つめたい街



 かじかんだ手を擦り合わせながら街を歩く。くたびれたコートの襟を立て、少しでもつめたい風が身体に当たらないように……

 季節外れの大雪に街は堅く閉ざされていた。
 人々を家の中に封じ込め、氷の斜交いが下ろされる。凍結した道路には降りしきる雪以外、動くものはない。ただ、俺一人が道を歩く。雪の吹き溜まりがブルドーザにも動かせない白い壁となって、そこここで道を分断する。
 雪の重みで放置された車が押し潰される。ビルのシャッターがひしゃげ、2階や3階の窓ガラスも雪の圧力でパキパキと砕かれてゆく。

 暗雲が空に立ち籠める。街路灯は灯らず、街はすっぽりと闇の中に包まれていた。薄暗がりの中、手探りで歩を進める。
 降りしきる雪が更に視界を閉ざす。爪先からは感覚が失せ、筋肉の一つ一つを動かすのにも全力を振り絞る。
 目的地はすぐそこなのに次の一歩を踏み出すのに全身の力を集中しなければならなくなってしまった。

 足がすべってバランスを崩す。
 そのままドサリと雪の上に倒れ込む。
 目的地はすぐそこなのに、あの角を曲がればもう目の前なのに……

 気力が萎える。
 手足が言うことを聞かない。
 闇が更に深まる。
 どうでも良くなった。
 寒さも感じない。
 何も見えなくても構わない。
 街と一緒に俺もまた闇に包まれ……消えてゆく……


−了−


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