奴から電話が掛かっていたのはもう10年ぶりの事だろうか。高校時代の同級生で親友/悪友の部類に入る。色々な事に顔を突っ込んでは引っかき回して楽しむという無茶苦茶な性格で、頭は良いのだが突拍子もない事をしすぎて損をするタイプの人間だった。大学に入ってしばらくして、奴が単身渡欧してしまってからこれまで音信が途絶えていたのだ。
新しく事業を始めたので、そのモニターになってくれないか。との事だった。
奴の頼みとあらば聞かないわけにもゆかず、詳しい説明をするからと翌日喫茶店で待ち合わせする事にした。
10年振りとはいえ、奴の独特な雰囲気は変わりようもない。が、身に着けているものは高級品・一流品ばかりになっていた。ヨーロッパで何をやってきたかは聞いていないが、帰国してからも青年実業家として派手に稼ぎまくっているようだ。
百聞は一間にしかずと、深層心理学とかニューロテクニクスとかいった複雑な専門用語を並べて頭の中が真っ白になった後で、奴は事務所にと俺を引きずり込んだ。
「いろいろと説明したんだが、実際に体験してみるのが一番だと思う。」
事務所とはいっても電話とスチール机の並んだ殺風景な所ではない。
ホテルのVIPルームとはこういうものか、と連想される調度と雰囲気を備えている。
ふかふかのソファに腰を降ろし、奴の持ってきたルーズリーフを手に取った。
「何だい、これは?」
そのルーズリーフのとのページにも女性の写真とプロフィール、そして様々なデータがびっしりと貼ってあった。
「これがうちの商品だよ。」
「商品?人材派遣とかの?」それにしては美人ばかりである。
「君の好みはどんなタイプだい?」
心理学とか恰好を付けていたがようやく合点がいった。
「これもSEX産業の一種だな?」
「まあ、そんなもんだ。」奴は軽く答える。
それならそうと始めから言ってくれればいいものを。
とにかく、『試し』と言うことだ。ただで出来るのならそれに越した事はない。
「じゃぁ、これにしよう。」
プロフィールとかデータとかは無視して、写真だけに注目してページをめくる。
すぐに好みのタイプが見つかった。ちょっと太めのセクシーな女の子だ。
「わかった。78番だね。ちょっと待っていてくれ。」
そう言ってルーズリーフを持って机に戻り、かちゃかちゃと何か機械を操作した。
しばらくして、カタカタとプリントアウトする。それを切り取って奴が戻ってくる。
「じゃぁ、僕について来てくれ。」
奴について部屋を出る。エレベータで地下に降りる。通路に沿って幾つもの部屋が並んでいる。そのうちの一つに通された。
部屋はその手の利用に供すべく、その中心は巨大なベットとなっていた。
しかし、作りは上の事務所と同じく上品に仕上がっていた。
奴に促されソファに座る。
奴は先程機械からプリントアウトされた紙をドアの脇のスロットに放り込んだ。
「これで『スワップ・システム』が作動する。あとで感想を聞かせてくれ。」
奴はドアを開け、外に出ていった。
そのドアが閉まると同時にプログラムがスタートした。
BGMが流れだす。ゆったりとした交響曲で心が落ちつく。
それに合わせ照明が暗くなる。
どこからか甘い香りが漂う。
ルーズリーフの女性を思い浮かべ、これからの事を想像する。
「彼女はいつ、どこからやって来るのだろうか?」
考えながらも、ついうとうとと眠りの中に引きずり込まれてしまった。
ふっと気が付く。
目の前に「俺」がいた。
真っ暗な部屋の中、スポットライトを浴びて俺が立っていた。
しかし、俺自身は先程のソファの上に座っている。ソファに座って立っている「俺」を見ている「俺」がここにいるのだから、目の前の「俺」はなんらかの特殊効果によるものだろう。BGMや香りと同じようなものだろうか?
機械や科学技術の事はさっぱり分からないし、このような特殊効果にどのような意味があるのかも分からないので、しばらく様子を見る事にした。
スポットライトの中でもう一人の俺が服を脱ぎはじめた。今日、俺が着てきた服だ。ジャケットを脱ぎ、ネクタイをはずす。ズボンのベルトをシュッと抜き取る。
そして、その一枚一枚をストリップ小屋の女達のように、しなを付けて放り出すのだ。女性のストリップなら金を払ってでも見るが、男のそれも自分自身のストリップとなると……そこまで考えて、これは「ただ」で体験しているのだと思い出す。
それもこれも、その後の御馳走を頂く為の試練だと我慢する。
靴下を抜き取り、ブリーフ一枚となったもう一人の俺は残ったブリーフに手を掛け、もったいぶったように2度3度と尻の上を上下させた後、一気にずり降ろした。
BGMのリズムに合わせて左右の足を抜き取る。脱ぎ取ったブリーフをポンと後ろに放り投げる。余った片手を腰にあて、クネクネと腰を振る。
その動作に併せて俺の逸物もプルプルと振るえる。
ピタッとスポットライトの中でポーズを決めるとBGMが変わる。カシャッ、カシャッと音がして、スポットライトの本数が増えた。と、同時にどのスポットライトにも色フィルターが掛けられた。
赤や青のスポットライトが揺り動く。
その中でもう一人の俺は両手を腰に当て、足を開き、膝をのばして、仁王立ちとなる。
その股間で逸物がゆっくりと持ち上がる。
太く、硬く、逞しく天に向かって張り上がる。
張り切った所でスポットライトが消え、代わりにパッと室内の照明が灯る。
奴の出ていった扉は消え、代わりに壁一面が鏡となっていた。
鏡には室内の様子があますところなく写り込んでいる。
左右の壁、天井や床、背後のベット、俺の座っているソファ。
しかし、俺と鏡の丁度中間にもう一人の俺がいて、俺自身を見る事はできない。
もう一人の俺はそこにほんとうに俺がいるように実在感をもってそこにいる。
始めはスポットライトと連動した立体映像かとも思っていたが、スポットライトの消えた今も、股間を張り立たせてそこにいる。
そのもう一人の俺が動いた。
ゆっくりと近づいてくる。
少し右にそれているかな?
俺の目はもう一人の俺の動きに釘付けになっていた。
やがてソファを回り込み、俺の後ろに立った。
俺は首を反らしてもう一人の俺を見ていた。
俺の後ろに立つと、それ以降は動こうとしない。
俺も首が痛くなって顔を戻した。
前は鏡である。
もう一人の俺がいなくなったので俺自身も見えるはずである。
だが、鏡には「俺」は一人しか写っていなかった。
ソファの後ろに廻ったもう一人の俺である。
そして、ソファの上には全裸の女が一人座っていた。
俺が選んだ78番の女だ。ルーズリーフの写真そのままに座っている。
その女の真後ろにもう一人の俺がいる!?
鏡の中の俺が動いた。俺ではない、もう一人の俺だ。鏡の中の俺は両手を伸ばし、女の肩越しに彼女の乳房を掴んだ。
「?」
鏡の中の動作に併せて、俺の胸が掴まれた。
うつむくと、俺の胸には豊満な乳房があった。それを背後からもう一人の俺が揉み摩っている。乳首が興奮して硬くなる。股間がじんわりと濡れてくる。
もう一人の俺の手が腹の上を滑り降り、茂みの中にもぐり込む。
人指し指が股間を舐め上げる。
俺自身が興奮しているのがわかる。
いいようのない快感に打ち振るえる。
鏡の中で女が身悶えている。
鏡の中で俺の手が女の秘部を犯している。
鏡の中の俺の指が女の愛液に光っている。
そして、
鏡の中の「女」は俺自身。
では鏡の中の俺は?……
ガクンとソファの背もたれが倒れた。一瞬にしてベットとなる。俺はもう一人の俺に押し倒された。もう一人の俺が俺に覆いかぶさる。目の前に俺の顔が飛び込んできた。
「これが『スワップ』。俺が君で、君が俺。」もう一人の俺が耳元で囁く。
「?」
「君は君自身と交わるのだよ。」そういって、ぐいと体を密着させる。
俺は俺に犯される。
俺を犯す俺がいる。
俺の唇が俺の唇を塞ぐ。たまらずに、俺は俺に抱きつく。二人の肉体の間に俺の乳房が押し潰される。俺の口の中で俺の舌が俺の舌に絡みつく。
鏡の中で俺は女を犯していた。
しかし、それはビデオを見ているように客観的な事象だ。
ベットの上で俺は男に犯されている。
客観的どころではない。俺自身の問題だ。これが全てだ。
逞しくなった男の逸物が俺の肉体を貫く。
俺の身体は即座に女としての反応を示す。
女の肉体が必死になって男のものを受け入れようとしている。
肉体が精神を支配する。
女としての悦楽が身体中を駆け巡る。
歓喜の媚声が喉を振るわす。
「最高〜〜〜U」
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