最強戦隊 第2話 湖で大事件



最強戦隊マックスマンの紅一点、マックスピンクこと桜木撫子は元は男であった。
悪の女幹部の逆鱗に触れ(彼女が考える)最も醜い姿に変えられてしまったのだ。撫子本人にとっては耐え切れない姿には違いないが、一般的に見てその姿は可愛い女の子以外の何物でもなかった。
 
「あいつの美的感覚はどうなっているんでしょうね?」マックスブルーこと青山亘が呟いた。
「セオリーなら、奴を倒せば元に戻れる筈だ。それまでの我慢だ。」と黒田三蔵=マックスブラックが撫子を励ます。
「それまでは女の子を楽しんでみたら?そのうち男に戻りたいなんて思わなくなるかもね、撫子ちゃん♪」と混ぜ反すのはイエロー=山吹孝一だった。
「とにかく、君を最強戦隊に迎え入れたのは、君が奴等の犠牲者だったからではない。君の精神に刻まれた正義の心と、それを実践しようとする勇気があったからに他ならない。」と言い放つのが、最強戦隊のリーダー=マックスレッドの赤城圭一であった。
 
「はい。」と赤城の机の上に撫子が湯飲みを置いた。
「決して、お茶汲み要員が欲しかったわけでも、男ばかりでむさ苦しいからアイドル的な娘が欲しかったとか言う訳ではないからな。」
赤城の言い訳っぼい口上を聞き流し、撫子は他のメンバにもお茶を配って回った。
 
撫子のお茶で一息いれている所に警報が響いた。
「奴等だ。」と青山。
「最強戦隊、出動だ。」赤城が号令を掛けた。
 
  
 
「おーほっほ♪」
山の中の湖に女幹部の高笑いが響き渡った。
「これで、この周辺の人間達は皆、悶え苦しんで死に至るのよ♪」と戦闘員に運ばせてきたポリタンクの中の黒い液体を湖に注ごうとしていた。
 
「待て!お前達の悪事は見過ごす訳にはいかない。我ら最強戦隊マックスマンが退治してくれる。」
崖の上に姿を表した赤城に女幹部がたじろいだ。「な、何ヤツ?」
 
「マックスパワー、オン!」と叫び赤城が変身する。「燃える正義のマックスレッド!」とポーズを決めると、残りの四人が続けて叫ぶ。「「マックスパワー、オン!」」
「清く正しく、マックスブルー」「無敵のパワー、マックスブラック」「電光石火、マックスイエロー」「愛ある限り、マックスピンク」と次々ポーズを決めてゆく。
「「我ら、最強戦隊マックスマン!!」」
 
「戦闘員!」マックスマンの口上を待って女幹部が叫ぶと、控えていた戦闘員達が一気にマックスマン達に襲い掛かった。
「とうっ!」とレッドの剣が一尖する。「せいやっ」とブルーの槍が旋回する。「はっ!」とブラックの戦斧が翻る。「いやっ」とイエローの鎖が疾ってゆく。
戦闘員達はバタバタと倒れていった。
 
「ピンクはどこだ?」と女幹部が見回すと、彼女は湖畔に放置されたポリタンクをいじっていた。「な、何をしている?」と女幹部が慌てる。「何って、この液体がどれ程危険なものか確認しているんだ…って。これはコーラ?」
「よ、よくも見破ったな!!このあいだ、それを一気飲みしたら、死ぬ程苦しかったのだ。」「だからって、こんなの湖に撒いたってどうってことないんじゃないか?浄水場はおろか、給水槽に入れても死人は出ないと思うぞ。」
「ムムム!」
 
そこにレッドの声が響く。「一気にカタを付けるぞ。マックスストームだ。ピンク!マックスボールを出せ!!」と、ピンクの掌の上にサッカーボール程の球体が現れた。「いくわよ♪」とボールを投げ上げる。
左右からブルーとブラックが飛び上がり、頂点でマックスボールの付属物である突起を装着する。タイミングを置いて飛び上がったイエローが、ヘディングで更に高みへとボールを送り出す。
「マックスストーム、シュート!!」
叫び声とともに空中で回転したレッドがボールを蹴り落とす。
「チッ!」と瞬間移動する女幹部。残された戦闘員がマックスストームの餌食となった。
「お、覚えてなさい!」の捨て台詞を残して、独り女幹部は悪の住み処に逃げ帰っていった。
 
変身を解いたマックスマン達が撫子に駆け寄る。「今回は撫子のお手柄だな♪」と次々に撫子を誉め讃える。
「そ、そんな事ないですよ…」
 
平和を取り戻した湖に、若者達の笑い声が響き渡った。
 
 
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「これが第二話 湖で大事件 だ。」「コーラで水質汚染ってダサクありません?」
ここは最強戦隊の秘密基地…ではなく、映研の部室である。撫子が皆に湯飲みを配っていた。
「俺はいくつかのアイデアを出しただけだぞ。採用したのは青山さんだからな。」と黒田。「しかし、この気の抜けたコーラは何とかなりませんか?」山吹が不平を漏らす。
「何たってポリタンク一杯分ありますからね。もったいないですから皆で飲みきってくださいね♪」撫子が配っていた湯飲みは、なみなみと黒い液体に満たされていた。
「撫子は飲まなくて良いのかよ?」今度は撫子に憤懣の矛先を向ける山吹。「お、俺はダイエット中だからなっ♪」とお盆を胸に抱えて逃げていく撫子。
「撫子も、大分女の子らしくなってきたんじゃないか?この間も枝毛の手入れをしていたしな。」「いや、もう少し様子をみるべきだ。今度は料理にでも挑戦してもらいたい所なんだけどな。」と怪しげな密談を始めた青山と黒田。
「もう飲めません…」とねを上げる山吹とは対照的に、映研部長の赤城は、グビグビとコーラを飲み続けていた。
 
  
 
(つづく)


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