By 奈落(Naotoshi) E-mail:PFB01406@nifty.ne.jp


 鏡に映った僕の姿……
 まるで「女の子」のようだ。
 華奢な手足、細い首、童顔。
 素肌は太陽の光に触れたことのないような……

 長髪ぎみの髪がボーイッシュな少女を連想させる。

 想像が想像を呼び、妄想となる。
 発育の未熟な胸はフカフカのセーターが覆い隠す。
 フレアのスカートが下半身を取り巻く。
 ストッキングが両足を包む。
 耳にピアス
 爪にマニキュア
 ヘアバンド
 ・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 鏡の中に少女がいた。

「キミは誰?」問いかけても少女は微笑みを返すだけ。
「一目惚れかな?」
(あたしも…)少女の声が聞こえた。
「エッ?」思わず問い返す。
(あたしもあなたに一目惚れしたみたい)
「こんな僕でも?」
(あなただから…)
 ふたりはじっと見つめ合った。

(ねえ)しばらくして、彼女が沈黙を破った。
(キスして)彼女はそっと瞼を閉じた。
 僕はゆっくりと彼女に近付く。
 僕も瞼を閉じ、彼女と唇を重ねる。
 腕を伸ばし、彼女を抱きしめる。
 二人はゆっくりと倒れていった。

 ……鏡の中へと……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ここはどこだ?」
 気が付くとあたりは白い靄に包まれていた。
「ここは『鏡』の中よ。」
 女の声が答える。
 彼女の声だ。
 さっきよりはっきりと聞こえる。
「君は?」
「あなたには判っているはずよ」
「まさか?」
「そう、わたしはあなた。そしてあなたはわたし。わたしは鏡に映ったあなた自身に他ならないのよ。」
「君は僕?」
「そう、正しくはあなたの妄想が生み出したもう一人の『あなた』ね。」
「そんなバカな…」
「ここでは常識は通用しないの。『鏡』のこちら側は何でもありの世界。ほら、私の姿が見えるようになったでしょう?」
 言われる間もなく、靄の中、僕の目の前に彼女の姿が浮かび上がってきた。
「こんな事も出来るのよ」
 フッと、一瞬彼女の姿が消えたかと思うと、次の瞬間、別人となって現れる。
「誰だかわかる?」
 声はそのままに男の姿となった彼女が僕に問いかける。


「それは『僕』だ。」変身した彼女の姿は、毎日鏡に映し出される僕自身の姿だ。
「そう、わたしはあなた自身。それじゃあ、あなたはだぁれ?」

 言われて自分の姿を確かめる。
「?」
 まず、服が違っていた。
 フカフカのセータを着ていた。
 足にまとわりつく感触はズボンではない。
 スカートを穿いていた。
 その下はストッキングだ。
 指先にはマニキュアが塗られている。

 もうこれ以上確認する必要はない。
 それは、僕がついさっき妄想していた『少女』の姿そのものだった。

「それがあなたの望んだ姿なのよ。」
 彼女は更に続けた。
「服を脱いで、本当の姿を知りなさい。出来ないのならあたしが手伝ってあげるわよ。」
 僕が戸惑っていると、彼女(?)は僕と体を密着させ、僕の腰に腕を廻すとスカートのホックに指を掛けた…ファスナーを下げる…パンティー・ストッキングの縁に指を掛け、下着もろとも一気に脱ぎ取る。
 次は上半身…セーターを剥ぎ取り、ブラウスのボタンを上から数個外す…襟を掴み、両肩を剥き出しにするとぐいと引き下ろす。手首が抜けると、ブラウスはストンと落ちて僕の足元でスカートと同じ運命を辿った。
 最後に残ったのがブラジャー…小さな胸を覆っている…彼女の指がホックを外す…肩紐に手を掛けゆっくりと取り除く。
 彼女/彼は僕の目の前にブラジャーを掲げるとそのままストンと床に落とした。
 そして、一糸纏わぬ『僕』の姿が現れた。
「鏡が必要ね」
 彼女/彼が望むと、そこに鏡が出現した。
 僕と彼女/彼の姿を映し出す。
 全裸の女の子の脇に『僕』が映っている。
 その『僕』は僕ではない。
 『僕』の隣にいる全裸の少女こそが僕自身なのだ。
 それは僕の妄想した姿と一寸も違わなかった。

「座りなさい」
 そこに椅子が現れた。
 言われるままに、ゆっくりと腰を下ろす。
 同時に鏡の中の少女も椅子に座った。
 僕の姿をしたもうひとりの僕(?)が僕の傍らを離れた。
「あなたはあたし、あたしはあなた。そう言ったわね?でも、ほんとはちょっとだけ違うの。それは、あたしは鏡の中のあなた。鏡に映ったあなた。虚像でしかないのよ。でもね、ここは鏡の中…あたしの世界。鏡の中ではこんな事も出来るのよ。」
 そう言いながら、彼女/彼が鏡の後ろに消えた。
 消えると同時に、鏡の中の少女がニヤッと淫蕩な微笑を浮かべた。
「わかる?」
 彼女の声が鏡の中の少女の口から発せられた。
「あたしは鏡の中のあなた。だけど、ここは既に鏡の中。だから、ここではあなたがあたしの虚像となるのよ。」
 すぐにも僕は理解していた。
 何よりも、そう言う彼女の口の動きに合わせて僕の口もパクパクと上下しているのが判ったから……
「そういう事。あなたはあたしのする事に何も手出し出来ない…例えばこんなふうに……」
 鏡の中の少女が椅子の上で腰をずらし、両足を高く上げ、肘掛けに絡ました。
 同時に、僕の肢体も同じ動作をしていた。僕の肉体は彼女の言いなり…鏡の中の彼女の動きを寸分違わず模倣し続ける。その姿が目の前の鏡に映される。
 鏡に映る僕の姿…少女は彼女の秘部を淫らに露出させている。
 さらに、彼女は秘部に指を付き立てた。僕の指も、鏡に映された者の宿命に従う。僕の体は僕自身の意思を無視し、無条件に彼女の動作を模倣する。
 指先が秘部に触れるのを感じるとともに、秘部もまたそこに触れる指先を感じた。
 僕は今、鏡に映っている少女なのだ。鏡の中の少女と同じ体になってしまったことを実感する。
 さらに、突き立てられる指…
「痛!」
 それは、男が経験する事の無い不可思議が感覚…痛みと快感が攻めぎ合う。
 僅かに、歓喜の波が苦痛を上回る。
 喉の奥から淫蕩な呻き声が捻り出される。
 それは彼女が発したものを自分が模倣したものか、僕自身が自ら発したものかは定か出はない…が、確かに僕の唇から紡ぎだされている。
 指先に愛液が絡み付く。
 自慰の快感が脳髄を貫く。
 それは男性の感じるものの数倍の快感である。
 鏡の中の少女の動きに合わせて、指を動かす。僕の動きに合わせて、鏡の中の少女が淫れる。
 既に、僕は鏡の中の少女の模倣ではなく、自らその行為を進めていた。
 鏡に映った僕自身のように、鏡の中の少女が僕自身と一体化している…

「準備はできたようね。」
 彼女が鏡の後ろから現れた。
 鏡には両足を淫蕩に広げ、自慰に耽る少女の姿が映っている。これが今の僕の姿…
 その隣にもうひとりの少女が現れる。鏡に映したようにそっくりだ。彼女もまた全裸だった。
「じゃあ、いいわね?」
 彼女の言葉と同時に椅子が寝台に変化する。
 僕はベッドの上に横たわる。
 その上に彼女が覆い被さる。
 ベッドの上で同じ顔をした二人の少女が絡み合う。
 彼女の秘部もまた濡れていた。
 太股を互いに押しつけ合い、腰をくねらす。
 小さいながらも張りのある乳房を重ねる。
 乳首がキュッとそそり立つ。
 唇が合わさる。
 彼女の舌が僕の唇を割って入り込む。
 唇が絡まる。
 彼女の指が新たな性感帯を刺激する度に僕は悦楽の叫びを上げる。
 主導権は全て彼女の手の内にあった。

 幾度めかの絶頂の後、彼女は新たな技を披露した。この世界では彼女は全能のようだ。
 彼女の股間に男性のシンボルが現れる。それは『僕』のもの?…
 見慣れたはずのそれを目の前にまざまざと見せつけられると、不思議に胸が締めつけられる。
「どうするか判っているわね?」
 彼女に言われるまでもなく、僕の口は開き、舌が伸びていた。
 舌先がそれに触れる。
 一気に喉の奥までそれを頬張る。
 舌先で袋を撫で上げる。
 溜まりきった白い液が一気に噴出する。
 最初の迸りを飲み干すと、溢れた分を余さずに嘗め取る。
 そういった行為を躊躇いもなく、自分から進んでやっている。
 生まれた時から自分が淫蕩な少女であったかのように錯覚する。

 一瞬、自分が何者であったのか思い出す。
 しかし、彼女の萎えたものは既に復活し、僕の目の前にあった。
「いくわよ」
 彼女の声にハッとする。彼女は体の向きを換えようとしていた。
 鏡の中に今の自分の姿を見いだす。男のものを喜々として迎えようとしている。淫女のような…
 少女の姿はしていても、僕は男だ!このままではいけないと、手足を屈める。
「どうしたの?」
 僕の行動の変容に彼女がいぶかる。
「それならそれでいいわ」
 彼女の姿が変わった。
「今度はレイプよ。」
 男の姿になると、屈めた僕の手足を解きにかかる。少女と成人男性とでは筋力の違いは歴然である。簡単に腕を解かれ、頭上に拘束される。膝と腰を使って、強引に僕の膝を割ってくる。下半身に男の逸物が触れる。
「いやっ!」
 僕の口から甲高い悲鳴が衝いて出る。今更ながら、自分が『女』である事を思い知らされる。狙いを済ませて彼/彼女のモノが押し入ってくる。熱いものが下腹部に突き立てられる。彼/彼女は『男』のパワーに物を言わせてズンズンと腰を動かす。骨盤が当たる。痛みの向こう側に序々に快感が見えてくる。
 ついに、僕の意思は肉体に屈してしまった。
「あぁ〜」と甘い声を上げて、男の胸に抱き付いた。腰を持ち上げ、男のモノをさらに奥へと誘う。男も応えて体位を変える。僕は男の上に馬乗りになり、大きく海老反る。自分から腰を振り、『男』に最大限の快感を提供する。柔らかな『女』の体は反り返ると上下逆さに男の顔を見る事になる。
 その顔は何処かで見たことがあるはずだが、なかなか思い出せない。
 それよりも、男への奉仕が大切と僕の肉体が告げている。舌を延ばし、男の鼻先、額、頬、顎、瞼を順に嘗め上げる。この行為に男も応え、両手で乳房を包み込み、指先で乳頭を刺激する。更に体を反らし、喉から胸、腋の下に舌を這わせる。男の愛撫も指先から舌先に変わる。僕は舌の先で臍の穴を掘った…

 不意にどんでんが返るように、ぐるりと景色が飛んだ。
 袋や服が返るように、内側と外側が入れ代わる。
 僕の上に女が乗っていた。
 下半身に僕の逸物を哈え込み、反り返ってこちらを向いた顔には満面恍惚の表情を浮かべている。

 そして、世界が爆発した。


 僕の足元にガラスの破片が散らばっている。
 それは鏡の残滓。
 小さな鏡の切れ端には様々な僕の姿が映っている。
 少女の僕、年老いた僕、生まれたばかりの僕、中年の僕、幼い僕……
 更に見ると、僕とは思えないものもある。中世の衣服を着ていたり、古代の衣服を着ていたり、あるいは未来的な衣服を着ていたり…
 それは僕の前世や来世の僕なのだろうか?
 更に良く見ると同世代の『僕』でも雰囲気が違う。
 それは並行世界の僕…

 その全てが僕でないのと同様に全てが『僕』であるという認識があった。
 鏡に写る全ての『僕』に僕はなれる。
 僕は一枚の破片を取り上げた。

 次の瞬間、他の全ての破片に映る僕の姿が手に取った破片に映った僕の姿に一瞬のうちに変わった。
 振り返ると窓ガラスに『僕』の姿が映っていた。


−了−

    次を読む     INDEXに戻る