ピンクの部屋



「ねえ、遊んでいかない?」街路を歩いていると脇から腕を絡めてくる女がいた。見るからに商売女をプンプンさせるロングヘア、毛皮のコートの下は真っ赤なミニスカート、幅広のベルトにはチャラチャラと金の飾りが鳴っている。容貌には自信があるらしく、しっかと俺の顔を覗き込んでいる。瞳がキラリと輝いた。その瞬間、俺は催眠術に掛けられたようにフラフラと女に引き連られ、とある雑居ビルの中に入っていった。
 入口にはなんの飾りもなかった。表札もないスチールの扉を開くと鮮やかなピンク色が溢れだしてきた。目を瞬くと次第に慣れてくる。徐々に部屋の中が判別できてくる。ピンクの壁、ピンクの床、カーテンもカーペットもピンクピンクピンク。収納式のクローゼットの扉もピンク、天井もピンク。そしてその部屋の中央には巨大なピンクのダブルベッドがあった。もちろん布団や毛布は言うに及ばず、シーツやマクラ、マットに至までピンクづくめである。彼女に腕を引かれて部屋の中に踏み込んでいった。操り人形のように導かれてゆく。自分の腕が勝手に服を脱ぎ取ってゆく。気が付くと俺は、全裸でベットの上に横たわっていた。
 天井一面が鏡張りであることはすぐに気付いた。見上げるとそこには全裸の俺が映っている。ピンクに縁取られたその姿はグロテスク以外の何物でもない。やがて、彼女が現れる。服の上からもそのプロポーションは判っていた。豊満な女体が俺の上に覆いかぶさってくる。彼女の胸が俺の胸板に触れる。彼女は自らの体重を支えることなく、その肉体を俺の方に預けてきた。胸は胸に腹は腹に、文字通り俺の身体に重ねるように腕を、脚を乗せてくる。正に爪先から頭のてっぺんまでピッタリと重ね合わせる。鼻の頭が擦れ合う。彼女の首が傾き、唇が触れ合う。舌が絡み、濃厚な接吻へと移行してゆく。
 腕を延ばし、彼女を抱きしめる。二人の間で乳房が形を変える。下半身に固くなった肉棒を感じる。
「?」突然、違和感を感じた。
(何かおかしい)瞼を開く。天井の鏡に絡み合った男女が映っている。女の裸体を隠すように、男の背中が映っている!?俺の背中はベッドに付いたままだ。そして、さっきの違和感。そう、二人の下半身の間に固くなった肉棒が挟まっている。だのに、俺自身の股間にその充実感がないのだ!!
 ゆっくりと男の背中が動き、次第にその下の女体が露となる。男の背中が鏡の中から消えた。
 鏡に映っているのは俺自身。
 双つの豊満な乳房を持ち、股間にはなにもない。これが、俺? 腕を持ち上げると鏡の中の女も同じ動きをする。否定のしよがない。胸に手を当てる。確かに、豊かな肉塊がある。掌を擦り下ろす。胸元から腹の上を通過して下半身に。太股の付け根に掌をあてがう。そこにあるべきものはなかった。茂みの中がほんのり濡れている。股間に沿って中指の腹をあてがう。ゆっくりと力を入れる。割れ目に指が挟まれる。それは、あってはならないもの。人指し指は胎の中に侵入していった。
「ハア、ハア、ハア」耳元で女の喘ぎ声が聞こえる。その声に刺激され、俺の肉体も興奮してくる。じわっ、と指先に秘蜜が絡みつく。掌に豆粒が当たる。
「あン!!」媚声に反応して掌が動きだす。掌で豆粒を刺激しながら中指を推し進める。指先をぐるぐると動かすと、女の方も腰をくねらし俺の指をさらに奥へと咬え込もうとしてくる。ベッドが軋む。
「ア〜〜〜〜〜〜〜ッ」嬌声が響き渡る。

 部屋には誰もいなかった。俺の服が失くなり、代わりに女物の服が置いてあった。仕方なく女物の服を手に取りどうにか身支度を終えた。始めて履くハイヒールはまともに歩くこともできない。壁に手を  付きながら雑居ビルを出た。不確かな記憶を辿って、ふらつきながらもようやく彼女と出会った街角に出た。街はまだ人が溢れていた。とりあえず、自分のアパートに戻ろうと足を踏みだした途端、よろけてしまった。目の前にあった男の腕にすがり付いて、なんとか転倒は免れた。
 顔を上げると男の顔がそこにあった。どこかで見た顔だ。
(俺だ!!)その男は俺自身だった。
「ねえ、遊んでいかない?」
 突然、俺は声を掛けていた。

 俺が声を掛けると、まるで魔法に掛かったかのように男は頷いた。当然のように、俺は男をあの雑居ビルに連れ込んだ。俺の姿をした男が全裸でベッドの上に横たわっている。こちらも服を脱ぎ、ベッドの上に登る。記憶を蘇らせ、あの女のやった事を同じことを繰り返す。胸を合わせ、男の上に折り重なるように肉体を触れ合わせる。股間にはすでに勃起した肉棒がある。他人(?)のモノに触れる嫌悪感を押さえ込み、二人の下腹部の間に肉棒を挟み込む。目の前に俺の顔があった。鼻の頭が触れ合う。一瞬の躊躇の後、俺は唇を合わせた。
 呪縛が解き放たれた!!
 男の腕が俺を抱きしめる。二人の間で乳房が形を変える。下半身に固くなった肉棒を感じる。
「?」男は俺を抱きしめたまま、体を入れ換えた。天井の鏡に絡み合った男女が映っている。
 女の裸体を隠すように、男の背中が映っている!!
(失敗だ!!)
 男は俺の乳房にしゃぶり付く。舌先で乳首を転がす。俺の肉体はすぐさま反応した。股間に秘蜜が溢れだす。豆粒が硬くなる。知らず知らずの内に、男の大腿部に股間を擦り付けていた。男は股間の肉棒を見せつけながら、俺の身体中を嘗め廻してゆく。唇が性感帯を刺激する度に霰もない嬌声を挙げてしまう。「お願い。どうにかして。」俺は嫌悪していたはずの男の肉棒に頬ずりして懇願していた。
 ようやく、男の指が股間の割れ目を押し開き、一気に肉棒を突き立てた。

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜U」

 一段と高い嬌声をあげて、
 俺は「女」になった。

−了−


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