最強戦隊 第1話 最強戦隊誕生



「何で俺がピンクなんだよ!!」
「戦隊モノをやろうと言ったのは、お前だろう?男ばかりの映研でそれをやりたいのであれば、言い出しっぺが責任を果たすべきではないのか?」
 
俺(桜木大和)は返す言葉もなかった。
「まあ、脚本はまかしておけ。できるだけ女の格好はさせないようにしてやる。」と副部長の青山先輩が慰めるように言った。
「結局は女装するんじゃないですか?」
「おお、良く気がついたな。」と青山先輩。「俺のSFXの腕の見せ所だな。」特殊効果担当の黒田先輩が厭らしい笑みを浮かべていた。
「でも、五人の部員で戦隊ものなど、そもそも無理があるんじゃないですか?敵キャラとかもいるのでしょう?」と素朴な疑問を投げかけたのは俺と同学年の山吹幸一だった。
 
「当然、一人二役も三役もやる事になるな。勿論、ボスキャラはわしだがな。黒田、頼むぞ♪」と言い放ったのは部長の赤城先輩だ。
「ヒーロー五人並んだ所なんか、誰がカメラ回すんですか?」と山吹が食い下がるが、
「いちいち小さい事を気にする奴だな。」と赤城部長。「大丈夫。CGでの合成は慣れてるから。」と黒田さん。「そこらへんはちゃんと心得て脚本は書くから。」
 
山吹の恨みの視線が俺に突き刺さる。「言い出しっぺなんだからな。せいぜい黒田さんに可愛くしてもらうんだな。」ようやく、俺は山吹が芸術的な映像を追い求めていた事を思い出した。
「いや、山吹君にも手伝ってもらわないとね。悪の女幹部なんかどう?」
即座に山吹の冷たい視線が黒田先輩に飛ぶ。
「僕はカメラを回したいんです!!」ほとんどキレかかった山吹を見て、黒田先輩と青山先輩が視線を交わした。
「判った。それはなんとかしよう。カメラも黒田一人では回らないからな。」と青山先輩…
 
数日後、俺達に台本が手渡された。
 
***
 
「わ〜〜!!」
逃げ惑う人々。瓦礫を弾きながら迫り来る触手。倒れた男の脚に触手が絡みつく。
「この野郎!」と手にしたパイプを触手に叩きつけ、男を救おうとする若者(桜木)。
「おーほっほ。こざかしい真似を…」触手の元に居る悪の女幹部(青山)。「一般人がそんな事をしても、火傷するだけよ♪」
「一般人であろうがなかろうが、正義の心は誰にでもあるんだ。悪い化け物を倒すのに資格なんか無い!」
「ば、化け物ですって?」女幹部は怒りに打ち震えたが、その声を圧するように「まてぃ!!」(赤城)の声が響き渡った。
「貴様らの好きにはさせんぞ。我ら最強戦隊マックスマン!!」最初に現れたレッドの脇にブルー、ブラック、イエローが並び、閃光がCG合成される。
「戦闘員。」女幹部が叫ぶとどこからともなく全身タイツの男達が現れた。各戦隊員は2〜3人の戦闘員と戦っていた。
レッドが女幹部の前に立ちはだかる。女幹部は引き寄せた触手を一気にレッドに叩きつけた。
「おりゃあ!!」レッドの剣が一閃する。
「チッ。」と舌打ちをする女幹部。「戦闘員。」と叫ぶと彼等がレッドに襲いかかる。
態勢を整えた女幹部の目の端に、あの若者(桜木)の姿が映った。「あたしを愚弄した罪、身をもって償うが良い。」
女幹部の指先から放たれた光の矢が彼の胸に吸い込まれていった。命が奪われたようではないが、彼は気を失って崩れるように倒れた。
「貴様!何をしたッ」レッドが叫ぶ。「あたしを醜いと言った罰よ。そいつには最も醜い姿を与えてやったわ♪」
レッド達の目が若者に集中した。その隙を突き「また逢いましょう♪」と女幹部と戦闘員達は姿を消していた。
 
ここは最強戦隊の秘密基地。ベッドの上にはあの若者と思われる人の姿があった。
「目覚めたようだ。」と青山。「気が付いたかね。」と赤城。「無理に起きようとしない方が良い。君の体はかなりのダメージを受けている。そのままで聞いてくれたまえ。」
若者は起きようとする努力を止めた。
「女幹部の異能力で君の姿は大きく変えられてしまった事には我々も責任を感じている。しかし、それ以上に我々は君の勇敢さに心を打たれた。君を最強戦隊の一員として迎え入れたい。どうかな?」
「良いんですか?」
「良いとも。今から君はマックスピンクだ♪」
「………」
 
しばしの沈黙
 
「どうしてボクがピンクなんですか?」
「それは、今の君が女の子だからだ。」
赤城が言い放つと、若者は掛かっていたシーツを剥いだ。その下に現れたのはミニスカートを穿いた可愛らしい女の子の姿だった。
女の子は胸に手を充てる。「ある?」
次にスカート越しに股間に手を充て「ないっ!!」と叫んでいた。
 
「君の名前は桜木大和君だったね。今日からは桜木撫子と名乗るが良いだろう。」
 
  
場面は替わり、こちらは悪達の住み処。
「何も敵を増やす事もなかろうが?」と大ボス(赤城)。
「これから面白くなるのよ。見てらっしゃい。」と女幹部。
「行くわよ。」とうろついていた戦闘員の耳を摘んで大ボスの前から去っていった。
 
 
再び場面は替わってどこかの遊園地。
「性懲りもなく現れたわね。」女幹部が言う。
「我ら、最強戦隊マックスマン!」と富士山をかたどった決めポーズを取る。CGが派手な効果を挿入する。
「とぅ!」とレッドが飛び、戦いが繰り広げられた。
 
***
 
「これが第1話 最強戦隊誕生の巻だ。」女幹部のメイクのまま、青山先輩が言い放った。
「もしかして、まだ撮るんですか?」と俺。ヘナヘナとしゃがみ込むと、叩き込まれた女の子座りが自然と出てしまう。
「面白かったですよ。TVシリーズみたいにできたら良いですね♪」あれだけ嫌がっていた山吹が乗ってくる。
「受けが良ければ2クールくらいやっても良いんじゃないですか?」とは黒田先輩。
「じゃあ、青山。次の脚本を頼む。」「大丈夫ですよ。すでに10話分は出来上がっています。」
「OK!その線で行こう。じゃあ、第1話の完成を記念して打ち上げに行こう。」と部長が立ち上がる。
「って、このままで行くんですか?着替えさせてくださいよ。」と俺が提案すると
「ああ、桜木はともかく、青山のその格好は刺激的過ぎだな。」
「桜木はともかくってどういう事ですか?」「青山さんのはコスチュームの方で体型補正しているから、すぐに元に戻せますよ。」
「俺は??」
「桜木君のは特別製ですから、撮影が終わるまでそのままでお願いしますよ。お風呂にもそのまま入れますから、日常生活に支障がでることはありません。」
「って、この胸じゃ着れる服なんてないぞ。」「撫子ちゃんには、お姉さんが可愛らしい服を沢山買ってあげるから心配ないわよ♪」青山先輩が女幹部のノリで追い打ちを掛ける。
「講義もそのまま出れるよう手配してやるから。イエローもサポートしてやってくれ。」部長の指示に「ラジャー」と最強戦隊の決めポーズをとる山吹…
 
映画研究会の部室の中で4人に囲まれ頬を膨らませている女の子が一人。
俺ってこれからどうなるの???
 
 
 
(つづく?)


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