淘汰



 気がつくと僕は手首足首をロープで縛られ、台の上に大の字に磔られていた。台にはキャスターが付いているらしく、ガラガラという音と伴に振動が伝わってくる。眩しい光にようやく目が慣れる。蛍光灯の列が過ぎ去ってゆく。天井に備えられた蛍光灯の光を直に見ていたのではさすがに眩しすぎる。首を回し通路の壁を見る。真っ白に塗られた壁が延々と過ぎ去ってゆく。扉もなければ脇道もない。延々と白い壁が続く…
 僕の名は木戸錠二。俗に言うフリーター。アルバイトを点々として食いつないでいる。中には危険なアルバイトもあったが、普段はコンビニやレンタルショップの店員が多い。至って真面目なフリーターと自負している。そんな僕がなんでこんな目に会わなくちゃならないんだ!!
 たまたま求人雑誌で見つけた一件の案内。時給も手頃で見た目にはアブナイ仕事には見えなかった。が、電話して呼び出されたのが繁華街の喫茶店。一瞬躊躇したが、僕は扉を開けてしまった。薄暗い店内で担当者が来るのを待っていた。しばらくしてウエイターが声をかけてきた。
「木戸様ですね?お電話が入っています。」と、店の奥に案内された。
「こちらです。」示された扉は電話ボックスにしては頑丈なドアだった。が、開けると確かに受話器の外れたピンク電話があった。
「もしもし、木戸ですが?」
「ああ、木戸君?」声の主はこの店を指定した男のものだった。
「はい…」答えと同時にピーッと音がしてボックスの中に煙が吹き出され、一瞬のうちに煙がボックス内に充満する。真っ白で何も見えなくなる。煙が気管に入り込み、肺に達すると同時に僕は気を失った。

 僕を乗せた台が止まる。モーターの音とともに扉が開いてゆく。再び台が動く。今度は部屋の中のようだ。手術室のような円盤型のライトがあった。何をされるのか?恐怖で声も出せなかった。手術着の男たちに取り囲まれる。目の前で注射器の針先から液が飛び出るのを見せつける。腕にアルコールが塗られる。何をされるか判らないが、まともなことでないことは確かだ。
「動くな!」あの男だ。一瞬、僕の抵抗が途絶えた隙に針が突き立てられる。
「お前らのような軟弱な奴等はいっぱしな顔でうろつきまわるな。お前らのようなクズは我等の奴隷となるのが本来の姿なのだ。そして、奴隷には奴隷の姿がある。これから、お前を本来の姿に戻してやるから有り難くおもえよ…」薄れる意識の片隅で奴の声だけが響いていた。

 再び目覚める。今度は眩しさが少ない。蛍光灯は部屋の周りをぐるりと取り囲む壁に埋め込まれている。天井には僕と同じように四肢を縛られた全裸の女性が磔られていた。いや、良く見ると天井は一面鏡のようだ。様々な調度が逆さにぶら下がって見える。椅子やテーブルなど、どう見ても天井にくくり付けられているようには見えない。そもそもわざわざ椅子やテーブルを逆さにぶら下げる必要があるのだろうか? つまり、天井は一面の鏡に他ならない。と、いうことは天井に磔られている全裸の女性は僕自身に他ならない。確かに腕を動かすと天井の女性も同じ動きをする。
「気がついたようだね。」ガチャリとドアを開ける音とともに白衣の男が入ってきた。「これが、奴隷のお前にもっとも相応しい姿なのだよ。」脇腹からさすり上げるようにして盛り上がった乳房を鷲掴む。男の触れる感触と同期をとって天井の鏡にその行為が映し出される。僕の肉体はまさしく『女性』そのものだ。豊満な乳房、腰に連なる曲線、広い骨盤。胸毛も脛毛も綺麗になくなっている。が、股間にはまだ僕自身の『男』が残っていた。「乳房、棹」男が一つ一つ声に出し、掴み上げて確認する。「そして、ま○こ!」男の指がぶすりと股間に突き刺さる!! 僕は必死に痛みを堪えた。
「シーメイルという言葉を知っているかね?」股間から引き抜いた指を嘗めながら男が言った。「男性と女性の両方をもった奇形のことを言う。我々は崇高な目的のため日夜全力を出している。が、たまには息抜きも必要だ。多くの同志は普通の女で良いのだが、幹部の多くはそれだけでは満足できなくなってしまった。もっと強い刺激がほしい。そんな中で見いだされたのが『シーメイル』だ。だが、自然界にこのような奇形が現れるのはごく稀である。そこで、我々の科学力で人工的に作りだすことにした。これまでに何百体と製造してきている。今日からお前もそのひとつとなるのだ。」
 男はいつの間にか着ているものを脱ぎ捨てていた。股間に巨大なモノをそそり勃たせ、台の上に登った。僕の上に馬乗りとなり、股間に顔を埋める。僕の目の前に男の尻が揺れる。男の巨大なモノが胸の谷間に挟まる。一方、僕のモノは男の掌に握られ、さらにその先端が粘液にまみれる。男の舌がその先端を嘗め上げているのだ。僕の意思に反して硬さを増してゆく。正気と嫌悪感を上回って肉体が反応する。充分に硬くなるのを見届けると男の掌は肉棒を離れ、その付け根の裏側にある割れ目に移動する。指先が肉襞に掛かる。ぐいと引き分けると、肉棒を離れた男の舌がその裂け目を嘗め上げる。ザラザラした舌の表面が肉襞に触れる。2度3度と往復させた後、硬く尖らせた舌先を秘部に突き刺してくる。男の唾液が肉洞に注ぎ込まれる。それに誘発されたかのように胎内から溢れ出てくるものがあった。
「感じたか?」それを待っていたかのように、男は僕から離れた。「感じたのだろう?なにも恐れることはない。その快感に己を晒せばよいのだ。お前が思っているよりお前の肉体は忠実なのだ。」男は体を入れ換え、僕を見下ろす恰好になった。片腕で身体を支え、もう片方の腕を下半身に延ばす。「そら、お前の肉体は正直だ。もうこんなに濡れているぞ。」男は指を2本も差し込み、僕の身体の内をかき回す。「我慢することはない。声にしていいんだ。」僕は四肢を縛られ、何もすることができない。唇が噛み、必死に痛みを堪えた。「お前は奴隷だ。奴隷はご主人様の言うことを素直に聞かねばならないのだ。それが判らないというのなら、身体に教え込まねばなるまい。」一旦離れると、足首を止めていたロープが解かれる。だからといって自由になった訳ではない。男は僕の両脚を抱え込むようにして伸しかかってくる。巨大な男のモノが股間に押し当てられる。ズブズブと体重を掛けて男のモノが押し入ってくる。
「アアッ!!」
 堪え切れずに苦痛の悲鳴が喉を通り越す。
「そうだ。吐いてしまえ!なにもかも!肉体の欲するままに!!」一度堰が切れてしまうと留めようがない。男が動く度に声が出てゆく。「そうだ、それでいいんだ。」
「アッ、アッ、アッ、アッ!!」
 男の動きに合わせて喉を通り越す。それは単なる苦痛の悲鳴ではなくなっていた。男の身体から汗が滴り落ちる。僕の身体も自分の汗にまみれている。下半身の痛みは苦痛を通り越していた。機械のように男の動きに反応している。痛みも嫌悪感も何もない。頭の中が真っ白になっている。いつのまにか縄を解かれた腕で男にしがみついていた。男の腰が突き上げてくる。僕の下半身がそれを受け止める。二人の肉体がぶつかり合う。そして、男のモノが緊張を増し、爆発する。熱いモノが肉壁にぶちあたった。
「ア〜〜〜ッU」喉の奥から歓喜の嬌声が放たれていた。


「これが貴女の制服よ。」手足を解かれ、連れてこられた部屋のユニットバスで汗と体液を洗い流した後、同室の女性?(彼女もまた僕と同じシーメイルだった)からクリーニングしたての服を一式手渡された。下着も一式揃っている。始めての女物の着付けに手間取っていると彼女が手助けをしてくれた。ショーツ,パンスト,ブラジャー等そしてブラウスの後スカートを履く。身体にピッタリしたタイトスカートはそそり勃つ肉棒を際立たせる。(それは手伝ってくれている彼女も同じだ)その輪郭を彼女の掌が撫で上げる。僕の肉体はいつにな敏感になっていた。ソイツが一気に硬くなりスカートの内側からぐぐぐっと押し上げてくる。が、あまりにもぴっちりしたスカートがそれ以上の自由を与えてくれない。
「アッU」痛さに堪えきれず媚声が上がる。奴らに改造されてからというものこの手の刺激に我慢ができなくなってしまったようだ。全身の皮膚が敏感になっている。それ以上に漏れ出る嬌声が妙に色っぽい。「可愛ッU」彼女はスッとバックを取り、残った掌でバストを揉みしだく。奴に直接揉まれた時よりもブラジャー越しだと余計に感じてしまうU 彼女はさらに密着する。彼女のバストが僕の背中に挟まっている。ヒップの谷間に彼女のモノがコリコリと当たる。彼女の膝が股の間に割り込んでくる。スカートがたくし上げられ、膝頭で大事な所が擦られる。全てが服を着たまま。全裸とは一味違う刺激だ。あっと言う間に僕の肉棒の先端からミルクが溢れ出てしまった。
「しょうがないわねU」ついさっき着付けたスカートが脱がされる。ネトネトに濡れたショーツがパンストと一緒に引きずり降ろされる。その過程で僕はベッドの上に転がされてしまった。その上に馬乗りになった彼女が僕の両足からパンストを脱ぎ取った。僕は下半身丸出しとなってしまった。彼女が乗っているので身動きが取れない。彼女はそのままズリズリと擦り下がり、僕の股間に顔を埋めた。彼女のヒップが目の前に迫る。めくれ上がったスカートの中、パンストに包まれたヒップが僕の顔にぶちあたる。薄い布越しに雌の香が漂ってくる。彼女の股間がじっとりと濡れているのが判った。彼女の舌,歯そして掌の動きが執拗に僕のモノを攻めたてる。ついさっきイったばかりだというのに、またしても短時間のうちに多量のミルクが放出されてしまった。それでも僕のモノは萎えることがない。肉棒をもったまま彼女が反転した。
 いつのまにか、彼女もショーツとパンストを脱ぎ去っていた。スカートの下から立派にそそり勃つ彼女のモノがあった。僕のモノを掴んだまま、彼女はその下の肉洞に彼女のモノを突き立ててきた。
「ア〜〜〜〜〜ッU」ふたりの嬌声が艶めかしいハーモニーを紡ぎだす。これは何なんだ? 男同志?女同志?言えることは正常な男女のSEXではない。ただ異常なまでの快感が僕を至高の頂に放り上げたのだった。

 昼間はCOPYとお茶汲みの単調な事務作業が続いた。3カ月は外出も許されなかった(その後でもしばらくは独りでは外出させてくれなかった)。シーメイルとしての自分の使命を叩き込まれて、ようやく自分の時間を持てるようになった。その間にも幾人もの新人が入ってきた。僕もその中の幾人かと交渉を持った。しかし、なかには堪えきれず、自らの命を断ち切った者もいた。なんというバカのことをするのだろう?考えようによっては、これは大変素晴らしいことではないか?普通の人には知ることのできない男と女の両方の性を体験できるのだ。指名があればその夜は逞しい男達に抱かれる。なにも考える事はない。彼らに身を任せていれば、抱えきれない程の愛を与えてくれる。それがない日でも、僕等は互いに愛を分かち合える。ときには男に戻り、ときには女同士で…

 久々に自分のマンションに戻ったとき、むっとくる『男』の匂いが以前の僕をまるで他人のように感じさせた。持ってきたエプロンを付け部屋を片づけた。どうしようもない雑誌やビデオの山を束にして捨てた。趣味の悪い食器も捨てる。クローゼットの服もみんな捨ててしまう。替わりに買ってきたブラウスやスカートを掛ける。タンスの引き出しもブラジャーやショーツにとって替わった。カーテンも淡いレースのものに付け替えた。ベッドのシーツも取り替え、持ってきたぬいぐるみで飾りつけた。戸棚からもガラクタを吐き出させた。どこからか、アルバムが出てきた。広げると軟弱な青年が軽薄そうな笑顔を浮かべている。そう、こんな『男』は世の中に必要ないのだ。
 僕はアルバムをごみ箱に放り込んだ…

−了−


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