教えてあげるU



 俺の上に跨がったオンナは自ら腰を動かし、快楽を貪っている。ベッドの軋む音、素肌の間にまとわりつく粘液の音、それらを圧するようにオンナの喘ぎが部屋の中に響きわたる。
 俺は半分眠りながらそれらの「音」を聞いていた。
 やがて絶頂の嬌声をあげ、彼女は俺の横に身を横たえた。
「良かったU」
 彼女は俺の耳元で囁く。
「それは良かったな。」
 適当に返事していると、余韻を楽しんでいた筈の彼女が半身を起こし、俺の顔を覗き込んだ。
「すっごく良かったのよ。あんたノは最高U」
 俺がサイドテーブルの煙草に手を伸ばそうとすると彼女がそれを遮る。
「判る?もう最高なの。こんなにイッたのは始めてよU」
 彼女は両掌を俺の頬に当て、強引に視線を合わせようとする。
「判ってないでしょう。なら、あなたにも感じさせてあげるわ。」
 彼女が額を強く押し付ける。
「あなたにもオンナの悦びを教えてあげるわ。」
 俺の額に押し当てる力が更に強くなる。そして、その力がフッと消えた時、俺に覆いかぶさるようにしていた彼女の気配もまた無くなっていた。

 ベッドから身を起こし辺りを眺めてみたが、どこにも彼女はいないようだ。
(風呂場か?)
 俺はベッドを降りて風呂場に続くガラス戸を開けた。
 彼女がいる様子はない。
 が、脱衣籠には綺麗に折り畳まれた彼女の衣服があった。それは、俺が彼女と出会った時に着ていたものだ。他に着替えなど持っているようにはみえなかった。
(裸のままこの部屋を出ていった?)
 そんな事はありえない。まだ、この部屋のどこかにいる筈だ。
 俺は、脱衣籠から視線を離し、再び辺りを見回す。
 と、彼女が目の前にいた。
 思ったとおり、裸のままこちらを見ている。
「脅かすなよ。」
 そう言って、俺は違和感に気付いた。
 俺が見つけた彼女は鏡の中にいた。
 俺の動きに合わせて彼女も動く。
 俺の声が自分の声ではない。
 胸元を覗くと豊満な乳房がそこにあった。
 前を見る。
 鏡に写る俺の姿は俺自身のものではなかった。
 呆然とした表情の彼女がそこに写っている。
 左手を胸に当てると彼女も同じようにする。
 掌に乳房の重みを感じるとともに、俺の胸を押し上げる掌を感じていた。
(オンナの乳房はこういう風に感じるのか)
 そんな思いが沸き上がると同時に、彼女の言葉を思い出した。

『あなたにもオンナの悦びを教えてあげるわ。』

 無意識のうちに胸に当てた掌から指が伸びる。
 それが乳頭に触れた。
 ビクンッ!!
 全身を電気が貫いていったような感じがした。
 その強烈な感覚の余韻からじわじわと快感が広がってゆく。
(これがオンナの快感?)
 それは男が感じるエクスタシーを上まって余りある。
 しかし、これはまだ序の口にも達していないのだろう。
 俺は指先で乳首を挟み、捻り上げてみた。
「ああっU」
 耳元に彼女の喘ぎ声が届いた。
 それは俺の発したものだった。
 男が女のように喘ぐなどとは許し難い事ではあったが、今の俺には我慢する事が一切できなくなっていた。
 空いた右手が股間に導かれる。肉襞の合わせ目に沿って指を這わせる。指先に液体がまとわり付く。
(愛液?)
 それは、俺の躰から滲み出ていた。
(これが、オンナの躰…)
 俺は自分の股間にある秘口に指を押し当てた。
 ヌメリッと指先が喰わえ込まれる。
 いや、俺の躰の内に侵入してくるモノを感じる。
「あ〜〜〜〜〜〜〜っU」
 指の腹が敏感な所に触れ、思わず声をあげてしまった。
 と同時に、脚から力が抜け落ちる。膝が折れ、俺は崩れ落ちるように脱衣所の床の上にへたり込んでしまった。
 俺の股間からは愛液が溢れ出る。
 離れてしまった指をもう一度秘所に這わせる。
 今度は慎重に指先を挿入する。
「あ〜〜〜〜〜〜〜っU」
 再び敏感な所に指が触れたとき、俺はそこからもたらされる快感に身を委ねた。
 俺の喉からは自然とオンナの嬌声が紡ぎ出されていた。

「どうだい?オンナの感覚は。」
 男の声に俺が振り仰ぐと、鏡の中に『俺』の顔があった。
 彼女の姿をした俺の後ろに男の『俺』が立っていた。
「さあ、これからオンナの悦びを教えてあげよう。」
 彼が屈み込むと、グイと俺の身体が持ち上げられた。俺はそのままベッドに運ばれた。
「キャッ」
 ベッドの上に落とされた時、俺はオンナのように叫んでしまった。
「ずいぶんと可愛くなったな。」
 彼の指が俺の顎に掛かり、彼の方に向かされる。
 彼の顔が迫る。
(男とキス?)
 とっさに彼を押し退けようと両手を突き出した。が、俺の両手は事も無げに彼の手で押し止められた。
 さらに、彼は片手で易々と俺の両手を抑え込む。
「暴れるんじゃない。折角の可愛い顔が台無しになってしまうぞ。」
「やめろ!!」
 俺は凄味を効かせたつもりだったが、この声では迫力のハの字も出ない。
「おとなしくするんだ。お前には、これからゆっくりとオンナの悦びを教えてやるんだからな。」
「そんな事はいい。それよりも、すぐに元に戻すんだ。」
「良いのかい?お前の躰はそうは言っていないよ。ほら、始めてのくせにオマンコはもうお汁でぐちょぐちょになっているじゃないか。」
 彼の指が俺の股間を撫であげる。
「ああっU」
 自分の手で触れた時よりも感じてしまう。
 彼がこの躰の事を熟知しているからか、それとも単に自分以外の『他人』に触れられたからなのだろうか?
「ほら、感じているのだろう?」
 彼は俺の愛液に濡れた指をペロリと舐めた。
「準備は良いようだな。それではコレを入れてあげよう。」
 そう言って見せつけられた『俺』のモノは、記憶にあるものよりも一回りも太く、逞しく感じられた。
(『男』に抱かれる?)
 俺の頭の中は嫌悪感に満たされていたが、俺の躰は別の反応を示す。
 股間から溢れる蜜の量が増える。
 抵抗しようとするが、身体に力が入らない。
 それどころか、自然と肢体が開かれてゆく。
 脚を抱えられると彼の目の前に俺の秘部が晒け出される。
「いやっ!!」
 声だけは俺の意志を伝えるが、まるでオンナのようだ。
 首を左右に振ると、長い髪の毛が汗で頬に貼り付く。
 男の舌が俺の濡れた肉襞を舐めあげる。
「ああんU」
 快感が躰を貫いてゆく。
 脳髄が揺さぶられる。
「いくぞ。」
 男の声に俺は抵抗する事さえ忘れていた。
 俺の股間に『男』のモノがあてがわれる。
 焦らすように、その先端を割れ目に沿って往復させる。
(早く頂戴っU)
 俺の心の奥からそんな『声』が聞こえてきた。

 ズブリッと『男』に貫かれた。
 俺の頭の中が真っ白になる。
「あ〜〜〜〜〜〜〜っU」
 アタシの媚声が部屋の中に響きわたる。

 アタシは彼の上に跨がり腰をくねらせていた。
 ベッドの軋む音、素肌の間にまとわりつく粘液の音、それらを圧するようにアタシの喘ぎが部屋の中に響きわたる。
 半分眠っている彼を余所にアタシは快楽を貪っていた。
 やがて絶頂を迎える。
 アタシは嬌声をあげ、彼の横に身を横たえた。
「良かったU」
 アタシは彼の耳元で囁く。
「それは良かったな。」
 アタシは半身を起こし、彼の顔を覗き込んだ。
「すっごく良かった。最高ヨU」
 アタシは両掌を彼の頬に当て、視線を合わせる。
「ありがとうUオンナの悦びを教えてくれて。」
 彼の額にアタシの額を強く押し当てる。
 そして、その力がフッと消えた時、アタシの下になっていた彼の気配もまた無くなっていた。

 俺はベッドの上に横たわると、悦楽の余韻を心ゆくまで楽しんでいた。


−了−


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