ミッション7



 俺は男に抱かれていた。
 しかし、それは男色とかいったアブノーマルなものではない。ごく普通の男女の営みである。
 そう、今の俺は『女』なのだ。
 
 
 長距離貨物輸送船はコスト重視で運航される。だから旅客宇宙船が数日で飛び越える航程も燃費の良い経済速度で航行するため、数週間、条件によっては数箇月も掛かることがある。乗組員もどんどん削られていった。最後には、規則により無人運航が禁止されているので最低限の1名の乗組員で運行することとなる。その唯一の乗組員も巡航中は疑似冬眠状態にして食糧の消費を抑えてコストを下げるところまできていた。
 規則上無人にはできないので、肉体は疑似冬眠にあっても精神はアンドロイドの身体に移し巡行中も活動させることになった。そして、俺に与えられたのは女アンドロイドの身体だった。女アンドロイドは元々、乗組員の慰安用に配備されていたものである。従って慰安すべき乗組員が冬眠してしまえば用無しとなる。冬眠中の活動体として真っ先に白羽の矢が立てられたのだ。
 
 
 
「暇だなぁー」俺はカイに愚痴をついていた。もちろんカイもアンドロイドである。これまでなら、暇ができれば直ぐにももう一体のアンドロイドのミアとベットに向かうのだが、誘うべきミアが現在の俺自身なのだ。
「何なら私がお相手しましょうか?」俺の愚痴にカイが応える。「相手って、俺は男を相手にする気はないぞ。」
「それは論理的ではありませんよ、キャプテン。」カイが滔々と反論を始める。人間がアンドロイドとまともに論戦するのは疲れるだけで何の成果も得られることはない。俺は妥協してベッドに上がるしかなかった。
 
 いつもならミアを寝かせる所に俺が横たわった。そして、いつもの俺の位置にカイがいる。
 カイが俺を抱き締めた。その途端、カチリとスイッチが入ったかのように俺の身体が熱くなった。いつもなら硬くなる股間が暑く潤んでいった。カイの掌が内股を這い上がってくる。何とも言いがたい快感に身震いする。その指が俺の股間に押し当てられた。カイの指先が俺の中に入ってくる。「あぁ…」自然と声が漏れる。痺れるような快感に身体が麻痺したようになる。自分の意思では指一本動かせない。ただ快感だけが俺の身体を支配し、艶かしく身悶えさせる。カイが身体を重ねてきた。股間が圧し広げられ、俺の中にカイのペニスが侵入してくる。俺の女性器がそれを難無く受け入れる。俺の中でペニスが動き回り、俺は歓喜の嬌声をあげ続けていた。
 
 それからというもの、俺達は暇さえあればSEXに勤しんでいた。しかし、暇だらけの俺に対してカイの方は何かと用事がある。俺はブリッジのキャプテンシートで暇を持て余していた。航宙図に記された航跡をたどり、予定航路を追ってゆく。単調な計器の動きを追ってみる。レシーバを耳に当て通り過ぎてゆく通信を傍受する。
 
 微かに見知ったシグナルを聴いた。系列会社の宇宙船からのものだった。シグナルを解析してみると、それは救難要請の暗号コードだった。公知の救難要請ではないことから、それほど切羽詰まった状態ではないのだろう。あるいは、その船には外部に知られたくないような秘密を持っているのかも知れない。暇潰しも兼ねて、俺はその宇宙船までの航路を試算してみた。
 
「カイ、救難信号を受信した。航路を修正するぞ!」俺はキャプテン権限でカイに指示を出した。その宇宙船は我々の予定航路の近くにいた。航路を逸れることによる時間のロスと距離の増加に対して、燃料の蓄えが充分であるとの判断であった。
 
 
 
 やがて映像通話圏内に到達する。相手をコールするが、呼び出しに応えが来るまでしばらくの時間が掛かった。そしてディスプレイに現れたのは顔を上気させた若い女だった。シーツを身体に巻き付け、正に情事の最中であったことを物語っている。「ナニをしていたんだ?」と聞くと「ナニに決まっているだろう♪」と女。見るからにアンドロイドと判る整った顔立ちをしている。「こっちはエンジンが故障して身動きがとれないんだ。暇な時にはコレしかないだろう?」いいかげん雑大な女の態度には呆れてしまう。
「判った。判ったから船長に代わってくれないか?」と俺。「それは無理だな。」即答される。「この船にはオレしか乗っていない。つまりオレが船長なんだな。だから他の人間と代わることなんかできないのさ。そこん所の細かい事はアンタんとこも同じだろ?」
「そうですね、キャプテン。あちらの船で活動しているのは彼女一人のようです。」カイが計器を読みながら報告してきた。
 その声に向こうが反応した。
「お、お前んとこにはオトコがいるのか?」画面一杯に奴の顔が引き伸ばされる。「アンドロイドだがな。」と答えてやる。「カイ、そいつに顔を拝ませてやれよ。」と俺はカメラをカイに向けた。
「い、良いなぁ。すぐにでもそっちに行ってお手合わせさせてもらいたいもんだ。」「何考えてんだ?あんた男だろう。」「今はオンナだよ。こっちじゃ男といったら元のオレの身体しかないんでね。カプセルから出して無理やり勃たせてみたけど、意識がないとオナニーと変わんないもんな。」「あんた、自分自身とヤったのか?」呆れる俺を余所にそいつは通信を終わらせた。いや、通信自体はまだ切れていない。奴はマイクを置いただけだった。そして、あろうことかその場で独りエッチを始めたようだ。艶かしいオンナの喘ぎ声がスピーカに届いてきた。
 
 
 
 奴の船が視界に捕えられた。エンジンが大破し、船体も非常に危険な状態にあった。
 接舷のためゆっくりと近付いてゆくと、向こうの船から何か白い物が飛んできた。それは全裸の女性だった。女はこちらに辿り着くと、手際よくエアロックを操作して乗り込んできた。「来たよ。さっそくシよ♪」彼女は早くもカイの腕を絡めとっていた。カイが俺を見ている。「良いよ。いってやれ。接舷作業なら俺一人でも大丈夫だ。」
 二人が出ていったところで操船に集中する。スラスターを小まめに吹かして両船のエアロック同士を重ね合わせる。係索で船体を固定すると、船外作業でエアロックの間をシーリングしなければならない。
 アンドロイドの身体は呼吸する必要がないので、極端に言えば奴のように素っ裸でも外に出ても問題はない。しかし、俺の方は船外で作業をしなければならないのだ。従ってそれなりの装備が必要となる。俺は船外作業着に身を包み、補助ハッチから外に出た。
 
 シール剤を吹き付け終わると二つの宇宙船は一体となった。センサーで気密を確認し、遠隔操作でエアロックを開放する。シール部分が空気圧で膨らむが十分な強度が空気を漏らさずにいる。
 次は反対側のエアロック操作だ。奴の船の補助ハッチに潜り込み、船内からエアロックを開放した。こうして双方の船が自由に行き来できるようになった。俺は一息つくためにヘルメットを脱いだ。
 
 俺の船の方からは甲高い女の嬌声が響いてくる。奴の声に背を向けるようにして俺はこちらの船内の状況を確認して廻った。居住区だけを見れば、外観から想像していた程は大きな損傷はないように見えた。が、一歩貨物区画に足を踏み入れた途端前言を撤回しなければならなかった。
 そこは居住区に影響がでていないのが不思議な程に破壊されていた。もちろん積み荷は全損に近い。こうなると曳航するよりは奴だけ俺の船に乗せてやり、奴の船は廃棄することになるだろう。俺は今後の事を相談するために一旦自分の船に戻った。
 
 
 
「話しがある。」俺は奴の船から拾ってきた衣類を投げて渡した。
「その前に言っておく。ここは俺の船だからな。こちらにいる間は身なりを整えておいてくれよな。」奴は身を起こすと予想外に素直に受け取った。しかし、その後に素直でない言葉が続いた。「オーケー、ミアちゃんの頼みなら仕方ない。」
「ミ…誰がミアちゃんだぁ?」俺は絶句する。
「カイからそう聞いたぞ。それからオレのことはシルヴィーと呼んでくれ。」「あんたの名前はシルバーだろうが!!」「この身体に厳つい名前は似合わないんでね。それよりも話しがあったんじゃないのかい?」
 すっかりシルヴィー=シルバー船長のペースになってしまったが、俺は大きく息をして心を落ち着かせると被害状況を報告した。
 
「そんなことはあんたに調べて貰わなくても判っているよ。オレの船の燃料を積み込めばオレを乗せていっても十分に航程の遅れは取り戻せる。もちろんオレは生身に戻らなければならないから、食糧も持ってくる必要があるだろう。」意外と冷静なようだ。「じゃあ早速…」と俺が作業を始めようとすると…
「で、モノは相談なんだが、オレはこのシルヴィーの身体が気に入ってしまったんだ。一緒に連れていってもらえないだろうか?」
 消費燃料を試算するまでもない。アンドロイドなどは誤差の範囲だ。了解すると「もう一つ」と付け加えてきた。「オレの船の食糧を加えても生身に戻った俺はかなり空腹に耐えなければならない。だからギリギリまでこの身体で楽しませて欲しい。」
 俺は奴の提案を断る理由が見いだせなかった。
 
 
 
 奴の言うギリギリのタイミングまで残り僅かとなっていた。奴がカイを放さないので食糧や燃料の積み替えは俺がやるしかなかった。奴の希望で生命維持カプセルも運び込んでいた。少しでも長い時間シルヴィーでいたいという理由だ。奴の肉体の覚醒後には廃棄することになっている。既に覚醒シーケンス起動のタイマは設定されていた。
「ミアちゃん。ちょっと来てくれ。」奴が呼んでいた。もうミアと呼ばれても反抗する気もうせていた。カイと入れ代わりに部屋に入る。「もうすぐ元の肉体に戻らなければならない。最後にどうしてもやってみたいことがあるんだ。」そう言って俺に近付き、唐突に抱き締めた。「なぁ、女同士っていうのをヤらしてくれないか?」と、俺の耳元に暖かな息を吹き掛けた。そこが弱いことをカイから聞き出していたのだろう。俺は何の抵抗もできないうちに服を脱がされていた。
 そのままベットに押し倒される。ここしばらく禁欲状態にあったためか、俺の身体も即に応じてしまう。奴は女の身体がどう反応するか熟知していた。男にはない繊細な指使いが俺の興奮を導き出してゆく。溢れ出る愛液が奴の舌で嘗め取られる。舌先が俺の敏感な所に触れた。
「あっ、ああ、ああ〜〜〜ん♪」俺は嬌声を上げずにはいられなかった。
 
 
「オレにもシてくれよ♪」と奴が俺の頭を跨ぎ越す。俺の目の前に濡れそぼった女陰が押し付けられてきた。
 久しぶりに見るミア以外の女の女陰だった。本来であれば俺自身のペニスをそこに突っ込みたくなるのだが、奴が男であると意識してしまい萎えてしまう。いや、今の俺には萎えるべきペニスがない。「早くぅ♪」奴が要求する。仕方なく舌を延ばして舐めあげてやる。「ハァン♪」奴もまた女の媚声を上げ始める。俺は奴が俺にしたように、奴の肉の割れ目に舌先を差し込んだ。とろりと愛液が溢れてくる。すると、奴も同じように俺の中に舌を差し込んできた。俺の膣からも愛液が溢れる。指先で肉襞を掻き分け更に奥へと舌を進める。チュパチュパと音を立てて蜜を吸い取る。嬌声が上がる度にその行為が中断されるが、秘所の舐め合いはしばらく続いた。
 一息つくと、今度は奴が俺の脚を抱え上げた。充分に濡れた股間同士を押しつけ合うのだ。男ではペニスがあって不可能だが、女同士なら邪魔なモノはなくピタリと合わさる。肉襞と肉襞が触れ合う程に押しつけ合う。二人の愛液が混ざり合いチュクチュクと淫靡な音をたててゆく。俺の陰核が奴の愛液にまみれてゆく。
 
 
 互いの秘所を嘗め合い、乳房を押し付け合い、股間を櫟り合わせ、女同士で幾度も幾度も高みを迎えていた。
 それはタイマによりシルバー船長の覚醒処置が開始されるまで続けられていった。
 
 
 
 生命維持カプセルの蓋が開き、男が起き上がった。俺は手にした船内着を渡してやった。「ありがとうミアちゃん。」始めて聞くシルバー船長の声は意外と渋かった。「さっそくだが、何か食わしてくれないか?」その横柄な態度に「勝手にご自分でどうぞ。」と言おうとした。が、俺の身体は勝手に調理を始めていた。
 食事が終わると「腹ごなしだ。」と俺をベットに呼び付けた。「さぁミア、シてくれ。」俺は奴の脚の間に座らされた。目の前にはペニスがあった。それはアンドロイドの造られたものではない。本物の、生身の人間のペニスである。俺は奴の命令に逆らえなかった。俺は奴のペニスを咬えていた。ミアのアンドロイドの回路が人間への奉仕を強制しているのだと判った。俺の口の中で奴のモノがムクムクと膨れ上がる。そして長い間に溜め込まれた密度の濃い精液が放出された。俺はその全てを飲み込まされたのだった。
 
 俺は女アンドロイドとしての役割を負わされた。宇宙船の航行は男アンドロイドのカイが全てをこなしている。俺は女アンドロイドとして奴に抱かれ続けるしかなかった。
 
「もうすぐ最終航程に入ります。」カイが報告にきた。「そろそろキャプテンの覚醒処置を開始しませんか?」俺はその言葉に安堵した。が、すぐにその希望が打は砕かれた。「そんな事をしたら食い物が足りなくなるじゃないか。生身の人間という規則ならオレがいるじゃないか。お前も女のままの方が良いだろう?」奴の視線を感じる。「は、はい…」俺にはそう答えるしか許されていなかった。
 カイがブリッジにもどってゆく。俺はベットに戻り奴の為に股間を開いていた。
 
「船長の太いノをアタシの中に入れて下さい。」俺は命じられた通りに涙を流して懇願する。
 俺の願い通りに奴の肉棒が俺を貫いてゆく。嬌宴に終わりが来ることはなかった。
 
 
 
 
 
 
 俺は男に抱かれている。
 しかし、それは男色とかいったアブノーマルなものではない。ごく普通の男女の営みである。
 そう、今の俺は『女』なのだ…
 
 
 

−了−


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