昨夜から兄貴が台所でガサゴソと作業を続けていた。
こっちは眠かったので、兄貴が何を作っているかなど確認してはいなかった…
翌朝も兄貴は早くから起きて支度をしていた。
「学校に行くぞ!!」
朝飯もそこそこに兄貴が僕を引っ張って行く…
その手にある紙袋には、いっぱいに何かが詰め込まれていた。
「な、何なんだよ それは?」
「まぁ、今日はバレンタインデーだ。 仮にとはいえ、俺も女の子になったんだ。 チョコレート配りにも参加しないとな♪」
「はぁ…」
ちなみに、兄貴はTS病とかいう病気で男から女に変わってしまったのだ。
今も着ている制服は女子のもので、知らない他人が見たら生まれた時から女だったと言っても信じてしまうだろう。
少なくとも、男っぽい言動を見るまでは…
「…でだ。」
僕の教室の前まで来て、兄貴が僕に向かって言った。
「あいつを此処に連れてきてくれないか?」
多分、「あいつ」とは僕の親友の事なのだろう…
「何で自分で行かないんだ?」
「は…恥ずかしいからに決まってるだろう。」
普段の兄貴とは思えない言動である。
見た目そのままの「女の子」としか思えない…
「おはよ!! 兄貴が入り口の所でお前を呼んでるんだ。 行ってやってくれないか?」
そう親友に声を掛けた。
「来たか♪」
と、親友は嬉しそうに兄貴の所に行った。
兄貴は紙袋の中から一番大きな箱を親友に渡していた。
戻ってきた親友は
「これ、本命だってさ♪ そのうち、俺の事を義兄さんって呼んでもらう事になるかもな♪」
「お、お前 何を言ってるんだ? あんな姿になっても中身は兄貴なんだぞ?」
「可愛ければ中身が何であろうと関係ないさ♪」
「ほ…本気なのか?」
実際、親友はその後、何度も兄貴とデートしていたようだ。
「相性は良いみたいだ」とか「ベッドでの声が可愛いんだ」とかを僕に惚気てくる。
そして…
信じられない事に、今、兄貴がウェディングドレスを着て親友と並んで立っている。
ポンッ… と、投げられたブーケが、スッポリと「僕」の手の中に落ちていた。
「今度はアナタの番ね♪」
そう、兄貴に耳打ちされていた…
ー了ー