花畑



 サチコはベッドの上で静かに眠っていた。
 俺はもそもそとベッドを降り、ウ〜んと伸びをした。床の上には二人の脱ぎ散らかした衣服が転がっていた。俺のワークシャツやズボン、靴下やブリーフ。サチコのスカートやファンデーションの数々。地味な男の衣服に比べて、サチコのは床の上を花畑のように彩っている。
 ふと、理不尽な思いに捕らわれる。
「男の服だって綺麗でもいいんじゃないか?」手にとったブリーフをポンと投げ上げた。
 そのブリーフが床に落ちると同時にモクモクと黒い煙が立ち上がった。
『お呼びですか?ご主人さま〜〜』煙の中から中東風の服(上半身は裸で極彩色の腹巻の下はぶかぶかの白いズボン,頭にはターバンを巻いている)の男が現れた。
「な、なんなんだ?お前は?!」
『私はパンツの精です。もちろん貴方に呼ばれた訳ではないのですが、つい口癖で…』
「じゃあ、何で出て来たんだ?」
『それはもう、先程から聞いていれば私どもパンツの事を悪しく罵られる。私どもとて、かような冤罪を掛けられては迷惑というもの。それでは、ということでパンツを代表しまして、この私パンツの精がまかりこした次第にございます。』
「で、何しに来たんだ?」
『手短に申せば、貴方様の考えを正そうと考えましたがそれは不可能に近い。それでは、ということで貴方様がそのような考えを持たれないようにしてしまおうという次第でございます。』
「だから、なんだって言うんだ!!」
『先ずはこれ。』パンツの精と名乗る男が呪文を唱えると、床の上の花畑がさらに広がった。ピンクや淡いブルーの布切れが倍に膨れ上がったようだ。その代わり、花畑の間に横たわっていた地味な色彩がどこかに消えてしまっている。つまり、俺の服が下着から一式なくなって、代わりに女物の衣服がサチコのと合わせて二人分になっていた。
『では、つぎに。』再び唱えはじめた呪文は先程よりも長く、複雑だった。呪文を唱えきったパンツの精がこちらを向く。その両目がランランと輝いている。ズっ、と俺の方に近づいてくる。
『ハッ!』という掛け声とともに、奴の両掌が突き出される。
 と、同時にバケツを引っ繰り返したように俺の頭上からザーッと水が降ってきた。
「なんだ?」と上を見てもなにもない。床を見たが水に濡れた痕跡さえない。俺の体だけがびしょ濡れになっているだけだ。不思議なことに、俺の体からしたたる水滴は床の上で突然消えてしまうのだった。
「?」俺は視線で奴に問いかけた。
『これで、問題は解決されました。』パンツの精と名乗る男が俺の視線での問いに答える。
『貴方はもう、自分の衣服に不満を持たれることはないでしょう。われわれパンツもこれで救われます。
 私の仕事はこれで終わりました。が、帰る前に一つよろしいでしょうか?』
「ちょっと待て、何がどう解決されたと言うんだ?」
『あれ?まだ分かりませんか?ここに取り揃えたものは全て貴方のものなのですよ。貴方の望み通り綺麗でしょう?』
「綺麗は良いが、何でこれが俺のものなんだ?俺の服はどうするんだ?このブラジャーを着け、スカートを穿けと言うのか?」
『べつに、貴方さえよければそのままでもいいのですが…』
「そうじゃなくて、男の俺がこんなものを着れるか?と言っているんだ!!」
『それは、貴方が男の時の話しですよ。正直言いまして、貴方がその恰好でいられるので私のココがもう限界になっているのですよ。』そう言って男は自分の股間を指し示した。そこには巨大なテントが張られていた。そして、自分の姿を見る。はたして、そこに女の肉体があった。
「??????」俺の頭はパニックに陥っていた。その俺の目の前に奴が迫ってくる。

「何よ、うるさいわね。」脇からサチコの声。
『ウホ〜Uこれで3P!!』奴は既に素っ裸になっていた。片腕に俺を抱え上げ、そのままベッドに倒れ込む。俺はサチコと一緒にベッドに封じ込められてしまった。奴は剛腕に物を言わせ、俺とサチコの4つの乳房に顔を埋め、満悦の表情を浮かべている。奴が顔を埋めている俺の胸はサチコのものと変わらぬ大きさをしていた。と言うより俺の新しい肉体はサチコと瓜二つと言って良い。どうも、奴は手抜きをして手近にあったサチコの肉体を俺にコピーしたみたいだ。
 不思議にも、サチコはこの状況に順応していた。俺のこの姿を不思議とも思わず、なかなかソノ気にならない俺にいらついてさえいる。
「それなら、あたしがしてあげるわ。」しびれを切らしたサチコが俺の腰に手を廻した。コピーでしかない俺の肉体など勝手知ったるもので、彼女の指が身体に触れる度に俺の意思とは別に肉体が反応してゆく。サチコの指は的確に秘所を突いてくる。不意に股間に熱いモノが溢れ出る。それを待っていたかのように奴は股間に頭を押し込みソレを舌先で啜った。ザラザラした舌の感触を下半身に感じる。それは、いままで体験した事のない強烈な快感を伴ってくる。
「これがオンナの…」一つ一つの快感を噛みしめる間もなく、次から次に襲っている。奴が下半身に集中している隙にサチコが上半身を攻めてくる。自由になった両手で俺を抱きしめると強引に唇を奪う。いつもなら俺がサチコにしている事を今度はサチコが俺にしてくる。いつもサチコが享受しているモノは奴が持っていた。今は俺が受けている。完全に受け身の状態。俺はされるがままにいた。激しい歓喜の波が次から次に俺を洗い流してゆく。
 そして、クライマックス。
 奴の固いモノが俺とサチコに交互に突き立てられる。二人とも雌犬のように悦びソレをくわえ込む。男の迸りが子宮に叩きつけられる。奴は衰えることを知らずに幾度となく繰り返す。俺の頭の中は真っ白になっていた。


 サチコはベッドの上で静かに眠っていた。
 俺はもそもそとベッドを降り、ウ〜んと伸びをした。床の上には二人の脱ぎ散らかした衣服が転がっていた。スカートやブラウス,ファンデーションの数々。二人の服が床の上を花畑のように彩っていた。
 俺はブラジャーを手に取り、突き出した双つの乳房にそっとあてがった。

−了−


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