これで萌えたら…



 
 1.鏡のイタズラ
 
  鏡に映った僕の姿をじっと見つめる
  顔の輪郭が少しずつ変化してゆく
 
  髭が消え、肌の色が白くなる
  眉毛が細く、薄くなる
  頬に朱が差し、唇が紅くなる
  髪の毛が肩まで伸びた
 
  瞬きをすると、そこにはいつもの僕がいた
 
 
 
 2.間違い
 
  僕は自分の状況を思い出す間もなく、慌てて飛び込んでいた。
  その前に立ってようよく女装していた事を思い出した。
  構わずにスカートをたくし上げ、ショーツを降ろした。
  が、一向に息子が顔を出さない。
  指が股間を素通りしてゆく。
 
 「そうか。今日は女装じゃなくて『女』になっていたんだ!!」
 
  慌てて個室に入り直した。
  そこに座り、僕は解放感に浸った。
 
 
 
 3.そこは…
 
  それは、ヴ〜〜〜ンと唸り音をあげている。
 「これが欲しいんだろう?」
  奴がそれを俺に近づけてくる。
 「あぁ……」
  俺の声は小さく、ただ、目に涙を浮かべるのが精一杯だった。
 「開けるんだ!!」
  奴の手が俺に触れた……
 
 
 「こんなに可愛いのに… お前も弱いなぁ。」
  奴はシブシブと俺が開けた虫籠の入り口に甲虫を押し込んだ。
 
 
 
 4.入学式
 
  夢と希望に燃えて、僕は校門を潜った。
  さすがにワンランク上だけあって、お嬢様然とした女のコが多い。
  少女達の憧れの伝統ある制服をセンス良く着こなしている。
 
  校舎の前に貼り出された一覧でクラスを確認する。
  頑張って越境してきただけあって、知り合いの名前は一つとしてなかった。
 
 「あなたもB組なの?」
  声を掛けられた。
  振り向くと僕好みの可愛らしい女のコが真新しい制服に包まれて立っていた。
 「そうだけど…」
 「あたしは武藤まゆみ。まゆみって呼んでね。お友達になりましょう?」
 「こちらこそよろしくね。」
  僕達は手を取って女のコだらけの校舎に入っていった。
 
 
 
 5.唇
 
  紅を塗る
       ・・・
  鏡のなかのアタシ
 
 
 
 6.地蔵
 
  都会の真ん中の道の脇にお地蔵さんが佇んでいた。
  その『中』に僕がいる。
  たまたま、仕事に失敗して憂鬱になっていた時に声をかけられた。
 「あなたの替わりに陰険上司の小言を聞いてきてあげましょうか?」
  そして僕は「お願いします」と言ってしまった。
  その途端、僕はお地蔵さんの『中』にいた。
  今の僕と同じようにこの中にいた誰かが僕と入れ替わったのだ。
  入れ替わった『僕』が戻ってくる事はなかった。
 
  こうして、僕は道の脇に立ち続けている。
 「あ〜。またあのオヤジか。だれか替わってくれないかなぁ。」
  援助交際の女子高生らしい女のコの心の声が聞こえた。
 『よかったら、ワタシが替わってあげましょうか?』
  僕は彼女に囁きかけた…
 
 
 
 7.スカウト4
 
  僕はステージの上でショーツと靴下だけになっていた。
  ブラを外した胸は、僅かにではあるが膨らんでいる。
  ショーツの前に掌を重ねて確かめた。
  が、それは自分が女のコになっているのを確認しただけだった。
 
  客席から一人の男が立ち上がった。
  僕は金縛りにあったように動けないでいる。
  男が近づく。
  得体の知れない恐怖感に包まれていった。
  「きゃ〜〜ッ!!」と叫びたかったが、声も出ない。
  男の手が僕に触れた。
 
 「どうぞ、お好きなように。」
  お姉さんが男に声を掛けた。
  男の掌がショーツの上から僕のお尻を撫で廻す。
  耳元に息を吹き掛けられた。
 
  僕の股間は僕の意思を無視して、熱く熟れ始めていった。
 
 
 
 8.リング
 
  結婚式もクライマックスに差しかかった。
  神父に促されて誓いの言葉を発する。
 
  そして指輪の交換…
 
  僕は手にした指輪を彼女の指に填めた。
  その時、あまりにも簡単に填まった事に気付くべきだった。
 
  今度は僕の番だ。
  彼女が指輪を僕の指に填めようとするが、サイズが合わない。
  僕の指輪と彼女のが入れ替わってしまっていた。
  困り果てたその時、祭壇が七色に輝いた。
 
  気がつくと指輪は僕の指にピタリと填まっていた。
  振り仰ぐと、そこに「僕」がいた…
 
 
 
 9.君と僕
 
  「君」は何者なのだろう。
  目の前の君を僕は知らない。
  しかし、それは鏡に映った僕自身。
 
  手を伸ばし、君に触れる。
  ガラスの冷たさ。無機質な障壁……
 
  手を戻し、僕に触れる。
  暖かな頬。しっとりとした素肌……
 
  そして、僕は口紅を手に取り、
  自分の唇に重ねた……
 
 
 
 10.旅行
 
  ふらりと始めた一人旅
 
  通販で買い集めたものを鞄に詰め込む
 
  明日のオシャレを夢見て眠る
 
  誰も知らない 僕だけの秘密
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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