心の奥底に秘められている、誰にも言えない恥ずかしい想い。
頑強な扉に巨大な錠前をぶら下げて仕舞い込んでいる。
親兄弟、親友、配偶者にさえ言えない。
独り言さえ音にできない。頭の中でその言葉を組み立てるのさえ恥ずかしい。
悶々と抱え込んだとらうま。
溢れそうになってはその度に扉を補強する。
板を渡して釘付けする。
太いチェーンでぐるぐる巻きにする。
セメントで塗り固める。
それでも、何処かの隙間から滲み出てくるような気がする。
ふと、巨大なハンマーでその扉を中のもの共々粉々に叩き壊してしまいたくなる。
溜まりに溜まったストレスを一気に開放したくなる。
全てを叩き壊して平坦にしてしまおう。
全てを無に帰してしまおう。
今しも、ハンマーの柄に手を掛け、力一杯振り上げてゆく。
と、その時奴が話しかけてきた。 | 「やァ」 |
奴の後ろには大勢の人々がいる。 | その中には見知った顔がいくつもあった。 |
皆、一様に笑っている。 | 軽蔑するようにこちらを窺っている。 |
扉が大きくたわんだ。 | 扉の向こうでそいつが暴れている。 |