無題4



 僕が女子寮を後にしたのは翌日の昼を回っていた。
 両手の袋には安田さん達のお古が詰め込まれていた。
 お古とはいっても殆どが新品同様である。そして、服ばかりではなく、アクセサリーや靴・バッグ、そして化粧品とその使い方が書かれた小冊子やファッション雑誌が数冊…
 それらを抱えて僕は自分のマンションに戻っていった。
 もちろん、僕は女装しているので近所の人に気付かれないよう、辺りを伺いながら部屋に戻った。
 紙袋の中身をベッドの上の広げた。
「明日はこれを着てくるのよ!!」
 そう念を押された水色のスーツを手に取ってみた。
 クローゼットのドアを開けると鏡が付いている。
 服を充ててみる。
 確かに、彼女達の見立ては間違いない。
 そこには可愛らしい女のコが映っていた。
 
 そこに電話が鳴った。
 大悟からだった。
 今晩会えないか?との問いに僕はためらわずに「うん♪」と答えていた。
 電話が切れると、僕の目はベッドの上の広げられた服達に移っていた。
(どれを着ていこうかしら?)
 僕は陽が傾くまで鏡の前で服を選んでいた。
 
 
 
 
 僕は大悟を待っていた。
 『デート』の待ち合わせだ。
 スカートを穿き、もちろんお化粧もしている。
 誰が見ても僕は「女のコ」だ。
 ショーウィンドウに映る僕の姿は正しく彼氏を待っている女のコに他ならない。
(大悟は僕に気付くだろうか?)
 しばらくすると、大悟が近づいてくるのがガラスに映った。
『僕』を見つけたが、声を掛けるのを躊躇しているようだ。
 僕は大悟の方に振り向き、「大悟ッ♪」と声を掛けてやった。
 僕の目の前に大介の驚いた顔が現れた。
「それ、自分で着て来たのか?」
「うん♪」
「可愛いよ。」
 その一言で僕はもう天にも登る心地だった。
 食事をして少しだけ散歩。
 けれどすぐに我慢できなくなって、ホテルに入った。
 二人してシャワーを浴び、ベッドに潜り込む。
「あっ、あ〜〜〜」
 僕はあっと言う間に大悟の愛撫に翻弄されていた。
 大悟のモノを咬わえ、突かれ、掻き回されて、僕は幾度となく高みに昇り詰めていった。
 
 
 
 あたしは鏡の前でお化粧の最後の仕上げを終えた。
 安田さんに言われたスーツを着ている。
 ストッキングに包まれた脚をパンプスに滑り込ませた。
 
 駅で安田さんと一緒になった。
「おはよう。可愛いわね。似合っているわよ。」
 自分が「女のコ」であると自覚してみると、『可愛い』という言葉に素直に喜ぶことができた。
 そのまま女子更衣室に辿り着く。
 わたしの名前の入ったロッカーが用意されていた。
 制服も用意されている。
 安田さんと一緒に着替えた。
「わからない事があったら何でも聞いてね。わたしも経験者だから、」
「経験者って?」
 自分の制服姿を鏡に映してみた。
 胸に名札が付いていた。
(?)
「これ、名前が違う…」
 あたしは安田さんに振り向いた。
「良いのよ、これで。その姿で男性の名前はおかしいでしょ?」
 あたしはもう一度名札を見た。
(これが、新しいあたしの名前?)
「わたし、昔は『安田真吾』だったのよ。わたしもこうして『真奈美』という名前をもらったの。」
 あたしはもう一度安田さんを振り向いた。
「安田さん…て、男だったの?」
「知らなかったの?ココの女性はみんな昔は男性だったのよ。」
 あたしは衝撃の事実に驚愕した。
 そう言えば、同期に女のコは一人もいなかった事を思い出した。
「もしかして、女子寮のみんなも…」
「そうよ。彼女たちもみんな男から女に変えられたのよね。だから、次の犠牲者が誰か、情報網を張り巡らしているのよ。みんながみんな、あなたみたいにスムーズに移行できるという訳ではないの。だから、わたし達が全面的にサポートしているのよ。」
「変えられた…って?」
「ココでは新しいコが入ってくると、『男の人』達の間で選別が行われるの。彼等と同じ『男』として扱うか、『女のコ』にするか。もっとも、直ぐには決められずにしばらく『保留』のままの人もいるけどね。でも、『保留』の人はまだ『男』と認められていないので、何かと扱いが悪いのよね。」
「で、あたしは『女のコ』に選ばれたの?」
「詳しい事はわたし達には判らないんだけど、あなたは可愛かったから、みんなも『女のコ』候補だろうって噂していたのよ。」
「ふ〜ん。」
「でね、『女のコ』に選ばれると、役員の人…みんな『男の人』よ…達が集まって、儀式を始めるの。そうすると、数日の内にその人は『女のコ』に変わってしまうの。」
「元には戻れないんですか?」
「あなた、戻りたいの?」
「…あたしは…女のコでいたい…。でも、親とかまわりの人達に何て言えば良いか…」
「大丈夫よ。みんな判ってくれるわ。もちろん、逸見君ともちゃんと結婚できるし、子供だって産めるわよ。」
「えっ?子供?」
「ええ、あなたと同じように社内恋愛で結婚して辞めていったコが、子供を連れて遊びに来ることも良くあるのよ。」
「子供が産めるの?」
「そうよ。そのかわり、他の女のコと同じに月のモノもあるけどね?そうそう、その時がきたらちゃんと生理用品の使い方を教えてあげるわね。」
「あ、ありがとうございます…」
 あたしは上の空で返事をしていた。
 子供が産める…
(あたしは本当に女のコになってしまったんだ)
 そんな想いが頭の中をグルグル廻っていた。
「ほら、ぼ〜っとしていないで、行くわよ。もう遅刻だからね。」
 あたしは安田さんに引きずられるように更衣室を後にした。
 
 席に着くと、何事も無いように一日が過ぎていった。
 昼休みに大悟があたしの制服姿を見て「可愛いね」と言ってくれた以外、あたしが『女』になった事に誰も気に止める事はなかった。
 
 その日の帰りにまた女子寮に立ち寄る事になった。
 女子寮とは言っても、住んでいるのはみんな元男達なのだと思うと不思議な思いがする。
 早速パーティーが始まった。
 
 みんな、元『男』で、あたしと同じように『女』にされて…
 だから、感じるところをみんな知っていて…
 だから、大悟にされるより、もっと気持ちが良くて…
 『男』として愛して
 『女』として愛されて
 『女』として愛して
 『男』として愛されて
 あたしは歓喜の声を上げ続けていた…
 
 
 
 
 そして、想う。
(大悟にも同じような悦びを味わわせてあげたい…)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 逸見華子が女子寮につれてこられたのはそれから1年程たってからだった。
 あたしは腕の中にあたし達の息子を抱いて、彼女を迎えた。
(さぁ、あなたもあたしたちの仲間よ。思う存分悦楽を味わってちょうだいね♪)
 
 
 
 

−了−


    次を読む     戻る     INDEXに戻る