ミッション6



 俺はぼーっと宇宙空間を眺めていた。今は何もする気力が起きてこない。
 
 気が付いた時、俺は女の身体になっていた。正確にば俺の意識が女アンドロイドの中で目覚めたと言うべきなのだろうか?俺は相棒のレイナとなっていた。
 視線を落とすと膨らんだバストがあった。胸に詰め物でもされたかと把んでみたが、胸からはしっかりと把まれる感覚が届いてきた。その把んだ手も細く、爪にはマニキュアが塗られていた。
 俺の前には全身を映し出せる鏡が置かれていた。鏡に映っていたのは俺ではなくアンドロイドのレイナだった。レイナはいつもの通り会社指定のピンクのミニスカートを穿いていた。俺は胸から手を降ろしソレに触れた。ソレの端を摘まみ恐る恐る持ち上げると、鏡の中のレイナがスカートを捲りあげ水色のショーツを晒ていた。
 俺は自分がレイナとなっていることを認めるしかなかった。ブリッジに戻り自分の席に座った。体型が変わったせいか尻が落ち着かない。試しにレイナの席に着くと何の違和感もなかった。
 目の前のコンソールに船内コンピュータからの情報が表示されてゆく。と同時に俺の頭の中に詳細な情報が流れ込んできた。これは、俺の肉体と船内コンピュータ、レイナの身体が密に連係していることによるものであると後になって判った。
 船内のことが居ながらにして判るとなると、何かをするという気力も失われてしまう。俺は席に座りぼーっと宇宙空間を眺めていることになった。
 
 
 
 眺めていると、ふっといくつかの星が消えた。錯覚だとも思ったが、念のため船内コンピュータに問い合わせてみた。が、その回答は異常なしであった。余りにも無機質な回答が俺を奮い立たせた。
 コンソールに星図を表示させる。視点を調整し、現在点からの恒星配置を再現する。それに俺の…というよりレイナの頭脳に記録されていた映像を恒星配置に重ね合わせてみた。確かに数個の恒星が消えている。
 それらの配置は円弧をなぞっていた。円弧を円周に広げてみると新たに消えた恒星が見付かった。そこに何かがあるのだが船の計器では捕えることができない。考えられるのは不可視化フィールドしかない。
 そんなものを持っているのは軍か海賊である。今ここに存在する可能性が高いのは海賊しか考えられない!!
 
 俺は緊急警報を発すると、エンジンにフルパワーを注ぎ込んだ。生身の肉体では耐えられない加速もアンドロイドの身体には何ともない。あと少しで手に入る筈の獲物に逃げられた海賊は不可視化フィールドをかなぐり捨て追い掛けの体勢に入った。
 常識外の加速で彼我の距離はかなりのものとなったが、それでも安全とは言いがたい。何しろこちらは貨物宇宙船である。引き離すことはできたが、いつまでもこの加速を維持できる訳ではない。それに海賊の探査装置の能力にはずば抜けたものがあるのだ。俺は貨物船の貧弱な探査装置で身を隠せるような小惑星帯を必死で探した。
 海賊船は執拗に追い続けた。こちらも適当な小惑星帯を見付け、幾度かのフェイントの後で隠れ場所に向かった。エンジンが限界にきていた。小惑星帯が近付いてきた。フェイントの効果か海賊船の探知波も途切れていた。俺は船をエンジンを労るため慣性航行に切り替え一息ついた。
 
 
 
 ゴンッ
 
 船体に何かのぶつかる音が響き渡った。
 スクリーンに厳つい男の顔が映し出された。「鬼ごっこはお仕舞だ。観念するんだな。」
 探査装置は彼方から接近してくる船影を捕えている。海賊船はもう一隻いたのだ。音はスクリーンの男の船が接舷したことを意味する。船内カメラが新手の船から侵入してくる武装集団を捕えていた。奴らは二手に別れ積み荷の確保と操船中枢の占拠に向かっていた。後者の向かう操船中枢とは今俺のいるブリッジに他ならない。扉の向こうに奴らの気配がする。ここで抵抗したところでどうなるものでもない。
 俺は奴らを迎えるように扉の前に立った。
 扉が開き何本もの銃口が突き出された。抵抗がないと判るとそれらの銃口を掻き分け、一人の男が姿を現した。「ほー、これはまた別嬪さんだなァ。兄貴はこんな娘に出し抜かれたのかい?」男は先程スクリーンに出ていた奴だった。「この船にはお前さん一人なのかい?」
 俺は答えに窮した。が、いずれは生命維持カプセルも発見されるのだ。俺は意を決してレイナに成り切ることにした。「わたしの他にはもう一名います。が、彼は現在生命維持カプセル内で半冬眠状態になっています。」
 俺は女言葉に自信がなかったので一人称を「わたし」として、なるべく丁寧な言葉を選んでその場を切り抜けようとした。
「ほぅ、あの芸当はお前さんがやったってことか。海賊ん中でもそんだけ肝っ玉の座った奴は多くはいないぜ。」海賊に褒められても素直には喜べない。第一あれは俺の身体がアンドロイドだったから可能だったのだ。
 
「取り合えず縛っておけ。」と部下に指示を出す。俺は近くの小部屋に放り込まれた。どうにか生身の女と認識されたようだ。
 監禁されたとは言っても俺と船内コンピュータのつながりには何の変化もない。俺は奴らの行動を逐一追ってゆくことができた。しばらくすると、もう一隻の海賊船も接舷した。兄貴と呼ばれていた男が乗り込んで来ると、早速にも俺の監禁されている部屋に入ってきた。
「こいつがそうか?」男は俺の頭の上からつま先までを一瞥した。「生意気な娘の扱いは教えといたろう?」後ろに控えた弟分を問いただす。「なに分これだけの上玉なもんで、やはり兄貴の判断を仰ぎたかったんです。」との答えに「そうか?」と奴はにたりと笑った。
 
 
 
 ドアが閉められ俺は奴と二人きりになった。俺を縛った縄はいつでも千切ることはできた。が、船を占拠した奴らをどうにかできない限り俺は自由を得ることなどできはしない。今は、生身の女を演じるしかない。
「へっへっへっ…」奴は卑猥な形相でナイフを手に近付いてきた。ナイフの先端が胸の谷間をなぞると、双つの肉塊が転がり出てきた。ナイフの切れ味の良さと奴の巧みさで俺は縛られたまま全裸にされていった。もちろん俺の皮膚には傷一つ付いていない。
 最後に残ったショーツにナイフが入れられる。一片の端布が大事な所を覆い隠しているだけになっていた。奴はナイフを使ってゆっくりと最後の布切れを持ち上げていった。
「さぁ、ご対面だ。」端布が取り払われる。「良いねェ。こんなに奇麗な状態でお目にかかれるなんて滅多にあることじゃないよ。」奴は脚の縛りを切り放つと俺に股間を開くように命じた。「被虐趣味でお汁を滴らせる女もいないではないが、ほとんどの娘は小便を垂らして失神しているものだ。」
 奴はナイフの尖端で股間の肉襞を突いてゆく。「ほら、俺様に何をされても従順なのは単なる見せ掛けにしか過ぎない。その可愛い顔の後ろにある頭の中では冷静な確率計算が繰り返されているのだ。」
 奴がナイフを仕舞った。「だが、所詮お前さんはオンナなのだ。本物の男の前では冷静な計算などできなくなる事を教えてあげるよ。」そして、奴の指が俺の全身を這廻っていった。
 
 俺の身体が開発されてゆく。快感が内に蓄積される。
 いつの間にか俺は「あぁ♪」と媚声をあげていた。
「そうだ。女は可愛ければ尚良い。自らが悦びを求めることが男にも悦びを与える。お前は本当に良い女だ。」
(違う!!俺は男だ!!)と頭の中で反論するが、女の悦びが全てを押し流してゆく。奴の逸物が俺の中で暴れ始めると俺は辺り憚らずに嬌声を上げていた。既に俺を拘束していた縄は離散していた。俺は自ら奴の上に跨り腰を揺していた。
 
 
 
 一度でも知ってしまった快感は忘れることはできない。それは麻薬のように俺を堕落させていった。俺は奴らの性処理道具と化していた。代わる代わるに挿入される。それは膣だけではない。口にも肛門にもペニスは突き立てられる。俺は奴らのザーメンを喜々として自分の内に取り込んでいった。
 しかし、そのような蜜月も長くは続かない。海賊は獲物を求め続けていかねばならない。快楽に溺れていてはいずれ食糧が尽き動くこともままならなくなる。海賊達は出立の準備を始めていた。俺も海賊船に移されることになっていた。しかし、俺はこの船を離れる訳にはいかない。俺の本体は生命維持カプセルの中にあり、この船に残されることになっているのだ。船と切り離されたこの身体は単なるアンドロイドとなり、俺は元の肉体に…男に戻されてしまうのだ。
 積み荷の目ぼしいものは粗方海賊船に移されてしまった。次には食糧が持っていかれる。俺の身体は食糧を必要としていないが、俺の立てた計画には不可欠なものである。時間との勝負だった。俺は計画を実行に移すことにした。罠を仕掛け獲物を待つのだ。獲物は決めてある。条件は俺を満足させるモノを持っていること。そして重要なポストに就いていないことだ。
 
 そして、獲物が罠に掛かった。ただちにその部屋を封鎖する。船内コンピュータと直結された俺は自分の身体のように船を支配している。罠となった部屋が密閉されると、俺はその部屋を除いて船内の空気を徐々に抜いていった。奴らが自分達の船に戻れるように配慮したためである。警報が鳴り響き、奴らはエアロックに殺到していった。
 俺のことを気に掛ける奴などいない。俺は空気の薄くなった通路をブリッジに向かった。アンドロイドの身体を得た俺には空気の有無は関係がない。遠のく警報音の中、シートに着いた。海賊船が切り離されるのを待ってエンジンを起動する。故障を装い無秩序な制動を駆けた後、俺は慎重に選んだ軌道に貨物船を乗せた。
 貨物船は一直線に太陽に向かっていた。海賊達も追ってこようとはしていない。やがて海賊船は二隻ともこの星系を離脱していった。
 慎重を期して貨物船に自由落下を続けさせる。星系内の惑星の引力により船のコースは太陽から徐々に反れていく。太陽を掠めるように追い越せばこちらのものだ。
 奴らが残していった積み荷はがらくた同然のものばかりである。これらを投棄してしまえば現在の燃料でも手近の宇宙港には辿り着ける。
 だが、今しばらくは慣性航行を続けていよう。時間はまだ十分にあるのだから…
 
 
 
 俺は船内に空気を補充すると、あり合わせの材料で簡単な料理を作った。もちろん俺が食うためのものではない。罠に捕えた獲物のための餌だ。
「飯だ。食え。」差し出すと若者は皿まで食べてしまうかのような勢いで平らげていった。若者の名はロイド、まだ見習い期間の海賊だった。奴らにとっても員数外であり、わざわざ捜しに戻る必要のない人間である。
 俺が彼を獲物に選んだのは若さもさることながら、その逸物の大きさにあった。
 食事が終わった後で立たせると、彼の股間はパンパンに膨らんでいた。俺はゴクリと音を発てて生唾を飲み込んでいた。
 ロイドは俯いていた。彼は淫蕩な女の裸体を直視できる程スれてはいなかった。「お前も脱げば少しは楽になるぞ。」とアドバイスしてやる。しかし、彼にとっては俺の発する言葉の全てが自分に対する命令に他ならなかった。ジャケットを脱ぎ、ズボンを脱いで下着姿となった。垣間見える手足は予想以上に逞しかった。更にアンダーシャツが取られ、パンツが外されると、彼もまた全裸となった。そして、その股間には立派なモノがそそり立っていた。
 それを見ただけで俺の股間からは蜜が滴り落ちてゆく。躇いもなく彼の前に跪づくとソレを口に含んでいた。若々しい香りが俺の鼻をくすぐる。溜まりきった精液が怒涛のように俺の喉に流れ込んで行く。一度や二度の放出では衰えることもない。俺は上からも下からもロイドの精液で満たされていった。
 
 
 食糧が残り僅かとなった。俺には必要ないが、生身のロイドには重大な問題である。しかし、食糧を補給するにはどこかの港に立ち寄らなければならない。それは海賊の一員であるロイドが捕えられることであり、彼との離別を意味する。俺はロイドと離れたくはなかった。
「あと少しで最終航程に入ります。準備をお願いします。」俺は船内コンピュータからのメッセージを受け取った。規定により、最終航程は生身の人間が操縦していなければならないのだ。俺は俺の肉体の覚醒処置を始めた。「何をしているんですか?」ロイドが覗き込んでくる…
 その時、俺はひらめいた。俺はロイドに聞いた。「お前、しばらくの間レイナになっていてもらえないか?」
「貴女にですか?」ロイドが当惑するのも無理はない。俺はレイナのからくりを説明してやった。
 
 
 
 
 
 
 誘導ビーコンを捕える。自働操縦に切り替えて、俺はレイナを見やった。もうすぐ彼女の中でロイドが目覚めるのだ。椅子に座ったまま虚ろな目をしていたレイナに突然生気が舞い戻ってきた。
「やぁロイド、気分はどうだい?」「は、はい?」と答えようとした声は既にレイナの愛らしい声であった。ロイドは自分の身体を確認する。服は海賊達に切り刻まれて着ることができない。彼は女の裸身を直に触ってしまい、うろたえていた。そこには生娘の恥じらいがあった。
 
 気が付くと俺はレイナ=ロイドをブリッジの床の上に押し倒していた。俺は激しく萌えていた。
 
 
 
 俺は初めて自らの精をレイナの中に放っていた。
 
 
 

−了−


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