ボクはアルバイトを探していた。
 
 大学に入っての初めての夏休みは最初から実家には帰らずにいようと決めていた。受験々々で封じ込められていた青春をこの夏こそ取り戻すのだ!
 と気張ってはみたが、世の中はそうは甘くない。帰らないのならと、実家からの軍資金の当てが外れ自力で調達するしかなくなってしまった。そこで、学生課の掲示版にある求人広告のお世話になることにした。貼られた紙を一つづつチェックしていく。深夜の肉体労働は願い下げだが、かといって家庭教師ができるほどの頭は持ち合わせていない。そして、ずうずうしくも楽をして高収入が得られないものかと物色しているのだ。しかし探してみるもので、ボクの希望に合致するものが見付かってしまった。場所がかなり離れた山の中だったが、送迎アリとのことなのでボクには問題とはならない。迎えの時間が早朝であることが皆に敬遠されたのだろうが、ボクには何でもない。これだけ離れていれば移動中に寝ていることも出来るだろうと、早速連絡を取ることにした。
 
 大学近くの駅で待っていると連絡にあった白いワゴン車がやってきた。シャッターも開いていない駅舎の前には当然ボクしかいない。車はボクの真ん前に停まり、運転席から白衣の男が降りてきた。
「乗って!」スライドドアを開きせき立てるようにボクを乗り込ませた。車内にはテレビが置いてあり普通のテレビ放送はもちろん、ビデオやカラオケ、ゲームもできるようになっていた。冷蔵庫もあり中にはソフトドリンクの外にビールやワインも入っていた。クッションや毛布もあり、至れり尽くせりのように見えた。が、運転席との間には仕切りがあり窓もシールドされ外の景色は一切見えなかった。移動中は寝ているつもりだったので外の見える見えないは関係ないと言われればそれまでだが、やはり気分の良いものではない。
 車が止まりドアが開かれた。外に出て辺りを見渡したが、ここが地下駐車場であることしか判らない。徹底した秘密主義を貫いている。事務室に案内された。ここにも窓はない。仕事の説明を受けたが電話で聞いた通り実験動物の鼠や兎の世話としか判らなかった。その後、飼育室に案内される。入り口には第一とあるので他に第二、第三があるのかも知れないが余計な詮索はしないことにしておいた。仕事は単純でそれぞれの檻の水や餌が不足したら補給してやることと、具合の悪くなったのがいたら主任に連絡することだけだった。もともとは彼ら自身が交替でやっていたのだが、研究が忙しくなったのでつてのある大学に求人を頼んだということらしい。
 
 
 ある日帰る時間が近付いた頃、主任がやってきた。どうやら外は嵐らしい。ボクはここに泊まることになった。もちろん飼育室の片隅ではなく、ちゃんとベットのある部屋を与えられた。深夜、ガサゴソと蠢く音に目が覚めた。ドアが開き廊下の明かりが差し込んでいる。その光りと影の境目にそいつはいた。毛むくじゃらの物体は生き物なのであろう、呼吸の周期で微かに動いている。灰色の体毛は毎日見てきた鼠や兎を連想させたが、こいつはそれらとは大きさが桁違いである。ボクが体を起こすと、その気配に反応してそいつがこちらを向いた。影の中にあるので顔の判別は出来なかったが赤い瞳が異様にギラギラと輝いていた。廊下の奥でだれかが叫んでいた。「いたか?」と聞こえる。ボクの意識がその声に向いた一瞬、シャッと息を吐きそいつが飛び掛かってきた。人間の大人程の体躯があり、ボクはベットに押し戻された。カプリと耳たぶが噛まれた。しかし、それだけでそいつはドアのそとに逃げ出していった。
 暫くして、呆然としているボクの前に主任が現れた。それも、物凄く仰々しい防護服を着込んでいた。「大丈夫か?」と聞かれた。主任はボクが答えるより前に耳たぶの血痕を見付けていた。「噛まれたのか?」「なんともありませんよ。」実際、痛みもなく主任に指摘されるまで血がでていたことさえ知らなかった。「まずいなぁ…」主任は小声で呟くとインターホンで次々と指示を与え始めた。ボクには検査が必要だからと運ばれてきたストレッチャーに乗せられると身動きできないようにベルトで固定され、そのまま様々な検査室に運び込まれては見たこともない機械に掛けられた。
 
「すまないが、君をここから帰す訳にはいかなくなった。」検査結果を手に主任が言った。
「君を襲ったあれは何だと思う?」主任は今だ防護服を着たままだ。「ボクはな、何も見ていません…」ボクはそう答えるのが精一杯だった。主任はそれを聞いてクククッと笑った。「三文小説じゃないんだ。機密を見られたぐらいではどうってことない。問題は君があれと直に接触してしまったということなのだ。」ボクはそのまま主任の話しを聞いた。「我々はここで一種のウィルスの研究をしているのだ。あれはそのウィルスにより獣人化した人間なのだ。そして、あれと接触したことにより君も獣人化することになる。獣人化の程度にもよるが君から再感染することがないと確認できるまでは隔離させてもらうしかないのだ。」ボクには選択肢はなかった。ベットからの拘束は解かれたが、病室のような部屋から出ることは叶わなかった。
 
 やがてボクの獣人化が始まった。耳が細長く変形してゆく。お尻から短いシッポが生えふさふさの毛に被われた。兎化のようであったが獣への変化はあまり進行しなかった。代わりに別の肉体変化が訪れた。日に日に胸が大きくなっていった。それは鳩胸の類いではなく、女性の乳房のよう…乳房そのものであった。それは明らかに女性化と言えた。股間のペニスはどんどん小さくなっていった。それが消えてしまうとその跡に女性特有の割れ目が生じた。診察を受けるとその奥に紛うことなき女性器の存在が確認された。体形も女のものになっていった。胸ばかりではなく、尻も丸く膨らんでいった。それとは逆に腰はぎゅっとくびれていく。プロポーションだけならグラビアアイドル並であった。これでレオタードに網タイツを履けばそのままでバニーガールである。
 さすがにそこまでされることはなかったが、今の体に合わせた服ということで女物の服が与えられていた。尻尾が邪魔でズボンは穿けない。当然のようにスカートを穿かされる。さすがにパンツはそのままでは穿けないので尻尾を出す穴が開けられたが、スカートの下に男物のパンツを穿くことは許されなかった。そして、見事に膨らんだ胸を女物のブラウスがゆったりと包み込む。その下にもしっかりと女物の下着を着けさせられた。確かに女の身体には女の服がしっくりくることは否定できなかった。それに、ブラジャーが手放せないものであることも実感させられた。
 
 
 その夜は何故か蒸し暑かった。部屋は常に快適な温度湿度が保たれているにも拘わらずである。原因はボク自身にあった。どんな姿になろうともボクは男であると意識していた。が、この体に生じた女の器官がそれを許してくれなかった。下腹部が内から熱を帯びていた。女の器官が濡れてゆく。溢れた蜜が大腿を滴り落ちてゆく。花芯が疼いている。男としての意識が最期まで頑張ったが、ついにはボクの指が動いていた。それがボクの内に入ってくる。「あぁん♪」と喘ぎ声が上がる。膣が蠢き更に汁を吐き出してゆく。
 これが女の快感であることも意識できないまま、ボクは快感の濁流に圧し流されていった。
 
 目覚めると同時に快感に流されてしまった自分の無力さを嘆いた。昨夜の醜態をあざ笑うかのように、下半身の汚れが不快感を発している。起き上がりシャワーを浴びた。鏡には女の裸体が映し出されている。普通の女と違うのは、長く延びた髪の毛に隠れた兎の耳と尻に付いた尻尾だけである。この身体が元々は男であったという痕跡はどこを探しても無かった。部屋に戻ると主任が待っていた。自分が裸なのを思い出し、慌ててバスタオルを体に巻いた。「夕べは相当お楽しみだったそうじゃないか?」恥ずかしさにカッと頬が紅潮する。「恥じらう姿も様になってきたじゃないか。」主任はズボンの前を大きく膨らましていた。今更ながら気が付いたのだが、今日の主任は防護服を着ていなかった。「喜びたまえ、君からの感染の心配がなくなったとの報告が届いたよ。めでたくもここから出ていくことができるぞ。」話の内容こそ喜ばしいものなのだが、ボクは主任の異様な雰囲気に体を引いていた。「記念に良いものをあげよう。」主任がボクの腕をつかんだ。バスタオルが落ちた。「散々おあずけを食ったんだ。俺にも良い思いをさせろよな。」そう呟いてボクを床の上に押し倒した。「さぁ、これが本物の男だ。存分に味わうが良い。」股間が割られ、主任の牡柱が突き立てられた。強烈な痛みにボクは叫んだが、それは彼の行為に拍車を駆けるだけであった。ボクは何もできず、彼に組み敷かれ蹂躙されるのを抗わずに受け入れるだけであった。
 人間の体は外部からの刺激に慣れてしまうという。慣れるに従い痛みを無視できるようになる。痛みが引くと供に冷静さが戻ってきた。ボクの目の前にいる主任は主任ではなかった。彼もまた獣人化が始まっていた。それはボクの時よりも進行が速かった。体毛が見る間に濃くなってゆく。長く堅く延びた体毛は獣毛となり体全体を被ってゆく。口が突き出し鼻が黒く染まる。耳の先が尖っていった。彼の口からは人間の言葉は聞かれなくなった。四つん這にさせられた。背後から獣のように犯される。いや、主任に関して言えば彼は既に獣そのものとなっていた。肩に掛かる手の平から指がなくなり、肉球から鋭い爪が生えていた。骨格が捩曲がりもう二本の脚で立つことは困難であろう。そもそも人間のように考えることもできなくなっているのではないだろうか?獣の唸り声を上げながらボクの中を突き上げる。それは既に快楽を求めての行為ではなくなっていた。それは純粋な生殖行為であり、自分の種を残すための必死の行動であった。正に種付けの行為そのものであった。
 他の職員が気が付いてこの部屋に辿り着いたときには、ボクの中は獣の精液で満ち溢れていた。行為を終えた獣は乱入者に警告の唸り声を上げていた。
 
 
 再検査の結果、ボクが発情するとウィルスが活性化されることが判明した。そして性行為に及んだとき、極限まで活性化させられたウィルスが相手に襲い掛かる。そして一気に獣化が進行する。それは獣人の段階を越え、主任のように獣そのものとしてしまうのだという。
 結局、ボクはここから離れることはできなかった。日常生活を送っている分にはウィルスも休眠しているので普通に生活していける。しかし、一旦発情してしまうとボクの肉体が男を欲して止まなくなるのだ。こうなると設備の整ったここのお世話になるしかなくなる。ボクの精神は男性のままであったが、発情してしまうと肉体の性に従うしかなくなる。ボクは部屋に駆け込むとドアを閉め二重三重のシールドを降ろす。部屋の隔離状況を確認し一息つくと、ボクは目の前に買い揃えた性具を並べるのだ。
 下腹部の疼きが拡がってゆく。花芯が熱を帯びる。溢れ始めた汁が大腿に筋を作る。肉体が男を欲していた。ボクはゆっくりと腕を伸ばしバイブレータを手に取るとスイッチを入れた。少しでも肉体の疼きを和らげるために疑似男性をあてがってやるのだ。男としてバイブを自らの肉体に使用する事に堪えがたいものはあるのだが、ボクは肉体の欲求に屈してしまった。
 くぐもったモーターの音が兎の耳に届くと、ボクの身体は一気に萌えあがるのだった。「あぁ♪」と女の艶声を上げる。モニターの向こうで見ている男たちは股間を硬くしているだろう。ボクはうつ伏せになると尻尾を突き上げ、モニターに向け股間を開いた。そして、潤った女芯を自らの指で押し開くのだった。
 
 
 

−了−


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