机の上の魔方陣の中から卵のような頭が半分だけ現れる。
 線で描いたような眉毛と目、やたらと大きな半月状の口。
 頭髪はなくまるで卵に描かれたようだ。
 尖った耳と鉤鼻があって始めてそれが卵ではなくヒトの顔である事が判る。
 右半分だけ現れた顔が喋った。
「お前さんがワタシを呼び出したのかね?」
 ボクは手にした本のページをめくった。
 挿絵とは違うが悪魔が召還されたのだ。
 ボクは書かれた文章を読み上げる。
「汝、メラネスとの契約により現れし悪魔よ。契約に従い我が望み叶えよ。ラキエムとシラネンの理により、新たな血の契約を交わす。」
 コンパスの針を親指に突き刺した。
 痛みとともに、皮膚の上に血の山が盛り上がる。
「それは痛いだろう。」
 魔方陣の悪魔が口を挟む。
「判ったからその辺で止めておけよ。そんな儀式などなくとも、望みなら叶えてやるさ。だから、そいつをワタシの顔に塗りたくるのは止めてもらえないかね?折角の美貌が台無しになる。」
「いいの?」
 思わずボクは答えてしまった。
「そうさ。契約がなければお前さんとは対等でいられる。契約などなくともやってやるくらいのサービスはしてやるよ。」
「そうなの?」
「うむ。しかし、ワタシが嘘を言ったとしても一度中断した儀式は既に無効になっているからお前さんはもう、どうする事もできないんだがね。」
 つまり、これから先ボクの望みが叶うかは彼の気持ち次第という事だ。
 呆然としているボクの指を彼がしゃぶった。
「これで血は止まった筈だ。」
 魔方陣の中からろくろ首のように頭だけが宙に浮いている。
 腰が抜け、椅子の上に座り込んでしまった。
 やがて魔方陣の中から手が伸びてくる。机の縁に手を掛け、ぐいと引き上げる。上体が現れると同時にその分だけ首が縮まる。脚が伸び、机の上に乗っかると奴は一気に魔方陣から脱出した。
 反動で宙に投げ出されたが器用に空中回転し、ボクのうしろに着地した。
 回転椅子の背を持ってぐるりとまわす。
 奴の姿がそこにあった。
 魔方陣から覗いていた卵型の顔はそのままに、コミカルな3頭身の手足が付いている。
「先ずは、はじめまして。」
 奴が大仰に挨拶する。
「で、ワタシは何をすれば宜しいでしょうか?友人としてなんなりと望みを叶えてさしあげましょう。」
 奴の軽さに少しリラックスできてきた。手続きはどうであれ、どうやらボクの望みは叶えてくれるらしい。
 ボクは大きく深呼吸した。
 そして、予てより繰り返し何度も呟いて来た言葉を発した。
「ボクは復讐したい。」
 やつは細い目を波うたせていた。
「これはこれは。復讐とはまた剣呑な。復習の間違いではないでしょうか?」
「茶化さないでくれ。ボクは真剣なんだ。」
「わかった。わかった。で、何が望みなんだい?」
「茶化すのは止めろと言ったはずだ。ボクの望みは復習する事だ。」
「別に茶化している訳じゃないが、復讐すると言っても具体的にしてもらわないとワタシも対応に困ってしまうんだがねぇ?」
「?」
「だから、誰にどんな事をすれば良いのか教えてもらわないと。」
「相手はクラスの全員だ。一人一人の名前も必要なのかい?」
「いや、そこまではいらない。が、相手によって復讐の内容が違うのなら、結局は必要になってくるがね。」
「じゃあいいや。みんな同じで構わないよ。」
「それでは、復讐の内容について教えてくれ。」
「内容?復讐する。じゃ駄目なのかい?」
「それはそうだ。お前さんがどんな仕打ちを受けたのかも判らない。判ってもどんな事をすれば復讐になるのかなんて、当の本人以外知る事など出来ないものなのだよ。」
 奴が諭すように喋る。3頭身で言われると説得力に欠けるが、言われてみて始めて気付く事もある。
「そんな事、考えた事もなかった。」
 ボクは素直に同意した。
「じゃあ、ボクの願いは叶えられないの?」
「そんな事はない。ワタシと二人で考えれば大丈夫だよ。」
 諦めきっていた所に、思わずも奴が優しい声を掛けてくれた。
「時間は充分にある。先ずはお前さんの受けた仕打ちから話してもらえないかい?」
 こうしてボクは学校で受けたイジメの数々を時間の経つのも忘れて奴に話して聞かせた。
 そう、どれだけ時間が経ったのかも判らなかったが、ふと時計を見て唖然とした。そう、ボクが召還の儀式を始めてから、まだ1時間も経っていないのだ。少なくとも3時間は奴と話しをしていたように思っていた。
 奴がボクの視線を追った。
「そうさ。今、時間は止まっている。だからワタシが言ったろう?時間は充分にあると。」
 確かに、時計の針はピクリとも動かない。秒針は付いていないので、試しにゆっくりと60まで数えてみる。やはり長針は微動だにしない。
「では続けよう。お前さんの受けた屈辱はだいたい判った。基本的には悪戯と暴力による肉体的な苦痛。それと、一人だけ仲間外れにされた疎外感。劣等感がさらに自分を追い詰めている。という所だろう。」
「それだけじゃない。言葉には出来ないけど、もっと何かこう…」
「止めておきなさい。無理に言葉にする必要はない。そのエネルギーがあれば後で有効に活用できるというものだ。」
「けど、言葉にできないと何もしてくれないんだろう?」
「まあまあ、焦りなさんな。ワタシが聞いた範囲でだいたい理解している。しかし、一つだけ問題がある。」
「何なの?」
「お前さんが受けた仕打ちを物理的にやり返す事は問題ない。精神的なものもある程度は出来る。ただ、仲間外れという状況を作り出すのは、お前さんの言った『みんな同じで良い』と言う所で矛盾が生じる。みんなを同じように仲間外れにすれば、結局仲間外れになるのはお前さんしかいなくなる。誰か一人だけなら仲間外れにする事が出きるんだがね。」
 ボクは「う〜ん」と考え込んでしまった。
 ボクと同じ思いをみんなにさせてやろうと思ってもそれは出来ない相談と言う事だ。
「じゃあ、どうすれば良いの?」
「極論すれば復讐なんて止めるんだな。このままだと、単なる暴力のみの仕返しでしかなくなるだろう。お前さんの望むような復讐とは掛け離れたものだ。一人一人別々にやっていっても結局は同じ事になる。だから、復讐など止めてしまいなさい。それに、お前さんの本当の望みはもっと別なものなんじゃないのかね?」
「ボクの本当の望み?」
「そうだよ。何でお前さんが復讐をしたいと考えたのか思い出してご覧。単に暴力を振るわれたから、その仕返しをしようと思ったのかね?違うだろう?お前さんはみんなから仲間外れにされ、劣等感の塊になっていた。みんなにも同じ劣等感を味合わせ、自分とみんなを同一レベルにもってきたかったんじゃないのかね?更に言えば、いち早くその劣等感を味わった自分がみんなより優れていると思いたかったんじゃないのかね?」
 言われてみれば確かにその通りに違いない。
「そう、だからお前さんの望みの本質はその劣等感の解消、さらには皆に対する優越感の獲得にある。ひらたく言えばみんなに慕われ、憧れの的となる事だろう。」
「でも、ボクは頭も良くないし、スポーツもだめ、見た目も良いとは言えないどころか良い所を探すのに苦労するくらいだ。そんなボクがみんなの憧れの的になんかなれる筈もない。」
「ふぅむ。頭を良くしたり、スポーツ万能にしたりとかは出来ないが、容姿を見栄え良くするくらいは問題ない。」
「けど、それだけじゃ駄目なんじゃない?いくら格好良くても運動か勉強かどちらかできなければ同じ事だよ。」
「いや、勉強も運動もできなくてもみんなの憧れの的になれる方法がない事もない。バカでドジでノロマでも可愛ければ全てが許されるって事もある。そうだ、アイドルだ。アイドルになれば全て解決する。」
 奴はボクそっちのけで独り陽気に踊り回っていた。
 ぐるぐると踊り回る姿を見ていると目眩がしてきた。
 でも、奴から目を離す事はできなかった。
 既に奴は魔法をかけていた。
 奴の踊るステップが複雑な精霊文字を描いていた。
 目の前が暗くなる。
 ボクは椅子から転げ落ち、気を失った。


「おはようU」
 クラスメイトの女子に声を掛けられた。
「お、おはよう。」
 ボクは戸惑いつつも挨拶を返した。
 気がつくとボクは登校中だった。ここまでボクは無意識のまま歩いていたようだ。無意識のまま、起きて、着替えて、食事して…
 そして、クラスメイトに声を掛けられて始めて正気に戻った。
「おはよう。」
 再び声を掛けられる。
「おはようございます。」
 ボクはこれまで自分から挨拶しても、他の人から先に挨拶された事など記憶にない。それも、女子ばかりがボクに声を掛ける。
 どういう事だろう?
 校門の所に隣の席の中山がいた。
「中山君。おはよう。」
 ボクの方から声を掛けてみる。
「お、おはようございます。」
 中山の方が固くなっている。
 頭の中をハテナマークで一杯にしながら校舎に入る。下駄箱の蓋を開けると、下履きの上に白い封筒が積み重なっていた。
 一枚を取ってみる。
 裏にはUのシールで封がされていた。
(ラブレター?)
 他の封筒も見てみるとどれも似たりよったりだった。そして、そのどれも差出人が男子生徒なのだ。
(何で?)と思いつつも、上履きを取り出す。
 履き替えようと足元を見て驚いた。ボクはズボンを穿いていない。スニーカとソックス、そして剥き出しの脚があった。
 これも、みんなの嫌がらせなのか?ズボンを穿き忘れたボクを嘲笑うかのように何気なくおはようと声を掛ける。そして、影でみっともないボクの姿を指さし笑い転げているのだろうか?
 しかし、それにしては不自然な所が多い。
 なんで下駄箱のラブレターの山が必要なのか?そもそも、ボクがズボンを穿かないで登校する事を事前に知る事は可能か?ボクが今まで気付かない事まで計算に入っていたのか?
 ボクはもう一度足元を見た。
 確かに剥き出しの脚がそこにある。半ズボンを穿くと脛毛のない白い脚で女のコと間違えられる事もあったが、制服に半ズボンなどない。それに、今のボクは半ズボンさえ穿いていないのだ。
 長めの白いベストの下から太ももが伸びている。が、そのわずかの隙間に紺色の布地が見えた。
(何だろう?)
 良く見ると、それは女子の制服、超ミニのスカートの一部だった。
 ボクがスカートを穿いている?
 もう一度自分の姿を見る。ボクは制服に定められた紺色のブレザーを着ていた。が、ネクタイの代わりに同じ柄のリボンが結ばれている。白いシャツは女物のブラウスだ。校章のワンポイントが入った白いベストが胸の曲線を描いている。
 スカートだけでなく、ボクは女子生徒の制服一式を着ていた。たぶん、下着もそうなのだろう。今ここでスカートを捲くって確認する訳にはいかないが、胸の廻りにあるのはブラジャーなのだろう。ボクの大きめのバストをゆったりと包んでいる。
(?)
 今更ながらにして気付いた。ボクの胸は大きく張り出している。一人前のバストがボクの胸に付いていた。
 そして、ボクは奴の言葉を思い出した。
「アイドルじゃ、アイドルじゃU」
 そう言って奴は踊り回っていた。奴の頭の中の「アイドル」が何だったのかようやく判った。カッコいい男優でも、可愛い美少年も奴の頭にはない。ただ可愛い顔に立派な巨乳さえあれば、頭も反射神経も関係ない。それが奴の「アイドル」の定義だったのだ。
 ボクは大きく深呼吸し、上履きを下駄箱に戻した。中にあった封筒の束を学生鞄に放り込むと、登校する生徒の流れに逆らって来た路を戻っていった。



「どうだね?注目されるって良い気持ちじゃろう?」
 奴はまだボクの部屋にいた。そのボクの部屋もまた、女のコの部屋っぽく変わっていた。
「ど、どうなっているんだ?ボクはどうしちゃったんだ?」
「どうって、お前さんの望みを叶えてやったまでのこと。お前さんは復讐を止めてアイドルになることにしたのじゃろう?」
「けど、これはボクじゃない。」
「姿形はどんなに変わろうとも、お前さんはお前さんじゃよ。」
「けど、何で女のコなんだ?」
「ワタシだって男性アイドルのいる事ぐらいは知っておるさ。じゃが、お前さんをあれこれ手を加えて男性アイドルにするよりはこっちの方がめちゃくちゃ楽だったのでなぁ。ほっほっほっ。」
「…」
「じゃが、お前さん自身女のコになりたかったんじゃないのかね?」
「ば、ばか言うな。」
「貧弱な身体、背も高くない。白い肌やムダ毛のない脛が恥ずかしかったのじゃろう?男のくせにとか、男の子でしょうとか言われ続けた劣等感が溜まっていたんじゃないのかね?」
「そうだけど、だからといって女のコになりたかった訳じゃない。」
「そうかな?女のコの綺麗な服に憧れてたのじゃろう?男の服じゃオシャレにも限界がある。女のコなら色々なアクセサリーを身に付けても何も言われる事はない。お化粧だって出来るのだよ。」
 ボクは否定した。無条件に否定する事を強いる事でボクの中にあるモヤモヤした思いを断ち切ろうとした。
 否定しなければ、ボクが女のコになりたいと思っている事になってしまいそうだった。確かに奴の言う事は否定しきれるものではない。
 だからといってボクは女のコになる事を望んでいた訳でもない。
「それとも、もっと別の理由で女のコになりたかったのかな?」
 奴の卵形の顔がニヤついている。
「女のコは男の何百倍も気持ちが良いそうだね?」
「気持ちが良いって?」
 聞きながらも、ボクは奴が何を考えているのか判っていった。
「もちろんSEXだよ。お前さんもアソコに突っ込まれてヒイヒイ言って絶頂に達したいって訳だ。お前さんの年頃ならSEXの悦さを充分見聞きしているのだろう?」
 そう言って奴はズイとボクに近づく。
「もしかしてお前さん、童貞なんじゃないのかね?」
「そ、そうだよ…」
「それは悪い事をした。しかし、筆降ろしはできなかったが、お前さんの処女はワタシがもらってあげよう。」
 いつの間にか奴の手に魔法の杖が握られていた。
 奴が杖を一振りすると、ボクの着ていた服が一瞬で剥ぎ取られた。服の下には女のコの裸体があった。
 形の良いバストの先にピュンと乳首が勃っている。
「良い身体じゃU」
 そう言った奴の口がパカリと開き、中から幅広の舌が蛇のように伸びて来ると、ペロリとボクの下半身を舐め上げる。
「キャン!!」
 ボクは女のコのように悲鳴を上げ、その場にペタリと座り込んでしまった。
 そして自分が裸にされた事を思い出す。
 慌てて股間を隠すように掌を当てた。
「?」
 掌はピタリと股間に密着する。いつもの邪魔なモノがそこに無い。
 手を退けて覗き込む。
 プラプラとぶら下がっていた醜いモノは姿を消していた。
 そこに、後ろからお尻の谷間を割って侵入してくるモノがあった。
「いやんっ!!」
 ボクは両手を後ろに廻し、そいつを捕まえる。ぬめりとするような手応え、どくどくと脈打っている。そいつはボクの抵抗をものともせずに這い進む。
 股間からぬっとそいつの先端が現れる。蛇が鎌首を持ち上げるようにそいつが上を向くと、ボクのオチンチンが戻って来たような錯覚に陥る。
 が、それはボクのモノではない。奴の舌がここまで伸びているのだ。
 その先端が首を回すように1回転すると。折れ曲がった先をボクのお腹に押し付ける。おへその辺りからゆっくりと這い降りてくる。
 その先を想像した途端。
「い、いやっ!!」
 ボクは女のコのように叫んでいた。
 目から涙がボロボロと零れて行く。
 ボクは必死でそいつを押さえ込もうとするが、全く効果が現れない。
 それが割れ目の中に割って入る。女のコの敏感な所に触れた。
「あんっU」
 ボクの意思とは別に、喉が勝手に甘い喘ぎを洩らす。
「だめ〜っ!!」
 それがグイと侵入してくる。引き裂かれるような痛み。
 痛みに堪えるように掌を握り締める。
 そいつにボクの指の爪が食い込んだ。

 その途端、掃除機のコードが巻き取られるように、奴の舌が引き込まれていった。ボクは弾かれて机に背中を打ち付ける。その拍子に机の上にあったものが床に落ちる。
「おぉ、痛い痛い。こんな性悪娘にはお仕置きをしなくてはな。」
 奴が杖を揮うと、痛みに背中を摩っていたボクの手が動かなくなった。
 縄で縛られたように手足が床の上に固定される。大きく股が開かれる。
 奴がボクの股間に立ちはだかる。
 魔法の杖が輝いている。
 それはぐねぐねと形を変えると鬼の持つ金棒になった。痛そうな鋲がびっしりと生えている。光を放ったまま、それはシュルシュルと小さくなった。
 トイレットペーパーの心棒を二つ繋げたくらいの大きさになってようやく輝きが納まる。
「さあ、お仕置きだ。こいつをお前さんの大事な所に突っ込んであげよう。」
 奴は焦らすように太ももの内側にミニチュアの金棒を押し付ける。
 鋲が痛い。
 奴はこれをボクの大事な所に入れるという。
 恐怖でボクは何も判らなくなりかけていた。
 奴から、奴の持つ金棒から、顔を背ける。
 床と机の脚が見えた。
 机の脇に魔法辞典が落ちていた。
 魔法辞典は開かれていた。偶然にも、そこには返戻の呪文が書かれていた。
 何の気なしに、ボクは書かれた文章を読み上げた。
「汝、メラネスとの契約により現れし悪魔よ。御世界に戻られよ。我願う、御世界に還られよ。御世界に帰られよ。」
 その途端、奴の動きがピタリと止まった。
「な、何を言っている?」
 奴の声がうろたえている。
「ワタシはまだこちら側に居たいのだ。戻させるな。何でも願いを叶えてやるぞ。ほら、金棒だって痛くはない。」
 ボクは見向きもせずに読み続ける。
「戻さないでくれ。男にだって戻してやる…」
 ボクは呪文を読み終わった。
 奴の言葉がだんだん小さくなる、と同時に奴の身体も小さくなっていった。
 手足の自由も戻っていた。
「…何処に魔方陣を描いたんだ…」
 最期の言葉と共に、鶏の卵の大きさに縮まった奴の身体が宙に浮く。
 そいつがゆっくりとボクの方にやってくる。
 起き上がって見るとボクのお腹が輝いていた。
 腸のようにうねうねした形の魔方陣がお腹の上に浮き出ている。
「もしかして、腸が魔方陣?」
 そいつはゆっくりと近づいて来る。
 しかし、真っ直ぐに魔方陣に向かっている訳ではなかった。
 そいつは胡座をかいたボクの股間を目指していた。
 慌てて掌を当てようとしたが、それよりも一瞬早く、スピードを上げた卵が股間を直撃する。卵は割れる事なく、ボクの大事な所に嵌まり込んだ。
 取り除こうとすると、ツルリと滑る。滑った指がさらに押し込む形となる。
 こんな所で割られては大変なので、ボクは股を大きく開いた。
 膣には力を入れないように慎重に呼吸する。
 体中から汗が滴り落ちる。
 お腹の魔方陣が輝きを増す。
 股間が燃えるように熱くなる。

 卵がブルンと震えた。

 スポンと音を発てて、卵はボクの胎内に呑み込まれていった。
 お腹がフラッシュを焚いたように輝く。
 ポンッと音を発てて卵は消えた。



 後には女のコに変身させられたボクと、魔法の杖が残されていた。
 ボクは魔法の杖を拾った。
 それはスベスベと手触りが良い。
 無意識の内に股間に押し当てていた。
「あんっU」
 ボクの喉から可愛らしい吐息が洩れる。
 その媚声に反応してか魔法の杖がブルルンと震える。
「ああんU」
 魔法の杖がボクの敏感な秘所を刺激する。それは快感に緩んだ指の間から一瞬の隙を衝いて抜け出した。そして、するりと膣内に潜り込んだ。そこに落ち着くと、魔法の杖は激しく蠕動を始めた。
「あ〜〜〜〜〜んっU」
 ボクは悩ましい声をあげ、淫らに悶えていた。
 それは、ボクが最も感じるように蠢きまわる。
 そしてエクスタシーに達した後、ポロリと自ら抜け出してきた。
 ねっとりと愛液に包まれたそれは、丁度、産み落とされたばかりの鶏の卵のようだった。
 手に取って唇を押し当てる。
 卵はブルンッと震えた。
 再び股間に押し当てる。
 めくるめく快感がボクを女のコに変えてゆく。


 ボクは雌鶏のように、幾度となく卵を産み落とした。
 

−了−


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