フェロモン



 深夜、俺は下腹部に強烈な痛みを感じて目が覚めた。
 目が覚めたとは言っても、痛みで眼を開けている事は出来ない。
 ドリルでギリギリと股間に穴を開けられるような痛みである。
 それが、杭を打ち込まれるような痛みに変わり、とうとう俺は気を失ってしまった。
 
 
 
 朝、目覚めると昨夜の痛みは嘘のように引いていた。
 かえって爽快感さえある。
 ただ、痛みの後遺症か大事な息子が縮こまってしまい、俺はやむなくパジャマのズボンを降ろし、便器に座って小用を足すはめになってしまった。
 
 いつものようにパジャマをスーツに着替え、通勤電車に揺られて会社に向かう。
 が、何か雰囲気が奇怪しい。
 良く見ると、いつも誰かが俺の方を見ているようだ。
 歩きながらショウウィンドウに映った姿を確認するが、どこも奇怪しくはない。いつもの「俺」が映っていた。
 
 会社に着くと、早速同僚の志茂大介に今夜呑みに行くことを約束させられてしまった。彼はよく遊ぶ方で、女のコの扱いも巧い。俺もよくそのおこぼれに与っている。
 
 それ以降は平凡な一日が過ぎて行った。
 今朝から感じていた視線も、会社の中ではあまり気にならなかった。
 ただ一つ、昨夜の後遺症が続いており、俺の息子は一向に復活しない。小用をするにも、トイレの個室を使うしかなかった。
 
 夜が訪れた。
 俺は志茂とネオンの下に繰り出していった。
「今日はこの方だけ?いつもは女のコをいっぱい引き連れているのに。」
 スナックのママが言っていた。
「今の僕にはコイツがいれさえいれば充分なんだ。」
「まぁ、お熱いこと♪」
「ママ、男同士にソレはないでしょう?」
 そう言ったのは俺だったか?いつになく酒が進んでいた。
 朦朧とした意識のまま、俺は志茂と街を歩いていた。
 
 
 
 
 
 気がつくと、そこはホテルの一室だった。
「さぁ、楽にすると良い。」
 スーツの上着を脱がされる。
 志茂の手がネクタイに掛かる。
「大丈夫。自分で出来るよ。」
「良いから、僕に任せるんだ♪」
 ネクタイがするりと抜き取られる。
 ワイシャツのボタンが外されてゆく。
「いいよ。」
 俺が抵抗すると、彼は俺をギュッと抱き締めた。
 志茂の顔が眼前に迫る。
 唇が合わさり、彼の舌が侵入してくる。
 これが以前彼が言っていた「どんな女もイチコロ」のキスなのだろう。
 男同士という嫌悪感から抵抗しようとするが、それ以前に身体から力が抜けて行く。
 得体の知れない快感が全身を支配していた。
 ワイシャツが脱がされ、俺はベッドの上に寝かされた。
 その上に志茂が伸し掛かってくる。
 ランニングシャツの裾が捲くられ、露になった乳首に彼の口が吸い付いてきた。
「あっ!!」
 快感に固くなった突起に噛みつかれ、俺は声を上げてしまった。
(これじゃぁ、まるで「女」みたいじゃないか?)
 そう認識した途端、性的興奮が俺を支配した。
 が、股間にはそれを示す息子は縮こまったまま。固くはなっているようだが、それ以上の変化は見せていない。
 替わりに下腹部が熱くなり、汗をかいていた。
 それを察知したかのように、志茂は俺のズボンとパンツを剥ぎ取っていた。
 彼の指が内股をなぞりあげる。
 その頂点からスーッと引き抜く。
 俺の体液にまみれた指を口に入れた。
「濡れているんだね?」
 耳元で志茂に囁かれると、更に股間の汗が増える。
 いや、これは「汗」なんかではない。
 男にはあり得ない器官から送り出されて来たものだ。
 
 いつの間にか、志茂も全裸となっていた。
 股間には男のシンボルがそそり勃っている。
 彼は俺の股間に分け入っていた。
 彼の指が俺の股間を蠢いている。
 指は周囲を徘徊した後、俺の胎内に潜り込んできた。
 あり得ない感覚が脊髄を通り抜けてゆく。
 その強烈な刺激が「俺」を覚醒させた。
 
「止めろ!!」
 
 俺は志茂を振り解き、突き飛ばした。
 床を転がってゆく志茂。脳震盪を起こしたか、しばらく動かない。
 その間に俺は服を来た。
 靴を履き外に飛び出す。
 俺は一目散にアパートに帰って行った。
 
 
 
 
 
 一夜が明けた。
 昨夜の事は「夢」だと棚上げし、俺はいつもと同じように会社に向かった。
 
 昨日と同じような視線を感じる。が、今日はそれだけではなかった。
 電車の吊り革に掴まり揺られていると、モゾモゾとお尻で蠢くものがあった。
 さするように撫で廻しては、鷲掴みでその弾力を確かめる。
 手だけではない。身体を密着させ、固くなったモノをお尻の割れ目に押し当ててきた。
 さらに、手が前に伸びてくる。ジッパーを探っているようだ。
 などと、呑気に構えている時ではない!!
 俺は振り向いた。
 脂ぎった顔の見知らぬ中年男がそこいた。
 その途端、男は正気に戻ったようだ。
 俺が男であることを認識し、一旦首を傾げた後、そくさくとその場を離れていった。
 視線は相変わらずであったが、よく見るとそれは全て男達の視線であった。
 たまに女の人が俺を見ていたが、それは隣の男の視線の先を追っていった結果であった。
 男達は一様に顔を赤らめ、股間を膨らましていた。
 
 それは、会社に着いてからも同様であった。
 女性達はいつもと変わらずに仕事をしているのだが、志茂はもとより他の男性社員の全てが仕事もせずに、俺を見ては股間を膨らましているのだ。
 昼休みが終わるとその事は全社に知れ渡ったみたいだ。
 他の部署の女の子も何かと用を作り、わざわざこのフロアに来てはその事実を確認していっているようだ。
 
 3時を廻った頃、俺は部長に呼ばれた。
 部長の前に立つと、彼もまた顔を赤らめた。
 股間の憤りを静めるのに苦労しているようだ。
「君も気付いているとは思うが、このままでは会社自体に支障を来してしまう。しばらくの間、自宅待機してもらえないだろうか?もちろん給料に影響は出ないようにする。若干だが手当ても支給しよう。」
「わかりました。」
 俺はそう言って会社を後にした。
 
 
 
 
 
 その日はアパートの中でぼ〜〜っと過ごしていた。
 が、夜になり辺りが暗くなるとともに、好奇心が沸き出してくる。
 全裸になり、鏡に映してみる。
 どこから見ても「俺」だ…ただ一点を除いては…
 息子は股間の茂みに隠れてしまっている。
 手鏡を持ち出し、床に座り、脚を広げる。
 そこは、完全に「女」のソレだ。
 息子の成れの果てが見つかった。
 もうここから小便が出ることはない。
 その下に肉襞が連なる。
 分け入ると鮮やかなピンク色の膣口が見える。
 次第に興奮してくる。
 じわりと汁が滲み出す。
 雫が電灯の光に輝く。
 俺が今まで交渉を持った女のソレと何も違いはない。
 俺はそこに自分に息子を突っ込んだんだ。
 ソコは温かく、そして激しく締めつけてきた。
 女は喘ぎ声をあげ、身悶える。
 俺は彼女の喉に唇を這わした。
 彼女は両脚で俺の腰を挟み、盛んにグラインドする。
 女はどんどん高みへと昇り詰めてゆく…
 
 想い出に興奮し、俺の股間はじっとりと濡れていた。
 鏡の中でソレがヒクヒクと痙攣している。
 餌を求める雛鳥のように、「男」を待っているようだ。
 俺はココに俺の息子を突っ込みたかった。
 が、今の俺にはソレが無い。
 替わりに指を与えてやる。
 グイッ!!
 勢い良く咬え込まれた。
 
 と同時に、俺は下半身に異物を感じた。
 何かが身体の中に侵入した。
 見知らぬ穴の中で蠢いている。
 慌てて指を引き離す。
 異物は消えた。
 もう鏡はいらない。
 俺はゆっくりと股間に指を這わす。
 鏡で見たソレを思い出す。
 指の付け根の辺りが息子の成れの果て。
 確かに、ソコに触れてくるモノを感じる。
 中指を伸ばし、膣口を塞ぐ。
 指の腹の下でソコがヒクヒクと待ちわびている。
 いや、待ちわびているのは俺自身だ。
 中指を持ち上げ、曲げる。
 その先端をゆっくりと挿入した。
 
 挿入する感覚と挿入される感覚を同時に味わう。
 俺の膣はさらに中指を奥へと導いていった。
 俺はそこで指先を動かした。
「あん♪」
 指先が敏感な所に触れたようだ。
 思わず声が出てしまう。
 もう一度、ソコに触れようと指先を動かす。
 股間で指を何度も出し入れする。
 そして俺はポイントを捕らえた。
 そこに集中して責めたてる。
「あん、あん、あん♪」
 俺は何も考えずに声を上げていた。
 次第にトーンが上がってゆく。
「あっ、あっ、あっ!!」
 俺は床の上で盛んに身悶えていた。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
 
 
 多分、絶頂に達したのだろう。
 俺の記憶はそこでプツリと切れてしまっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 朝、いつものように会社へ行く支度をしかけて思い出した。
 俺はしばらくの自宅待機を命じられていたのだ。
 手にしたワイシャツを戻し、ラフなTシャツとジーパンに着替えた。
 しばらくぼ〜っとしていると、呼び鈴が鳴った。
 宅配業者が小包を置いていった。
 包装を解くと、手紙の添えられた箱が出て来た。
 手紙には「プレゼントに当選しました」とあった。
 箱の中に入っていたのは電動張型だった。
 むふっと顔が笑っている。
 
 しばらくして再び呼び鈴が鳴った。
 別の宅配業者がまた小包を置いてゆく。
 さっきのより大きい。
 これにも手紙が付いていた。
 中身も同じ「プレゼントに当選しました」だった。
 箱を開けると女物の下着が詰まっていた。
 これには閉口した。が、考えようによってはラッキーだったかも知れない。
 下半身が女の状態で、男物のパンツを付け続ける分けにもいかないだろう。
 
 ちらばった色とりどりのランジェリーを片づけていると、次の宅配便が来た。
 今度は化粧品だった。ご丁寧の初心者のためのガイドブックが付いていた。
 
 次に来たのは家具だった。
 業者が来て据えつけていったのはドレッサーだった。
 俺は先程の化粧品をドレッサーの引出しに仕舞った。
 
 次々に業者が来てはプレゼントと称するものを置いていった。
 最後に来たのがピザ屋だった。
 時計が丁度12時の時報を告げていた。
 
 
 食事が終わりTVをつけていると、突然見慣れた風景が映し出されていた。
 アパートの裏の空き地だった。
 どこからともなくヘリコプターが集まってきていた。
 上空は騒然とし、地上には報道関係の車がさらなる騒乱を巻き起こしていた。
 TVを見ていると黒塗りのリムジンが近づいてきていた。
 どうやら総理大臣と来日中のアメリカ大統領らしい。
 二人は裏の空き地に降り立った。
 あとで知ったところによると次のような会話がされていたらしい。
「悪いねオサム。折角君達が捜して来た物件を放ってこんな所まで引き回してしまって。」
「とんでもないよビル。私たちもこんな良い物件を見落としていたなんて。」
 彼等が去った後、空き地には「日米友好の家建設予定地」の看板が建てられたのだった。
 その後は平穏な一日が過ぎていった。
 もちろん、夜になるとプレゼントの電動張型を使って昇天してみた。
 
 
 
 
 
 
 
 翌朝はヘリコプターの音に目覚めさせられた。
 再び黒塗りのリムジンが止まっていた。
 総理大臣と国連事務総長らしい。
 かれらの去った後、看板が「国連友好の家建設予定地」と改められていた。
 
 午後になると、再びヘリコプターの音に悩まされた。
 俺はカーテンを締め、目張りまでして音量をMAXにしたステレオをヘッドフォンで聴きながら、独りエッチにのめり込んだ。
 後には「国際友好の家建設予定地」と変えられた看板が残っていた。
 どうやら、全世界に敵対する国の指導者が急遽日本にやってきたという事だった。
 
 俺はドリンク剤で興奮を持続させながら、絶頂を繰り返していた。
 女の身体は男と違い尽きる事がない。
 
 その夜、発光する物体が空き地に降り立った。
 中から宇宙人が降り立った。
 彼等が去った後には「宇宙友好の家建設予定地」の看板が残された。
 
 
 
 
 
 俺はここまで来てようやく医者に行く気になった。
 が、医者が何か出来るような現象ではないのであろう。
 これまでの経緯を一通り話し終えると、医者は俺を診察台に乗せた。
 腹の所に置かれたカーテンの向こうで下半身が晒された。
「ふ〜む。確かにこれは半陰陽ではないな。女性器は完全に機能しておるし、男性の徴は完全に消失しておる。こんな症例は聞いた事がない。」
 触診を行った後、俺は服を着て再び医者の前に座った。
「たぶん、特殊なフェロモンがソコから分泌されているのだろう。そいつが男達にお前さんを喜ばしてやろうとさせるのではないかな?現に老いぼれたわしの逸物さえもお前さんを悦ばしてやろうと張り切っておるぞ。」
「先生、喜ばすの字が違っていませんか?」
「どちらも大した差はないぞ。」
「で、どうにかならないんですか?」
「ふ〜む。原因が判らなければ対処のしようもあるまい。まぁ、フェロモンに関しては分泌を抑えられれば多少は改善されるのではなかろうかな?」
「どうすれば良いんですか?」
「お前さん、欲求不満が溜まっておるだろう?」
「へっ??」
「まだ独りでしかやってないのと違うか?」
「独りでやる…って?」
「もちろんエッチじゃよ。お前さん、まだ男に抱かれておるまい?」
「お、俺は男ですよ。…まぁ、その直前まで行ったことはありますが…」
「お前さんの身体は男でも、そこは正真正銘の『女』であることを自覚せねばなるまい。そいつが自ら悦ばして欲しくてフェロモンを出し続けているんじゃよ。ものは試しに一度、本格的に抱かれてみるが良い。処方箋を出しておくから薬局で受け取っていきなさい。」
「処方箋?」
「『スキン』じゃよ。避妊には女の方から準備しておくのが確実じゃてね。」
「ひ、避妊……」
「もっとも、そいつの子宝が欲しければ無理に勧めはせんがな。ハハハッ」
 
 
 
 俺は処方箋を受け取り、アパートに戻った。
 しばらくの思案の末、俺は会社に電話した。
「志茂君をお願いします。」
 
 取り敢えず、飲み物と夕食の用意を終えた俺は志茂が来るまでの時間をどう潰そうか迷っていた。
 何となくドレッサーの前に座った。
 鏡の前に化粧品を並べていた。
 ガイドブックに従って、顔に化粧品を乗せていた。
 鏡の中の俺の顔が見る見る変わってゆく。
 眉毛が優しいカーブを描き、眼がいくぶんかパッチリとした。
 陰影がついて鼻筋が通ってゆく。
 頬が健康的に色づく。
 官能的な唇が彩られる。
 
 天袋から鬘を取り出した。
 ロングの黒髪をアップにまとめる。
 
 服もいろいろあったのを思い出した。
 クローゼットの中は色とりどりのドレスに埋めつくされていた。
 若草色のワンピースを手に取った。
 鏡の前で合わせてみる。
 
 俺は自分のセンスに満足していた。
 服を脱ぎ、下着から全てを取り替えた。
 パット入りのブラが胸を作る。
 ストッキングが優しく脚を包む。
 キャミソールが温かく包み込む。
 ワンピースのジッパーを上げて完成した。
 
 
 後片づけが終わると同時に呼び鈴が鳴った。
 志茂が来た。
 俺は扉を開けた。
 
 
 
 
 
 目の前で志茂の瞳が大きく見開かれている。
「見違えたよ。」
 そして俺を抱き寄せ、接吻する。
 そのまま、ベッドに雪崩込んだ。
「ご、ご飯が…」
「そんなの、後で温め直せば良いだろう?それより今夜はお前の望通り、心ゆくまで悦ばせてやるからな。」
 いつの間にか背中のジッパーは下ろされ、下着姿になっていた。
 
 
「可愛いぞ。」
 『どんな女もイチコロ』のキスが繰り返される。
 志茂は女のコを巧みに悦楽の高みに昇らせてゆく。
 俺は今『女』だった。
 彼に導かれるまま、快感にのめり込む。
 
 彼の手が股間に伸びる。
 そこは既にしっとりと濡れていた。
(準備はOKよ。早くアナタのモノを頂戴♪)
 俺は全てを彼に委ねた。
 彼の指が巧みに性感帯を刺激する。
 俺は喘ぎ、身悶える。
 クチュクチュと淫靡な音が股間に発する。
 そこは大量の愛液で溢れていた。
 俺は官能の波に呑み込まれていった。
 
「良いかい?」
 彼が体勢を入れ替えた。
 俺何も考えられなかった。
 彼も答えを待っていた訳ではない。
 そのまま、俺の脚を抱え上げた。
 空気が動き、俺の陰部に冷たい風が吹き抜けてゆく。
 それが、また快感を増幅させる。
 彼の腰が降りてくる。
 
 戸口に彼の先端が触れる。
 そして、スルリと潜り込んだ。
 
 
 熱い『本物』の肉棒が俺の『女』を貫いた。
 
 
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
 俺の嬌声は宇宙のはてまで響き渡っていった。
 
 
 
 
 

−了−

 
 その後フェロモンがどうなったか、彼等がどうなったか、それについて作者は一切関知しないのでそのつもりで……
 
 


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