはあなた達に任せるわよ。」
 彼女はそのまま立ち去ろうとして一瞬振り返った。ショルダーバッグからなにやら取り出すと俺に投げて寄越した。
「これは記念にあげるわ。それであなたは一晩中ヨがっていたのよ。」
 巨大なイボ付きバイブを残して彼女は去っていった。後に残された俺は鋭い視線の中に立たされていた。
「へえ〜〜、これでねェ。」
 彼女等の一人が俺の手からバイブを取り上げた。確かミドリという名だった。
「本当に本物?」
 もう一人がブラウスの上から俺の乳房を掴んだ。
「痛!」夕べから俺は我慢することが出来なくなっていた。痛さに眼から涙さえ溢れ出ている。
「可愛いじゃない。」彼女はビリッとブラウスを引き裂き、ブラジャーを毟り取った。プルンと乳房が溢れ出る。俺は反射的に両腕で胸を被っていた。
 彼女の名はメグミと記憶している。残った3人目はアイコだ。彼女等は俺をどうしようというのだろうか?

 髪の毛を引っ張って俯いていた俺の顔を上げさせる。一緒にかつらも取れてしまった。「いや!!」俺は無意識のうちにかつらを取り戻し、頭に被せていた。
「恥ずかしいかい?」メグミがかつらに手を掛けた。
 俺はメグミの言葉にショックを受けていた。姿は女に変えられていても中身は男のままだと思っていた。が、俺は無意識のうちに胸を隠し、かつらを取り返していた。恥ずかしかったのか?冷静に自分に問いただすうちに、俺の中のもう一人の俺が「恥ずかしい」と言っているのが聞こえた。何が恥ずかしいかと聞くと「他人に自分の正体を見られるのが恥ずかしい」と答えてくる。
 では、お前の正体とはなにか?更に問いただす。が、ついに答えは返ってこなかった。もう一度、自分自身に問うてみる。俺は何者なのだ?この姿はどう変わろうとも、自分は『男』なのだろう?

 いつのまにか俺はミドリとメグミに押し倒されていた。スカートがたくし上げられ、下着も脱がされていた。
「ほら、抵抗しないで。」
 ミドリが俺の上半身を固め、メグミが両脚を抑えている。
 俺は無意識のうちに膝を閉じ、メグミの力に対抗していた。
「開きなさい!!」
「いやッ」反射的に俺の中のもう一人の俺が叫んでいた。
パシッと掌が飛んで来ては俺の頬をうち据えた。その痛みに一瞬抵抗が弱まった隙にメグミは俺の股の間に割り込んでいた。彼女の掌の中でバイブが唸りを上げていた。
「いや〜〜ッ」再び叫んでいる。俺の肉体の主導権はもう一人の俺に移ってしまったようだ。ジタバタと手足を動かすものの、彼女等の前には何の成果もない。
「本当にこの娘があの男なの?あたしには普通の女の子にしか見えないんだけど…」
 ようやくアイコが喋った。
「何言ってるの!!よもやこの顔を見忘れたとでも言うんじゃないでしょうね。」
「それはそうだけど…」
「今こそ、あたしたちの受けた屈辱を晴らす時よ。」
 メグミがバイブを振りかざす。
 ブスリッと一気に押し込んできた。
「痛!!」もう一人の俺と一緒に俺自身も叫んでいた。
「さあ、アイコも」ミドリが促す。
 アイコは手にした座薬を俺の肛門にぶち込んできた。とたんに便意を催してくる。蠢くバイブが拍車を掛ける。
「次はミドリね」
 バシッ!!その途端、眩しい光が俺を襲った。
 ジジッとフィルムが巻き上がる。カメラのレンズが俺を捉えていた。
「さあ、記念撮影よ。」
 カシャッとシャッターが落とされる。
 光の渦の中で俺は失禁していた。



 俺はシャワーを浴びさせられていた。3人の女達に寄ってたかって嫐りものにされたあと、バスルームに放りこまれた。今の俺からは何の気力も沸いてこない。女達にされるがまま、シャワーを浴びていた。
「今日からあなたは、わたくしたちの奴隷よ。」
 そう宣言されていた。
 全裸の女たちの前に立ってさえ、俺には何も出来なかった。するためのモノは消え失せてしまっている。歯向かえば拷問が待っている。なにより、彼女等に放り出されてしまったら俺は何も出来ないのだ。
 俺の前に彼女達は喜々として股を広げる。俺は舌先で彼女等に奉仕する。
 ご褒美に彼女等の聖水を頂く。
 俺の目の前で彼女等は交じりあう。そんな姿を見ていると知らぬ間に俺の下半身も濡れているのだ。俺はためらいつつもソコに指を伸ばしてゆく。知らず知らずの内に指を動かしている。彼女等と高まりを共有する。そしてアクメに達する。

 そっと肩を抱く手があった。振り向くとアイコがいた。いつのまにか、女たちの絡み合いの中から抜け出していたのだ。
「いつまでも仲間外れは寂しいわよね。」と、優しく声を掛けてくる。俺は慌てて股間に当てた掌を隠そうとした。が、アイコの手がそれを押し止める。
「いいのよ、そのままで。今度はあたしがヤサシクしてあげるから。」
先程とはうって変わった暖かな愛撫だ。アイコの掌が重ねられ、俺の指に沿って彼女の指も進入してくる。十分に濡れているせいか、スッと入り込んできた。もう一方の掌が乳房を包み込む。指先で乳首を弄ぶ。首筋に舌を這わせ、耳元に甘い息を吹きつける。
俺は全身を優しさで包まれ、何度も絶頂を迎える。
「あ〜〜〜〜〜〜U」
 今までベッドの上で聞いた中で最も甘美な嬌声を聞くことができた。俺はこの声を聞くために、これまで幾人の女と付き合ってきたことだろうか?それも、この『声』が聞けたことで報われた。惜しむらくはこの『声』の主が俺自身ということ…



 いつの間にか、俺とアイコの間にミドリとメグミも割り込んできていた。4つの女体が渾然一体となる。もう、俺は彼女等の奴隷ではなくなっていた。『女』の歓びを知ったことで、俺は晴れて彼女等の一員となることができた。どうすれば一番感じるか?いまの俺にはそれが判る。彼女達に与えられたように、俺も彼女等に与える。彼女等を愛撫しているのか、自分自身を愛撫しているのか判らない。4つの肉体は僕等4人で等しく分かち合っていた。俺の肉体はアイコのものであり、同時にメグミの肉体は俺のものとなった。
 精神が肉体の枷を離れて自由に動き回る。
 一時、俺は部屋の上から眺めていた。そこにあったのは毛皮のない獣の姿。性欲に狂った4匹の雌獣が絡み合っている。その雌獣は俺自身だった。愛撫に嬌声を上げ、別の肉体に愛撫を与えている。そして、感覚はまだ肉体と繋がっている。その姿を見下ろしながらも、突き上げてくる快感に魂を揺さぶらせていた。

 やがて、心地よい疲労の中で4人は眠りに就いていた。
 その部屋にもう一人の女が入ってきた。そもそもの発端となったあの女だ。
「どう?『女』になった感想は?」
「…」
「さあ、次に行くから支度していらっしゃい。」と手に持っていた紙袋を放った。受け取った紙袋を抱えてバスルームに入った。シャワーを浴びて、肌にこびりついた愛液の名残りを洗い流す。胸の谷間、下半身の三角地帯、新しい自分の肉体を確かめながら熱い水滴の下に晒す。
 バスタオルで身体を包む。紙袋の中は確かめるまでもなく、女物の服の一式だった。今度はセクシーな黒い下着と革のミニスカートと真っ赤なブラウス。ドライヤーで乾かした髪の上にかつらを被せて、バスルームを出ると彼女が化粧道具を広げていた。
「今度はしっかりとメイクしましょうね。」
 いわれるがままにファンデーションを塗りたくられ、付け睫毛を貼り付け、真紅のルージュで仕上げをする。指先も付け爪の上にマニュケアを塗り込めてゆく。先の尖ったハイヒールを履いて街角に立たせればコールガールそのままのようだ。



「ここで待っていて。」
 殺風景な部屋。本当になにもない。そこに立たせられていた。
 しばらくして扉が開いた。入ってきたのは彼女ではない。ぞろぞろと3人の巨漢が入ってきた。3人が3人とも股間を膨らませている。好色な笑みを浮かべて俺の前に立ちはだかった。
「なかなかマブイじゃん。」
「楽しませてもらうぜ。」
「元は取んないとな。」
 真ん中に立った男が俺の胸元を掴み、高々と釣り上げた。
「いヤ〜〜」俺は女のように悲鳴をあげていた。俺の無意識の行動は『女』そのものになっていた。俺の『無意識』は3人の男達に恐怖していた。
 もう一人の男が俺の後ろに廻るとスカートの中に手を入れ、ストッキングの縁に指を入れ、ショーツと一緒に膝の所まで引き擦り降ろした。股間に指を突き立てぐるりと指先をねじ込み、引き抜く。男は濡れた指先に舌を這わせ、雫を嘗め取った。
「美味、美味」
 あっと言う間に男達はズボンを脱ぎ捨て、股間を露出させていた。
「ほんじゃ、お先に」
 男の肉棒が迫ってくる。ストレートに俺の股間を目指してくる。太股を抱え込み、下から迫ってくる。狙いを定めて突っ込んできた。
「ア〜〜〜ッ」あまりの痛さに絶叫する。
 その声に気を良くして、男のモノが硬さと太さを増したようだ。
 上半身を支えていた男の手が外されると、俺の体重が加わって、男のものを更にくわえ込む。くし刺しにされた俺の肉体は、ただ、男のモノに支えられているだけだった。男が腰を動かすと、俺の肉体も彼の一部のように振り回される。
 俺は男たちの玩具でしかなかった。

 目の前に別の男の肉棒が押しつけられる。
「口を開けろ」
 言われるまでもなく、苦痛に悲鳴の連続となっている俺の口は閉ざされる暇もない。男は自分の命令に従ったものと、俺の開かれた口に肉棒を突っ込んできた。
 男達が相手では女達相手のような感覚の共有は望めない。奉仕し、奉仕されるという図式の成り立つ相手ではない。一方的に玩具にされるだけだ。あとは、男達が疲れるか、満足するかして開放されるのをひたすら待ち続けるしかない。これが「女」の立場なのだ。しかし、そんな事が判るような相手ではない。そういう俺とても女にされてようやく判ったことなのだから、これを奴らに期待するほうが間違っている。だから、この苦痛から逃れるにはただ、ひたすら耐え続けるしかないのだ。

 俺は虜囚だった。ただひたすら開放される時を待つ。肉体の檻の中に捉えられた、哀れな虜囚だ…

−了−


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