呪われた一族



僕の一族は呪われていた。
満月の夜、0時〜3時の間…
肉体が「女」になる。
そしてその間肉体は男を求め、時が来るまで交わり続けるのだ。
 
その事を知らされたのは僕が都会の大学を受験すると言った時だった。
それまで、自分の事であるにも関わらず僕は気づくことがなかった。
子供の頃は寝ている間に変身が終わってしまうし、性欲が目覚めた後も下男達が巧く処理してくれていた。
 
 
父から聞かされた次の満月の夜、僕の部屋の外で下男の延男が音もなく控えているのに気が付いた。
僕は延男を呼び入れ、自分が本当にに女になるのか聞いてみた。
延男は「はい。これまで幾度となくお坊ちゃまを抱かせて頂きました。」と答えたのだった。
僕は「女になった自分を確認したい。」と頼んでみると、延男は「わかりました。」と答え部屋の外に出ていった。
 
「お坊ちゃま?」
延男に声を掛けられて僕は覚醒した。
「何時?」
と問いかけた声がいつもの自分の声と違うことに気づいた。
「0時を回ったところです。」
と延男が答えた。
僕はベッドの上に移され、服も全て脱がされていた。
「お前が?」
と聞くと
「はい。いつもと同じに…」
僕は自分の胸に男には無い膨らみが…そして股間からは男の証が失われているのがわかった。
そして、僕の腹の奥には我慢しきれない程の疼きがあった。
股間が熱を帯び、雫が垂れていくかのように湿り気を増していた。
「お坊ちゃまの肉体がオトコを求めているのです。」
延男はそう言うと、彼もまた全裸になっていた。
その股間には逞しい屹立が存在していた。
(ビクッ!!)
ソレを見た瞬間、僕の頭の中で何かが爆発し…
気が付くと、外から朝の陽射しが漏れ入り、僕は何事もなかったかのようにベッドに寝ていたのだ。
 
 
 
一か月が経ち、再び満月の夜が来た。
僕は延男に0時になる前に声を掛けるように申し入れた。
置いておいた姿見の前に立ち、僕は服を脱いだ。
既に原の奥に疼きが生まれていた。
時計の針が0時を指す。ぞわぞわと皮膚が波打ち、毛髪がぶわっと広がる。
「う、うぅぅぅ…あっ、ああん!!」
僕の声は既に女の子のように甲高くなっていた。
一気に胸が膨らんでいた。
胸に気を取られていたので、股間の変化は確認できなかったが、高まる疼きに太腿の内側を何かが滴ってゆくのを感じた。
それは小水ではない。オンナの愛液と呼ばれるものなのだろう。
「お坊ちゃま、よろしいですか?」
延男が声を掛けてきた。
振り向くと延男が全裸で立っていた。
その股間には「牡」が屹立していた。
僕の視線はソレから離せなくなっていた。
牡の匂いが僕の脳を融かしてゆく。
両足から力が抜けて彼の前に跪いてしまう。
 
その存在が僕の目の前にあった。
「好きにして良いですよ♪」
そう言われると、僕はなんの躊躇もなく、それを頬張っていた。
「ぁあ、お坊ちゃま、お上手です♪」
しばらくそうしていると、僕の口の中に延男の先端が膨らみ、何かが放出されてきた。
それが、彼の精液であると認識する前に、僕は甘露のようにそれを呑み込んでいた。
甘露は痺れるように僕の内面を融かしてゆく。
全身から力が抜け…そして、そこから先は何も覚えていなかった。
 
 
次の満月の夜、僕は延男に声を掛けた後は何もするなと言っておいた。
僕は服を着たまま0時を迎えた。
胸が膨らみ、内側からシャツを圧する。
苦しさに我慢できず、ボタンを外した。
疼きも堪えきれないくらいに高まり、股間もグチュグチュに濡れてトランクスとズボンを汚していた。
「牡」の匂いがした。
部屋の扉を開けると、そこに延男が立っていた。
「お言いつけ通り、私は何もしません。」
僕はそう言う延男を廊下に押し倒していた。
チャックを下し、硬く憤り勃つものを引き出した。
僕もズボンとトランクスを一緒に脱ぎ捨て、延男の上に跨った。
延男のが僕を貫く。
「あ、あああああ…」
僕は快感に打ち震えていた…
 
 
回数を重ねるうちに、僕は意識を保ったまま3時間の「女」の時間を過ごせるようになった。
それは「女」の快感を最大限に自分自身で享受できることを意味する。
自分の意志で体位を変え、延男の肉棒で最大限の快感を引き出してゆく。
「んあん、ああ… そこ… イイッ!!」
延男もまた、僕に最大限の快感を与えるよう様々な性技を開発していった。
僕は快感の浸ったまま精液まみれで3時を迎えると、再び男に肉体に戻ってゆく。
延男は慣れた手つきで濡れタオルで僕の身体に付いた汚れを綺麗に拭き取ってくれる。
(もうしばらく、僕を抱いていて欲しい…)
僕の心の中に「女」が残ってしまっている。
「お坊ちゃま、おやすみなさいませ。」
僕の想いを断ち切るかのように、延男は汚れ物を持って僕に部屋を辞してゆく。
(どうすれば延男と一緒にいられるだろうか?)
僕の頭の中にはこれまでになかった感情が生まれていた。
 
 
 
 
僕は都会の大学に進学することを諦めることにした。
「地元の大学なら通えるぞ。」
と父は言ってくれたが、多分それも無理であろう。
先々月の満月の夜以降、僕は変身しなくなっていた。
それは、僕が延男と離れたくないと望んだ結果である。
その日、僕は「女」として延男を求めたのだった。
「女」の快感を得るためだけに彼と交わっていた時と違い、「女」として…
生殖行為として延男を受け入れたのだ。
僕の内の「女」は僕の意志に従い、延男の精子を僕の内に生まれた卵子に結び付けたのだ。
受精卵は僕の子宮の中に着床し、僕は「妊娠」していた。
3時を回り男の姿には戻ったが、胎の中には確かに子宮が残っているのがわかっていた。
そして、その日以降…満月の夜の0時を回っても僕の肉体は女になることはなかった。
それは僕の肉体がこれ以上の精子を身体に受け入れるのを拒んでいるかのようであった。
 
僕はこの事象の手掛かりを確かめるべく、蔵の中の書物を片端から確認してみた。
以前、蔵の中で一族の家系図を見たことがあった。
家系図には女性の名が一切記載されていないのだ。
僕自身も母の事は聞いた事がなかった。
(僕は誰から生まれたのだろう?)
当時は単純に男系しか書かれないものだったのかと不思議に思う事もなかった。
しかし、今僕の内には僕と延男の愛の結晶が存在している。
よく見ると、父達の名前の脇に小さくその時々の下男らしき男の名前が記載されていた。
 
僕が父の息子である事に間違いはない。
だが、本当の「父」は父ではないのでは…
今の僕と同じように、女になった父と小さく書かれた名前の男との間に出来た?
そう…僕は父から産まれたのだ!!
 
蔵の中の書物を調べてわかった。
僕の一族は「嫁」を娶ることがなかったのだった。
そう、「嫁」などは要る筈もない。
一族の男は満月の夜に女になり、男を求め…そしてその男の子を宿して子孫を残していたのだ。
その男の名が家系図に小さく書き込まれたようだ。
多分、僕の名前の所には延男の名前が書きこまれるのだろう…
 
更に調べを進めていく。
子を産んだ男は、もう満月の夜に「女」になることはないとの事がわかった。
それは今の僕の状態と同じである。
しかし、この状態…男の姿のままで果たして出産が可能なのだろうか?
新な資料が見つかった。
「お札」というものの存在だった。
お札にはこれを身に付けた一族の男を、時を選ばずに「女」にすることができるとの事だった。
妊娠した男は一時、周囲から身を隠し、女になって出産を行う。
嫡子がどんな「女」から生まれたかを詮索することはタブーとされていたようだ。
当主が女になり、子を産むという事は一族の者とその忠実な家臣の一部にしか知らされていなかった。
子を産んだ後はお札を仕舞い、その子が次の世代の子を孕んだとわかった時、当主からお札を託されるのだ。
 
 
 
僕は、延男と供に大学進学を取りやめる真因を父に話した。
「そうか、なら仕方ない。」
と、父は秘書に乳母を手配するよう指示した。
そして僕には…
「必要に応じてこのお札を使いなさい。」
と古ぼけたお守りを僕の首に掛けた。
「これを身に付けている間は女でいられる。胎の子の為にも、出産まではその方が良い。」
僕は満月の夜でもないのに、自分の肉体が「女」になっているのが確認できた。
「無理はするな♪」
それが父なりの優しさであった。
 
僕は父の跡を継ぐことになるのだろう。
そして、僕の息子にも良い下男を探してやらなければ♪
僕は自らの胎に掌を当て、息子の存在を確かめるのだった。
 
 
 
 
 
P.S.
「お札」について
出産後も「お札」を身に付ければ「女」になる。
男に戻っても出産直後は乳が張る感じが残っているし、実際「女」になれば母乳が滴ってくる。
勿論、我が子には授乳するのだが、この子の父親にも弄ってもらったりする。
そう…時々肉体の内にある「女」が疼きだしてくるのだ。
これは月の満ち欠けには関係なく、突然訪れてくるのだ。
そんな夜は、褥に下男を呼び寄せ、お札を身に付けて疼きを鎮めてもらう。
まあ、その疼きも息子が成人し、子を宿す頃になると落ち着いてくる。
お札は必要なくなり、息子にお札を託すのには何の支障もなくなっているのだ。
 
  
 


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