白昼夢



 修羅場の連徹から開放され、真昼の閑散とした電車でアパートに向かっていた。
 電車の振動がただでさえ寝不足の僕を夢界に引き擦り込んで行った。
 
 ふと、太股に触れる掌を感じて目が覚めた。
 
 キョロキョロと辺りを見回すが数人の乗客が離れた所に座っているだけだ。
 誰も僕の身体に触れられる位置にいない。
 しかし、掌の感触は今もって続いている。
 見えない手(それは男のものに違いない)はゆっくりと円を描くようにして、太股から内股、股間へと移動していく。
 透明人間のようにズボンの上から触れてくるのではなく、直接僕の肌に掌が触れている。その触れている箇所のズボンの生地は膨らんだりとか、皺が寄ったり等という変化は一切現していない。
 ただ、男の掌の感触だけが伝わってくるのだ。
 
 彼の掌はやがて、僕の股間を被い、密着させた。
(?)
 男の掌が僕の股間に密着している。それはあり得ない。男には障害物があり掌を「密着」させる事など不可能である。
 僕は鞄を膝の上に乗せ、股間を隠したうえでそこに自分の手を当ててみた。
 息子の存在を確認する。
 が、男の掌はソレを無視するように、ピッタリと股間を被っている。
 彼は中指を蠢かした。
 まるで女性の秘部を弄ぶように振動をあたえる。
 ジクジクと体液が滲みだしてくる感じがする。
 男は中指にソレを纏い付かせると、僕の胎に突き立ててきた。
 ずぶずぶと指先が呑み込まれてゆく。
「あっ!!」
 僕は声を上げてしまった。
 慌てて周りを見る。
 近くの乗客が一瞬こちらを見たが、直ぐに無関心そうに視線を戻していた。
 僕は鞄の下で男の手の動きを妨害しようとするが、実体もなく、感覚だけのソレを防ごうという行為は全て無駄に終わった。
 彼の指が女のコの敏感な所に触れる。
 僕は声を立てまいと必死に我慢した。
 僕が感じているのが「女のコ」の感覚であることに疑いようもなかった。
 
 突き立てられる指が増えてゆく。
 複雑な動きで責めたてる。
 漏れ出そうな喘ぎ声を必死で堪える。
 女の汁が股間を濡らす。
 お尻にまで廻ってくる感覚…お尻の下の布地に滲み出している。
 慌てて掌を尻の下に差し込む。
 モゾモゾと動かしてみたが、シートが濡れている事は無かった。
 全てが感覚だけのものだ。
 
 ふと、男の動きが止まった。
 股間から指が抜き取られる。
 男の手が僕の脚を掴んでいた。
 僕は倒され、脚を抱えられた。
 股間を開かされる。
 ざらりとした感触が陰部を通り過ぎる。
 生暖かい肉片の感触…
 男は舌で僕の股間を嘗め上げているのだ。
 太股に男の頬が触れ、髭の剃り後の刺激が伝わる。
 時々、鼻先が割れ目に突っ込む。
「あう!!」
 クリトリスに噛みつかれた?
 僕は立ち上がった。
 脚に力が入らず、ふらふらとドアに向かう。
 立っているのに仰向けに倒されている感覚が重なる。
 再び男の歯が突き立てられた。
 手摺りに掴まり、必死で堪える。
 やがて、電車がホームに入る。
 
 ドアが開いた。
 僕は転げるようにホームに降り立つ。
 倒れ込むようにベンチに腰を下ろす。
 ベルが鳴った。
 電車が動き出す。
 その騒音に紛れて『声』を上げた。
「あう。あ、あんっ。」
 声が出ると快感が数倍に増幅される。
 ホームには誰もいない。
「あん。あ、あ。あ〜。」
 僕は快感に身を任せてしまっていた。
 男の動きが変化した。
 僕の股間はグショグショに濡れていた。
 男はソコに硬い肉棒を突っ込んだ。
「1番線を特急電車が通過いたします。」
 遠くにアナウンスの声がする。
 男の動きが激しくなる。
 警笛音が近づいてくる。
 僕はどんどん高みに昇っていった。
「あう!!あ〜〜〜〜〜〜〜〜……」
 特急電車の通過と共に男は僕の中に精を放っていた。
 そして、電車の遠ざかる音とともに、『男』の感覚は遠のいていった。
 
 
 
 
「もしもし。大丈夫ですか?」
 しばらくして声を掛けられた。
 駅員だった。
「だ、大丈夫です。」
 僕はそう言って入ってきた電車に飛び乗った。
 
 
 

−了−


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