ビーナスの部屋



「楽しいコトしない?」ふと、顔を上げるとそこに美女の顔があった。
「?」戸惑っていると、
「おじさん、暇なんでしょう?」
(なんだ?この娘は?)?マークに押しつぶされそうだ。
「行こッ」美女は俺の腕を取るとぐいぐいと引っ張っていった。
 仕方なく、俺は彼女の後を付いていった。

 着いたのは普通のマンション。俺たちはそのままベッドルームに直行した。
 彼女の肩から羽織ったコートが落ちると豊満な裸体が現れる。
「来てッU」彼女が俺をベッドの上に誘う。毟り取るように服を脱いで彼女に抱きつく。
「慌てないのォ」指摘されたパンツと靴下を取ってようやく二人とも全裸になった。
 俺の股間がビンビンに奮っている。仕切り直してベッドに突入する。
 彼女の首筋に唇を這わせると栗色の髪から芳しい香りが俺の鼻をくすぐる。彼女の栗色の髪がまとわり付く。俺の頬に、唇に、首筋に…それは腕に絡み付き、足に絡み付く。俺は彼女の髪に絡み取られてしまった。身動きが出来ない。魔物のように栗色の髪が伸びてくる。蜘蛛の巣に掛かった小虫のようにぐるぐると巻き固められてしまった。
 首から上を残し、全身を栗色の糸に埋もらされた俺の前に彼女が立っていた。
 彼女の髪は既に元の長さに戻っている。
「ば、化け物」俺の口から出た言葉は震えていた。彼女は唇に笑みを浮かべて答えた。
「べつに喰ったりはしないから安心なさい。」ゴロゴロとキャスター付きの姿見を持ってきた。そして、俺自身の姿がしっかりと映し出されるようにセッティングする。
「あなたみたいなスケベなオジサンへのちょっとしたお仕置きよ。」
 モゴモゴと呪文が唱えられると、俺を捕らえていた栗色の糸がどろどろと溶けだしていった。と、同時に一緒に発生したガスの影響か、俺の身体が一切言うことを聞かなくなってしまった。まだ糸のうちは縛られていても多少の隙間があり、指先を1〜2\くらいは前後させられた。腕や脚の筋肉もに力を入れれば多少は糸の力に抵抗出来ていた。が、今では指先を動かすどころか、いくら頑張っても筋肉繊維の一本でさえ俺の言うことを聞いてくれない。糸だったものが、石膏のように俺の周りに固まってゆく。その過程が目の前に置かれた姿見に映し出される。俺は出来の悪い彫像のようにベッドの上に転がされていた。
「さあ、いくわよU」彼女は腕まくりをして近づいてきた。見た目には硬い石膏の塊のようだが、彼女が触れるとそれは粘土のように易々と形を変える。まさしく粘土を扱うかのように、彼女は出来る悪い彫像に現実的なフォルムを与えていった。余分な所はどんどん千切り取る。四肢が彼女の言うなりに曲げられる。(もちろん俺は自分の肉体がどのような恰好をしているかは姿見でしか確認できない)伸ばしたり、縮めたりする。間接でない所で曲げられても何の痛みもない。果ては、脚が身体から切り離され、手際よく整形された後、再び胴体にくっつけられた。その間、一滴の血も溢れていない。太股の付け根の断面も見て取れたが、俺の肉体は完全に粘土と一体となっていた。俺の脚の周りに粘土が付いていると思っていたのだが、脚全体が粘土と化していた。つまり、頭を除く俺の身体全てが粘土化しているのだ。いまなら胴体を真っ二つにして左右反対に付けられても何事もないのだろう。

 次第に形が整ってゆく。削り取られた粘土はかなりの量に及ぶ。それはもともと俺の血肉であったものも含んでいる。出来上がった彫像はもともとの俺の体躯から2割程縮まっている。姿見に移る俺の姿は見る影もなく変わり果てていた。首から下だけ見れば、ギリシャ彫刻のビーナスそのものだ。引き締まったウエスト。豊満なバストとヒップ。もちろん股の付け根は綺麗さっぱりしている。余った粘土を片づけた後、彼女が再び呪文を唱えた。
「これからが本番よU」呪文が終わるとともに、全身に肉体の感覚が戻ってきた。シーツが肌に触れるのを感じて感動していた。が、今もって自分の意思で身体を動かすことはできない。
「これが何か判る?」彼女は粘土の棒を目の前にちらつかせた。呪文を唱えるとそれは肉棒に変化した。
「ア・ナ・タのモノよU」そう言って彼女は自分の股間にソレを装着した。生まれた時からそうであったように、ソレは彼女の肉体と一体と化してしまった。ソレを反り勃たせて、彼女が伸しかかってくる。僕の脚は彼女にされるがままに押し開かれる。股の付け根が露になる。硬くなったソレがグググッと押し入ってくる。
「イヤ〜〜〜ッ!!」
 あまりの痛さに叫んでいた。その叫び声が俺を捕らえていた呪縛を吹き飛ばしていた。が、既にソレは俺の肉体の奥深くに達している。彼女を突き放そうとすると、下半身に激痛が走る。その苦痛に歪む顔を見て、彼女がニッと微笑んだ。彼女がぐいと腰を引く。激痛が走る。再び突入する。再度の激痛。痛さに堪えきれず、カニ挟みのように彼女の腰に脚を絡めて固定する。
「いい恰好ね?」彼女は身体をずらし、姿見に二人の姿が写るようにした。姿見にはふたりの女が絡み合っているのが写っている。その組み敷かれているのが変わり果てた俺の姿だ。しかし、どう見てもその姿は好色な女のそれでしかない。性の快楽を欲して止まない女がもうひとりに絡みついている、そんなシチュエイションである。しかし、カニ挟みでは彼女を押さえつけることは出来なかった。彼女のピストン運動はさらに続く。俺は痛さを紛らわせるように反り返り、シーツを握りしめた。
 そんな姿が姿見に写っている。あられもない自分の姿。歓喜に身を悶える女の姿がそこにあった。
「いくわよU」彼女の声と伴に熱い迸りが俺の胎内に放出された。
「あ〜〜〜ッU」無意識のうちに俺は悦楽の吐息を漏らしていた。いつの間にか、苦痛が快楽に刷り替わっていた。彼女の愛撫によがっては何度もエクスタシーに達する。秘部からはトクトクと愛液が滴り落ちてゆく。姿見には彼女の上に跨がり、股間のモノを自ら咬えこんでいる雌獣がいた。女の顔には悦びの微笑みが浮かんでいた。俺の意識は真っ白になって、そこで途絶えた。
 ベッドの上で目覚めた。
 彼女の姿はどこにもない。起き上がると目の前に姿見があった。そして、そこに彼女の姿を見た。

 俺は彼女の残していった服を着て街角に立っている。向こうから好色そうな男がやって来た。
 俺は男の耳元で囁いた。

「楽しいコトしない?」

−了−


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