あの人は…



あの人は誰だろう?
道の向こうから微笑みかけて来る。
記憶の糸を辿ってゆくが、
  そのどこからも見当たらない。

あの人は誰だろう?
どこかで会った記憶がある。
いつ出会ったのか、
  どこで出会ったのか、
    出会った記憶のみが鮮明に思い出される。

あの人は誰だろう?
わたしの身近でいつも出会っている気がする。
親・兄弟を間違える筈がない。
親類・縁者の中にもいない。
同僚・友人にも似た者さえいない。

あの人は誰だろう?
道の向こうから微笑みかけて来る。
確かめなければどうにも収まりが着かない。
たとえ恥を掻こうとも、
  直接本人に聞くのが一番である。
わたしは一歩、その道へ踏み出した。


    鳴り響くブレーキ音、
     けたたましい警笛。
   激しいショックと伴に、
     宙に放り出される。


あの人は誰だろう?
目の前に迫るフロントガラス、
  ガラスに写るわたしの顔。
ガラス越しに見るあの人の顔。

    ようやく思い出した。

        あの人は………


−了−


    次を読む     INDEXに戻る