オ ト モ ダ チ



 鏡の中に居るのは誰?
 確かに鏡は『僕』を写しているはずだが、鏡の中に映っているのは全くの別人だ。
 サラサラのロングヘアー、ふっくらと赤みを帯びた頬、つぶらな瞳、愛らしい唇。
 鏡の中には見知らぬ少女が映っていた。

「もしもし?」
 と、問いかけると。
「ハイハイU」と愛らしい返事が返ってきた。
「どなたですか?」
 考えてみると間抜けな問い掛けではあるが、彼女はさらにとんでもなかった。
「あたしは『鏡の精』です。」
「何か御用ですか?」(あゝ、どんどん間抜けになってゆく)
「あら?あたしは呼び出されてきたんですけど…」
「僕はそんな事をした覚えはないよ。」
「まあ、いいじゃないですかU」
 鏡の精はケロッとして続ける。
「とにかく、あたしは呼び出されました。ですから貴方の願いを叶えてあげます。」
「そ、そんなんで良いんですか?」
「だいじょ〜ヴ。何も心配いりま・しェ〜んU」
 ますます心配になってくる。
「で、アナタの願いはな〜にかなァ〜〜〜?」
「そりャあ、ナイ・ことは無いんですが…」
「はは〜ん。恋の悩みねッU」
 鏡の精はググッと俯いた僕の顔を覗き込んでくる。
「好きな娘に声も掛けられない。ズボシでしょう。」
(ズキッ!!)
 彼女の言葉が音を発てて突き刺さって来た。
「そんな貴方の願いはズバリ!『その娘とオトモダチになりた〜い』ねッU」
「そ、それはそうだけど…」
「だ・い・じょ・う・ぶ、あたしに任せおいてU必ずオトモダチにさせてあげるわ。」
 半信半疑にいるうちに、彼女は何やら儀式めいた事を始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。こういう場合、何か代償がいるんじゃないか?たとえば僕の魂とか…」
「それは悪魔の場合よ!あたしは単なる鏡の精。そんなものはイリマ・せ〜んのU」
「そんなら良いんだけど…」
「ウジウジしてないでシャンとしてッ!しばらくの間そのまま動かないでね。」
 彼女は儀式を再開した。



 その娘の事は単なる僕の片思いでしかない。それに美人で優しいから皆のアイドルなんだ。だから『友達』で良い。『恋人』なんて図々しい事は言わない。友達になって彼女と少しでも一緒にいたいんだ。
 彼女の名前は臣堂洋子。学校では同じクラスだが、彼女は太陽の如く輝いているのに対して、僕ときたらゴミ箱の底に固まった糸屑のように誰からも忘れ去られた存在でしかない。
 そんな僕が彼女と話をする事など、ましてや『友達』になりたいなどとは、到底無理な相談である。今、鏡の精と名乗る少女が願いを叶えてくれるという。到底信じられない事ではあるが、ダメモトで事の流れに身を任せてみることにした。

「貴方の名前を聞いていなかったわね。何て言うの?」
 鏡の精の言葉で現実に引き戻される。
「武藤伸二」
「シンジ君ねUじゃあ、最後の仕上げに入るから目を閉じてくれる?」
 言われるがままに目を閉じる。
「では、シンジ君。」
 彼女の言葉はこれまでと打って変わって厳かなものになった。
「これから3つ数えると、貴方は生まれ変わります。生まれ変わったアナタなら必ず彼女とオトモダチになれます。私を信じて下さい。そして、強く念じて下さい。」
 僕は閉じた瞼に力を込め、言われる通りにした。
「良いですね?」
 僕は頷いた。
「3!」
 心臓がドキドキする。
「2!」
 身体中がカッカと燃え盛る。
「1ッ!」
 パッ!!とフラッシュが焚かれるように一瞬、強烈な光に包まれた。
「さあ、良いわよU目を開けてご覧なさい。」
 ゆっくりと瞼を開く。
 鏡の中には彼女の姿はなかった。僕の顔が映っている。
「これで、彼女と『オトモダチ』になれるわ。」
 鏡の中の『僕』が喋っている。
「さあ、外に出てごらんなさい。すぐに彼女はやってきます。アナタはなにもしなくて大丈夫ですよ。彼女の方から声を掛けてくれます。あなたがOKすればすぐに『オトモダチ』になれます。これで私の使命は遂行されました。」
 鏡の中の『僕』が、ウインクする。
「じゃあ、ガンバッテねッU」
 そして、鏡の中から『僕』が消えた。



「??!!」
 鏡の中から『僕』が消え、代わりにあの『鏡の精』の姿が映っていた。
 確かに彼女は去っていった。
(では、鏡に映っているのは誰だ?)
 鏡に顔を近づけると彼女の顔も近づいてくる。
 首を傾げると同じように彼女も首を傾げる。
 鏡に写したように…
(コレハかがみダ!)
 だから、鏡に映っているのは僕自身?

 一歩づつ後退する。
 壁に背中がくっついた。
 鏡の中には女の子が居た。壁に背中をくっつけている。
 彼女は、僕の学校の制服を着ている。
 バッチは僕のクラスだ。しかし、こんな娘は居なかったはずだ。
 ズルズルと壁に沿ってしゃがみ込む。
 鏡の中の娘も同じ動作をする。
 スカートが捲れる。
 ふと、目を落とすと僕の脚に紺色の布がまとわりついている。
 僕はスカートを穿いていた…
 これは僕の学校の女生徒の制服だ。
 すぐ脇に学生鞄が転がっていた。
 中を覗くと学生手帳があった。
 表紙を開くとそこには学生証がある。
 写真の顔は鏡に写った少女である。
 名前を確認する。
『武藤信子』
 ムトウ ノブコ…

 ふぅ、と大きくため息をついた。
 鏡の精は僕を女の子に変身させていった。
 これは、もう事実として受け入れる他はない。
 こうなったら、鏡の精の言った事をあてにするだけだ。
 どんな姿になったとしても、臣堂洋子と友達になれるならそれで充分ではないか。
 鏡の精は何と言った?外で待っていれば彼女が来る?
 はたして、彼女は来た。
 僕は近くの公園の入口に佇んでいた。
 道行く人は僕のことなど見向きもしない。
 行き過ぎる人々を眺めて暫くすると、反対側の歩道に彼女の姿が現れた。
 僕はじっと彼女を見ていた。
 公園の前を行き過ぎて、ふと彼女は立ち止まった。
 振り返り、首を傾げる。改めて辺りを見渡す。その視線が僕を捉えた。
 にっこりと彼女が微笑む。
 そう、僕に向かって微笑んでくれたのだ。
 自動車の流れが途切れるのを待って、彼女は走ってきた。
「武藤さんね?」
 コクリと頷いた。僕の心臓はバクハツしそうだった。
 夢にまだ見た臣堂さんが僕の目の前に立って僕を見ている。
 そればかりか、僕に話しかけてくれているのだ。
「お手紙拝見させて頂いたわ。」
 彼女は鞄から便箋を取り出した。
『臣堂洋子様            武藤信子』
 どうやら僕=信子が彼女にこの手紙を出したみたいだ。
 しかし、どうみてもこれはラブレターだ。
 女の子が女の子にラブレターを出すなど常軌を逸しているのではないか?
「ありがとう。うれしいわ。」
(????????)
「あたくしも信子さんの事をずっと気にしておりましたのよU」
 な、なんという展開なんだ?
「よろしければ、あたくしの部屋へいらっしゃいません?すぐ近くですのよU」
 オトモダチになれる?
 僕の期待とは若干異なるが、鏡の精の言うとおりに事は進んでいるようだ。



 出されたジュースは飲み干してしまった。
 ストローを弄んでいると、彼女が立ち上がった。
「少し蒸し暑いですわね。エアコンの具合が悪いのかしら?」
 確かに、汗ばんできている。
「『ノンちゃん』て呼んでかまいませんか?あたくしのことはヨーコと呼んで下さいね。あたくしたちはもうオトモダチですものねU」
 彼女は僕の後ろに廻ると上着のボタンを外し始めた。
「暑いでしょう。もっと寛いで良いのですよU」
 彼女の腕が僕の胸に押し当てられる。
 今の僕の胸には当然のごとくバストが鎮座している。
 ボタンを外す度にバストの先端にヘンな刺激が与えられる。
(何?この感覚は?)
「ノンちゃんて着痩せするタイプかしら?」
 彼女の掌がブラウスの上から僕のバストを揉み上げる。
「あンU」
 思わず声が漏れてしまった。
「あら、良い声ネU」
 目の前に彼女の顔が回り込んでくる。
 彼女が覆いかぶさってくる。
 椅子の背もたれが倒され、僕は彼女に組み敷かれていた。
 彼女の顔が更に迫ってくる。
 チュッU
 僕の唇に彼女の唇が軽く触れ、そして離れていった。
「……」
 僕は何も言えなかった。
 唖然と彼女を見つめている。
 クスッU
 彼女が微笑む。
 再び彼女の顔が近づいてくる。
 僕はゆっくりと瞼を閉じた。
 彼女の唇が合わさる。
 舌先に触れてくるものがあった。
 彼女の舌が絡んでくる。
 僕は彼女が貪るに任せていた。
 そこには不快な感覚は全くなく、かえって心地よい快感に満たされていった。

 彼女の唇は僕の唇から離れてもなお、動きを止めなかった。
 首筋を伝い、いつの間にか肌けられた胸の谷間を彷徨っている。
 巧みに衣服が剥ぎ取られてゆく。
 彼女の唇はさらに下降してゆく。
 腹筋の分かれ目を辿って臍の所で一時停止。
 穴の回りをぐるりと廻って行程を再開する。
 やがて彼女の唇は茂みをかき分けて、僕のもう一つる唇に達した。

 僕のソコは愛液に溢れていた。
 彼女の舌がペニスだったものに触れる。
「あンU」
 思わず声が出る。
 僕の小さくなったペニスはそれでも一人前に硬くなっている。
 そんなペニスを彼女の舌は良いように嫐り輪す。
 彼女の巧みな技に僕の内で何かがパチンと音を発てて弾けて飛んだ。
「イクッーーーーー!!」
 僕は一気に上り詰め、そのまま果ててしまった…



 僕はフカフカのベッドの上に寝かされていた。
「あら、お目覚め?」
 半身を起こすと、洋子の姿が目に入った。
 風呂から出たばかりのようで、バスタオルを肉体に巻いていた。
 ベッドの端に腰を下ろす。
 洗いたての髪から甘い香りが漂う。
「あたくしのコト嫌いになりました?」
 僕はあわてて首を左右に振った。
「ごめんなさいね。わたくしノンから手紙を頂いて、嬉しくて、有頂天になって、何にも考えられなくなって…」
 そのまま彼女は俯いてしまった。
 そんな彼女のしなじにいとおしさを覚えていた。
「そんなコト…ない。」
 ようやく言葉を紡ぎだした。
「ヨーコと友達になれて、うれしいよ。」
 彼女の顔が上がる。
 その顔には不思議な笑みが浮かんでいた。
「アリガトウ」
 そういう彼女の手を引いてベッドの上に引きずり上げた。
 はずみでバスタオルが舞い落ちた。
「?!」

 一瞬、ふたりは凍りついた。
 洋子の裸体が目の前に晒け出された。
 その股間から目が放せない。



 最初に呪縛から開放されたのは僕の方だった。
 鏡の精に出会ってからの事を思い返してみる。不思議な事だらけだ。
 それでも僕は洋子さんと友達になれた。いや、『友達』以上の関係になっている。
 僕の姿は女の子に変わってしまったが、それが何だというのだろうか?
 いや、これは僕の最高の望みを叶えてもらえるのだ。
 必死になって僕は自分自身を説得した。
 一度は諦めたのだ。僕は女になってしまったのだ。
 女同士であれば、それ以上の関係など望みようもないのだ。
 しかし、目の前の現実はその望みが叶えられる唯一の希望だ。

 僕はゆっくりと腕を延ばし、彼女の股間に触れた。
 掌で彼女の男性自身を包み込む。
 屈み込み、その先端に唇で触れる。
 僕はさらに顔を近づけ、萎えたままの彼女を口に含んだ。
 掌を添え、指先で袋の裏を刺激する。
「あ〜〜んU」
 今度は彼女の口から吐息が漏れだす。
 口の中ではムクムクと質量を増してきた。
 硬くなり、先端が喉の奥にぶつかるようになった。
 喰わえきれず、僕は側面にまわって舌を使った。
 先端から透明な液体が漏れ出てくる。
 立派な男性自身だ。
 僕は舌先でその透明な液体を嘗め上げた。
 舌の先端がカレの敏感な部分に触れる。
 彼女が一瞬、緊張する。
「アッ!!」
 小さな叫び。
 ドクン!
 迸りが勢い良く放たれる。
 ソレは僕の顔面を直撃した。

「ゴメンネ。」
 洋子さんが拭き取ろうとタオルに手を掛ける。
「いいよU」
 僕は舌を延ばして口の回りのモノを嘗め取る。
 それを見た洋子さんも舌を延ばして僕の顔に近づいてくる。
 頬、眉間、瞼の上と綺麗に嘗め取ってゆく。
 二人の裸体が密着していると、案の定彼女の下半身が復活してきた。
 僕はソレをそっと握り締める。
 二人の視線が絡み合う。
「いいの?」
 彼女が尋ねる。
 僕は大きく縦に首を振った。
 ギュッと抱き合うと、下腹部に硬いモノが押しつけられる。
 そのまま身体をずらすと、戸口に先端が触れてくる。
 僕のソコは熱くなり、愛液を滴らす。
「いくわね。」
「うん。」
 異物が胎内に進入してくる。
 僕の肉体は彼女自身を感じ取っている。
 僕は今、はっきりと自分がオンナであることを自覚した。
 洋子さんの男性をしっかりと受け止めている。
 オトコとオンナ、立場こそ入れ違っているものの僕たちは結ばれたのだ。

 僕は痛みに堪えながら、洋子さんと一体となれた悦びにうち震えていた。

−了−


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