影が嗤った



街角に佇んでいると、どこからともなくクスクスと笑い声が聞こえて来た。
誰か?
振り返っても、そこには誰もいない。 いつの間にか笑い声も止んでいた。
気のせいか?
だが、しばらくすると、またクスクス笑いが聞こえて来る。
背にした塀の向こうに誰かいるのだろうか?
気分を害した俺は、場所を変えた。
だが、しばらくたつと、またクスクスと笑い声が聞こえて来る。
いくら場所を変えても、笑い声は付いてく廻る。
場所を変えてもしばらくすると、クスクス笑いが始まるのだ。
追い駆けっこが始まった。
始めのうちは立ち止まっている時にしか聞こえなかった笑い声も、遂には俺の歩く後ろから聞こえて来るようになった。
俺は走った。
だが、しばらくのうちは取り残されていたクスクス笑いも、しだいに追いついて来た。
笑い声が耳元で囁く。
肩越しに振り向いても誰もいない。
そいつは、俺の見えない所で嗤い続けているのだ。
俺は無茶苦茶に走り廻った。
 
そして、ふっと笑い声が途切れた。
やった!
遂に笑い声を振り切った。
俺は歓声を上げた。 と、同時に俺は空中高く放り投げられた自分を見た。
トラックが走り抜けてゆく。
アスファルトが急速に目の前に迫る。
一瞬の空白。
ブラックアウトして行く中で、俺は聴いていた。
世界が一斉に俺を嗤っているのを…

−了−


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