灼光



日差しの眩しさに目を細める。太陽は天頂高く鎮座し、光と熱と渇きを降り注ぐ。
とうに夏は過ぎ去っているはずなのに、未だにそこを動こうとしない。
風は多量の湿気をともなった熱風。
木陰に涼をとる事さえ難しい。
人々は冷房の効いた建屋の中でまんじりともせずに夏が過ぎ去るのを待っている。
だが俺には連中のように悠長に秋の来るのを待つ事など出来ない。
出来ない理由がある。
昨日とうとう俺は発病してしまったのである。
一刻を争う。
俺は街に出た。
医者を探す為に。
街はとうに電力を使い果していた。
俺の住む高級マンションのように自家発電装置を持たない者は、
         早々に都会を抜け出し電気を求めて西や北に旅立っていった。
それでも、冷房装置の吐き出す熱風は、
         冷却効果に反比例してどんどんその温度を上昇させてゆく。
数は少なくとも、街の温度はそれだけで上がってゆくのだ。
医者は居ないか?
振り仰ぐ街並み。
人の居ないビルの窓は、上昇する室温で膨張した空気で粉々に砕け散っている。


ここまで来る間にも医院の看板を掲げたビルは何軒もあった。
が、それらのビルの窓ガラスは全て消し飛んでいた。
診療所・クリニック・医院・病院……
医者は何処だ!
俺には医者が必要なんだ。
何処に居る?
汗は吹き出すそばから蒸発する。
急速に喉が渇く。
皮膚が干からびる。
唇がぼろぼろに割れる。
瞳が乾きを訴え、瞬きも効果がない。
街は枯れている。
俺も干からびて、
   塵芥となり、
      風に
        飛ばされ
          無に
            帰
             す
              の
               だ
                A


−了−


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