大空を自由に飛びたい!
 誰でも一度はそんな事を考える。だけど僕がパイロットを目指したにはもっと他の理由がる。それは航空会社の制服だ。もちろんパイロットのではなくスチュワーデスの制服に憧れていたのだ。
 本当のところ、僕はスチュワーデスになりたかったのだ。もちろん男の場合はバーサーなのだが、僕はあのスチュワーデスの制服を着て仕事がしたかったのだ。それをどこで間違えたのか、今僕は副バイロットとして操縦室に座っている。それでも何とかツテを使って手に入れた制服を、休暇の度に着てはスチュワーデスに成り切って満足させていた。しかし、そんな秘密の行為が何故か同僚の女性=スチュワーデス達にばれてしまっていたのだ。
 
 ある日彼女等に着付けの講習に使われる和室に呼び出された。そこにはリニューアルしたばかりの真新しい制服が置かれていた。「さぁ、どうぞ。あなたの新しい制服よ♪」最初は否定していたが、彼女等は僕の秘密を充分に把握しているようだった。僕は彼女等の監視の中で着替える事になった。着替えが終わると壁の前に立たされた。何枚か写真を取らされる。次にはホーズを取って写される。
 澄ましたポーズから少しづつ崩してゆく。やがてそれは淫らなものになっていった。パットで膨らませた胸を揉みながらもう一方の手をスカートの中に這わせ上半身をのけ反らせる。その姿は女が自慰しているようにしか見えない。彼女等は更にパンストを降ろすように指示してくる。
 スカートの裾を押し退けるようにして男のシンボルが姿を現す。自分のものを握らされ、それを刺激するよう命じられた。十分に興奮していたそれは一気に爆発していた。フラッシュが焚かれその一部始終がカメラに収められてゆく。僕はますます彼女等に逆らえなくなっていった。
 
 
 
 
 フライト先での夜の時間がやってきた。僕は着替えを済ませ彼女等からの連絡を待っていた。彼女等は合コンがあると必ず僕を連れてゆく。もちろん僕はスチュワーデスの一人として紹介される。彼女等は僕の事がバレるかどうか賭けをしているのだ。
 いつものように彼女等から支給された携帯が流行の着メロを奏でる。「もしもし?」と応じると彼女達ではなく、「やぁ、おぼえてる?」と軽薄そうな男の声がした。「話しは付いてるからさぁ、今夜はボクだけに尽くしてね♪」男はそれだけ言って電話を切っていった。男からの電話が切れると彼女等からのメールが入っていた。「そーいうことなので、帰ったらちゃんとほーこくするコト。V("o")」
 僕は鏡に向かいお化粧に乱れがないことを確認すると、バックを手に部屋を出た。ロビーに降りるとあの男がいた。軽薄を絵に書いたような男で前の合コンのときにしつこく言い寄ってきたことを思い出した。自動車に乗せられた。男は一方的に喋り捲っていた。海が見えた。街からは大分離れてしまった。男はロマンチックなシチュエーションを狙っているのだろうが、僕の不安は募るばかりだった。自動車はホテルの駐車場に入った。そのまま海を一望できる部屋に案内された。男の目的は明白だった。しかし、僕では彼の目的は達せられない。執拗に拒絶を続けると、彼は暴力を振るいだした。顔をはたかれ、頭やお腹を蹴り飛ばす。僕は痛みに耐え切れず彼に許しを請う。彼の足元にはいつくばり、指先を嘗める事が許された。
「さぁ、今度はこっちだ。」ズボンのチャックが開けられ彼のペニスが引き出された。命じられるままに僕はそれを咬えていた。鏡には男に奉仕する女の姿が写し出されていた。これが今の僕なのだ。暴力に屈し男の言いなりになるしかない女の僕がそこにいた。彼が射精するとそれを飲まされる。もっとおいしそうに飲めと萎えたペニスを再び咬えさせられる。顎が疲れても休む事は許されなかった。3回目でようやく解放された。しかし、この後彼は肉体を要求してくる筈だ。もちろん彼が望んでいるのは彼のペニスを受け入れることのできる女の肉体である。当然、僕では彼の要求を満足できない。彼は更に暴力を振るうだろう。だが、こればかりは平身低頭してどうにかなるものでもない。僕の身体から一気に力が抜けていった。
「どうした?もう抵抗しないのか?」何も反応しない僕に訝りながらも、僕の身体から服を剥がし始めた。ブラウスのボタンが外されブラジャーが露になる。パットの詰まったカップに彼の手が止まる。「上げ底もいいかげんにしろよな!」そう言って何発も殴る。スカートを手繰し上げ床の上に転がされた。一気にパンストとショーツが剥ぎ取られる。その直後、「お、お前オカマか?」彼はそう叫ぶと見境なく僕を蹴り、踏み付けた。
 
 
 
 
 
 彼は部屋を出ていってしまった。床の上には僕の身体が転がっていた。僕はそれを天井近くから見下ろしていた。首は変な角度に曲がり身体の下で黒い染みが広がってゆく。僕の身体はピクリとも動かなくなった。
 
 
 
 
 
 窓枠に止まり部屋の中を見下ろしている。部屋の中はあっと言う間に片づけられてしまった。僕の身体も、飛び散った血の後も綺麗さっぱり消し去られている。その部屋には何事もなかったようであった。そして、僕はそれを見下ろしていた。
 気が付くと僕は鳥になっていたのだ。飛ぶことはできる、しかし、この部屋の外へは出られなかった。僕はカゴの中の鳥のようにこの部屋に縛り付けられていた。そして毎日のようにして訪れる男女の、その営みを見せつけられるのだ。男が呻き、女が喘ぐ。僕は悦びに声を上げる女を見つめていた。僕が本物の女であればあんなことにはならなかっただろうと思いながら、女を見ていた。
 その思いが強かったのだろうか、ある日僕はお腹の中に異物を感じた。男の動きにあわせてそれが動いている。それは女が感じている被挿入感と同じものなのだろうか?女が高まりを迎えると同じに僕にも悦感の頂きが見えたような気がした。
 
 ある日、あの男がやってきた。気の弱そうな女が紙袋を抱えている。「ぐずぐずしないで着替えるんだ。」男の平手が女の頬を打った。男の軽薄さと暴力好きは一向に改善されていない。女が紙袋から取り出したのはスチュワーデスの制服だった。僕はすぐにでも彼女に意識を沿わせていた。
 男が最初に要求したのはフェラチオだった。嫌がる女の髪の毛を掴み強引に彼のモノを口の中に割り込ませた。「下手だ。」と言っては頭を小突く。終わった後も咬わえていると「いつまでそうしているんだ。」と彼女の腹を蹴り上げる。彼女は僕の時と同じように弱みを握られているのだろう。その感情には嫌悪感しか存在しなかった。
(それでも、君は女の子なんだろう?僕のように殺されたりはしないと思うよ。)
「なら、替わってよ。」
 一瞬、僕の視界が振れた。「何を言っているんだ?」彼の声が聞こえた。僕の目の前に彼の胸があった。彼が僕を抱いていた。背中に廻した手がスカートをたくし上げ、僕のお尻からショーツを脱がそうとしていた。
 僕は彼女になっていた。彼が背後から挿入してくる。今の僕には彼を受け入れる器官があった。僕はスチュワーデスの制服を着たまま彼に貫かれていた。
 体勢を入れ替え、仰向けの彼に馬乗りになる。もちろん僕の股間は彼に貫かれたままだ。タイトなスカートは捲くれあがり二人の結合部を隠すことはない。クチュクチュと淫靡な音を撒き散らしている。僕は自らの意志で男を受け入れ、高みに昇り詰めようとしていた。
 
 羽の音がした。
 窓枠の上に鳥が止まっていた。僕の興奮は急速に冷めていった。「どうした?」と男が問いかける。僕は彼と胸を合わせ耳元で囁いた。「貴方はこの部屋を覚えているかしら?」男は首を捻るだけである。「私はさっきこの娘と替わったの。あそこにいる鳥が本当の私。」と鳥の止まった窓枠を示すが彼には鳥の姿は見えないようだ。「そして、その前の私は男だった。貴方にオカマと罵られ、蹴られ、殴られ、そして、ここで命を落としたの。」
 彼の顔が青ざめてゆく。「ゆ、許してくれ…」月並みな言葉で慈悲を乞う。「誰が貴方を許すと思う?今度は貴方が責められる番よ。」僕は彼の意識に同調した。彼の中から彼の意識が弾き出される。弾かれた意識は目の前の肉体に囚われる。僕は彼女に聞いた。「どうだい、犯されるっていう感覚は?」
 僕は彼を嬲り倒した。しかし、彼はその全てを快感と感じている。それは男ではなく、女としての悦感である。彼の男としてのアイデンティティが崩れてゆく。自らペニスを欲して僕の下半身に縋り付いてきた。
「もう大丈夫だよ。」僕は鳥になった彼女に言った。彼女は僕の肩に舞い降りてきた。「窓を開けてくれる?」僕は彼女の声に従った。心地好い風が吹き抜けてゆく。「ありがとう。」彼女はそう言うと翼を広げ大空に羽ばたいていってしまった。
 
 
 
 僕は久しぶりに外に出た。手にした紙袋を胸に抱いて空を見上げる。
 1羽の鳥が彼方の空に消えていくところだった。
 
 
 

−了−


    次を読む     INDEXに戻る