ミッション4



 気が付くと俺はエアロックの前に立っていた。
 中から扉を操作する音がしたと思うと、すぐに扉が開いた。中から宇宙服を着た若い男が出てきた。「おかえりなさいませ、ご主人様♪」思いもよらない台詞が俺の口から紡ぐまれていた。条件反射のように男からヘルメットを受け取ると、骨董品の花瓶を預かったかのように両腕で抱えながら男の後に従っていた。
 俺はいわゆるメイド服を着せられていた。黒のワンピースに白いエプロンを着けたアレである。もちろん頭にも何か付けられている感じがする。そもそも、この身体自体が俺のものでは有り得ない。先程発した声もそうであったように、この身体はどう見ても「女」としか思えない。胸に抱いたヘルメットが押し上げているのは乳に違いない。その押し上げられる感覚を俺は男には存在しない部位から感じ取っていた。
 
 男が船室に入った。俺はヘルメットをサイドテーブルに置くと、てきぱきと彼の着替えを手伝っていた。ファスナーを下ろし、脱ぎやすいように背後から襟や袖を支えてやる。脱ぎ終わった服は奇麗に畳んで整理しておく。引き出しから新しい着替えの服を出しておく。彼がシャワーから出てくると用意しておいたバスタオルで全身の水滴をくまなく拭き取ってあげた。
 さっぱりとした船内着を着けると、彼はブリッジに向かった。俺もとことこと後を付いていった。ブリッジに入ると懐かしさが込み上げてきた。俺もかつては船長としてブリッジに立っていたのだ。それも、そう遠い昔ではない。つい昨日のようにも思える。ブリッジはどの宇宙船も同じなのか俺の乗っていた貨物船と何等変わりがなかった。いや、そこここに付いた傷や汚れまでもが同じことなど有り得るものなのだろうか?俺は天井の一画に視線を向けた。
 そこにあった落書きは、この船が俺の船であることを証明してくれた。では、この男は何者なのだろうか?そして、俺は何故このような姿になっているのだろうか?俺は出来うる限り記憶を逆昇ってみた。
 俺の頭の中は霧がかかったようにぼんやりとしか見えなかった。それでも直前のミッションの様子が見えてきた。女の子が言っていた。「キャプテン。会社からの新たな指令です。」それは出港を終え、港の管制圏をちょうど抜け出した所だった。女の子は人間ではない。高性能のアンドロイドなのだ。出港以来これといった通信はなかったのでこの指令は予め彼女にプログラミングされていたのだろう。
 指令の内容までは思い出せなかったが、新たな発見があった。ブリッジには港湾内航行等で有視界操船を行う為に窓が付いている。通常航行中は窓の外には漆黒の闇が広がっていて何も見ることはできないが、窓は鏡のように船内を写し出してくれる。そこにはメイド服を着た俺自身も写されていた。その顔は正に俺の記憶にあったアンドロイドの女の子のものだった。
 そこから一つの推論が生まれる。俺のこの身体は俺自身の肉体を改造したものではない。俺自身の肉体はどこかに保管されているのだ。それは俺が元の肉体に戻れる可能性を示唆していた。保管場所としてまず考えられるのが生命維持カプセルである。すぐにでも確認しようとしたが、俺は身動きができなかった。
 全てにおいて男の命令が優先されるのだ。俺は自分の意志では指先一本動かす事も出来なかった。俺はただじっと男に命じられた通りにブリッジの後ろで控えているしかなかった。
 時間は十分にあった。男は操舵を始め通信、探知など全てを一人でこなしていた。前の船長である俺よりもこの船を乗りこなしていた。俺は時々指示されて自動調理機から彼の食事を運んで来るだけだった。残った時間を俺は記憶の探求に費やした。が、頭に掛かった霧は一向に晴れない。そこでどうでも良いような所から思い出してみることにした。まずはこの船、やはり船名は隠されていたが船のスペックについてはすらすらと出てくる。次に現在の俺である女アンドロイドに関する記憶をひもといて行く。同じようにこの娘の名前は隠されていたが、それ以外の情報は簡単に引き出せた。
 しかし、それは俺自身の記憶ではなかった。それは、船内コンピュータに蓄積された情報だった。これもコンピュータから知ったのだが、このアンドロイドの身体と俺の肉体は船内コンピュータを経由してリンクされているのだ。しかし、何等かの細工により俺の肉体からの記憶の呼び出しに制限が掛けられていた。そのため、俺はアンドロイドとしての行動しかできなくなっていたのだ。
 
 男が席を立った。操縦装置には目標座標が設定され、そこまでの細かな経路指示の施されたオートパイロットがセットされていた。「さあ、お楽しみタイムだ、子猫ちゃん♪」男は俺の肩を抱いてブリッジを後にする。船内コンピュータがアンドロイドのスペックを知らせてくる。アンドロイドは人間の乗組員に代わり操船なども行えるが、その主たる任務は長期航宙における乗組員の精神的ケアである。簡単に言えば暇潰しの相手だが、それだけの理由でアンドロイドが女性型となっているのではない。暇潰しの中にはSEXも含まれるのだ。
 男がドアを開けるとその先にはベットがあった。俺はこの男とSEXすることになるのだ。今の俺は女だから彼のモノを受け入れることになる。頭の中では拒絶していても身体が勝手に動いてゆく。メイド服を脱ぎ去り、下着姿で彼の前に立った。「さぁ♪」と彼が促す。俺は何をすべきかを知っていた。船内コンピュータから情報が送られてくる。俺が意識を失っている間にアンドロイドが散々行ってきた行為が映像付きで俺の脳裏に焼き付けられていた。
 俺は跪づくとご主人様のベルトを外していた。チャックを下ろしズボンを脱がすと、トランクスの生地の裏でご主人様の分身が準備を整えているのが判った。
 逸る気持ちを抑えてズボンを畳む。そして、ゆっくりとトランクスを下ろすと、あたしの前にご主人様の分身が姿を現して下さった。あたしは口を開き、顔を近付けていった。
 あたしの口の中にご主人様が入ってこられた。至福の時を迎える。船内コンピュータが様々や角度からの映像を送ってくる。ご主人様のペニスを咬わえているだけで、あたしの股間は熱く潤っていた。ご奉仕を続けているとご褒美が貰える。「いくよ。」というご主人様の声と供にペニスの中を熱い塊が込み上げてきた。それはあたしの口の中に解き放たれる。芳醇な香りと、舌にまとわりつく感触が口の中を支配する。その快感を打ち払うように飲み下すと、ご主人様の鈴口などに付いた残滓を奇麗に嘗め取っていった。
 次はベットの上にあがる。ショーツだけを外してご主人様の上に跨った。剥き出しの女性器をご主人様の腰の上に降ろしてゆく。そこには硬さを失っていないご主人様のペニスがあった。あたしの濡れた肉襞を2度3度とこすり付け刺激を与える。そして、それをあたしの中に導いてゆく。
 あたしの中がご主人様で満たされていた。あたしは与えられた性的機能の全てを駆使してご主人様に奉仕した。ご主人様も幾度となくご褒美を与えてくれる。その度にあたしの意識は快感に翻弄され吹き飛ばされる。与えられたプログラムを無視して、あたしは嬌声をあげていた。
 
 
 
 
 
 気が付くと船には誰もいなかった。俺は船内コンピュータにこれまでの記録を開示させた。俺は意識を失った後も行為を続けていた。やがて自動操縦装置が目的地への到着を告げると、男は俺を措いて身仕度を始めた。俺も裸のまま宇宙服を着るのを手伝っていた。男は俺の手渡したヘルメットを付けるとエアロックの中に消えていった。その後、俺はシャワーを浴びると再び複雑なメイドのコスチュームに戻り待機に入った。
 それから俺が意識を取り戻すまで、ずっとここに座り込んでいたのだろう。しかし、俺が意識を取り戻したからと言って何が変わる訳でもなかった。身動きがとれない分かえって意識のある方が辛いのかも知れない。
 俺は退屈を紛らわすために再び船内コンピュータにアクセスした。そして俺は延々と自分の恥態を見せ付けられることになった。男の上に跨って嬌声を上げているのが俺だった。女になった俺、どこから見ても女の俺、女の快感に溺れている俺がそこにいた。俺は股間に彼のペニスの感触を思い出していた。不意にソコが熱くなり、ショーツの中の湿度が増した。反射的にペニスの感触を打ち消すように大腿の内側に力を入れていた。
 微かな筋肉の動きであったが、ショーツの裏地が俺の敏感な所を撫で上げていた。「ああん♪」俺は甘い吐息を漏らしていた。ジュンと身体の奥から溢れ出るものがあった。
 俺の股間が濡れていた。スカートの上から掌で押さえ付けると更なる快感が生まれてくる。もう一方の手が胸に昇る。メイド服の上から乳房が揉まれ出すと、もう歯止めが効かなくなった。スカートを捲りショーツの中に指を差し込んでいた。割れ目に沿って指を這わせると指の腹がクリトリスに触れていた。「あああん♪」ちょっとした刺激を与えただけで猛烈な快感が身体の中を駆け巡ってゆく。更に刺激を加えると、快感が爆発し、それが延々と繰り返されてゆく。快感の爆発は重なり合い、共振し、より大きな快感を生み出してゆく。
 俺は数え切れない程に絶頂を向かえ、その度に失神と覚醒を繰り返していた。
 
 
 
 
 男が船に戻った。エアロックを開けたがいつもそこにいる筈のメイドの姿はなかった。少し捜すだけでメイドは見付かったが、そのありさまは尋常ではなかった。
「あちゃ〜 ロックが外れてたのか。」男は手近の端末から船内コンピュータに指示コードを投入していった。「男には女の性感は強すぎるからね。あんたには悪いが肉体からの制御を制限させてもらうよ。」男は足元のアンドロイドを見下ろしながら再起動の指示を投入した。
 目を覚ましたメイドが慌てて起き上がった。「お、お帰りなさいませご主人様♪」いつものメイドに戻ったようだ。「俺のことは良いから、服をどうにかしてきなさい。」と言ってやると「ありがとうございます。」ふかぶかと頭を下げ、床に落ちていたショーツを拾うと小走りに去っていった。今の彼女は何故服が乱れていたのか、何故服が愛液で汚れているのか、そんなことは一切気に掛けることはない。俺の命令に忠実な一介のアンドロイドに戻っていた。
 
 
 

−了−


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