白い密室 −覗き−



 彼がこの部屋に来て1週間が過ぎようとしていた。
 最初は変わり果てた自分の姿に戸惑い自暴自棄になっていたが、最近は落ち着きを取り戻し、私の与えるオモチャで自らを慰めている。スピーカからは彼の発する艶かしい喘息が止めどなく流れ出てくる。
 部屋とはいってもそれは物理的に存在するものではない。仮想空間に構築されたデータとプログラムの見せる幻の部屋である。が、中に居る彼にとってはその全てが現実なのである。彼はベッドと幾つかのアイテムしか存在しない、真っ白な閉ざされた部屋に突然女の身体で目覚めたのだ。五感がそれを現実だと伝えている。
 
 私は先ず鏡を置き、彼自身に姿を認識させた。
 細い腕、白い肌。そして胸の膨らみと股間の裂け目。彼自身が女であることを認めさせる。そのために服も着せずに全裸のまま鏡の前に立たせたのだ。
 鏡に触れ、自分に触れ、鏡の中に映る姿が彼自身であることを認識する。すると、今度は「女」の身体を確認し始める。胸を触り、掴み、持ち上げる。わざと感度を上げた肉体はそれだけで反応してしまう。乳首が尖り、股間に蜜を湛え始める。
 声が先か?行為が先か?
 彼はおずおずと股間に手を伸ばしていった。
 
 指先が突起に触れたのだろう。驚きの声を上げる。既にそれは女の声であった。
 彼は立ち続ける事が出来ず、その場に崩れ落ちるようにして座り込んだ。ペタリと尻を付け、両足を扇のように広げる女の子独特の座り方になっていた。
 彼は悦感に戸惑っていた。が、それも束の間、股間の掌をゆっくりと動かし始めた。
 女の喘息が彼の口から零れている。彼は床の上に横たわり、広げた股間で指を動かしている。始めての快感に身体がどんどん開発されてゆく。
 嬌声をあげて彼が達した。そのまま気を失ったようだ。
 私は彼をベッドに寝かせ、リュックにアイテムを入れて枕元に置いてあげた。
 
 
 
「ぁああん。あはん♪ ぁあっ!! ああ〜ん♪」
 彼が自らの股間にバイブを挿入し、悶えまわっている。男としてのアイデンティティが徐々に崩壊していっているのだろう。快感が彼の脳を塗り替えてゆく。
 口の端からは唾液を垂らし、股間を愛液で溢れさせ、虚ろな瞳で宙を窺う。
 私のプレゼントした「服」を着ている。もちろん今の彼の姿にぴったりな女子高校生の制服だ。彼が元々男である事を知らなければ、この光景は単なる女の子の自慰にしか見えない。
 スカートを捲くり上げ、股間を広げ、バイブを抜き差ししている。空いている手はブラウスの上からブラジャーに包まれた胸を揉み上げている。
 
 今日の服は白いワンピースドレスだ。長い袖の先には白いレースの飾りが付いている。白のタイツも穿いているので、彼の目には自分の手以外に白以外の色が見えなくなっている。
 何を思ったのか、彼が指先を噛んだ。血が滲み出す。
 彼は自らの血で壁や床になにやら描き始めた。描いているのはハートや花などばかりである。彼の頭の中の女性化が相当進んでいるようだ。
 最近は自慰もせずにボーとしていた。女の性的な快感に反応する「男」の意識が彼の中から殆ど失われてしまっているのだろう。私の送った様々なアイテムにも反応しなくなっていた。
 そろそろ彼もお払い箱かな?
 彼が意識を失うと私は一連の操作で床や壁を元の状態に戻しておいた。
 
 
 
 私は彼の枕元に立っていた。
「だれ?」目覚めた彼は私に尋ねた。
「僕がだれだか判らないのかい?」私は元の彼自身の姿で彼の前に立っている。「僕は君だよ。」そう言ってやったが、彼には理解できないのだろう。
「あなたがあたし?」「君は今女の子の姿をしているけど、本当は男なんだよ。」「あたしが?」「そう。この僕が本来の君自身の姿なんだ。判る?」
 彼は首を横に振っていた。その仕種一つとっても彼は女の子以外の何者でもなかった。
「ほら、もっと良く見てごらん。」私は着ていた服を消した。彼は「きゃっ」と悲鳴をあげて掌で目を被った。「恥ずかしがることはないよ。これは君自身の身体なんだから。」
 私は彼の服も消した。彼は慌てて胸と股間を隠した。私が勃起しかけのペニスを近づけると首を振って視線を外す。「何故逃げるんだい?これは元々君のものなんだよ。」
「や、止めてください…」蚊の鳴くような声で彼が懇願する。
 
 私は彼をベッドの上に押し倒した。私が触れただけで、彼の股間に愛液が満たされる。私のペニスも準備が整っていた。彼は抵抗することが出来ない。私はゆっくりと身体を密着させていった。ペニスが彼の中に入ってゆく。「あ、あぁ…」彼が声を上げる。
 私が彼の中でペニスを動かし始めると、彼の上げる喘ぎ声から拒絶の色が消え純粋に快感に悦んでいるものになっていった。
 私はタイミングを見計らって男の肉体から離れていった。
 同時に、その男の本来の所有者に明け渡す。その所有者とは、その男が組み敷いている少女に他ならない。彼は今二つの肉体を所有していた。
 彼本来の肉体で少女を貫いている。と同時に、彼は彼自身に貫かれている少女自身でもあった。
 快感は戸惑いを凌駕していた。
 彼はそのまま少女を貫き、腰を前後に動かし続けていた。少女は歓喜の嬌声を上げ続けている。自らも腰を振り、快感を追い求めてゆく。
「あん、あん、あん、あんっ!!」次第に昇り詰めてゆく。男の肉体も限界を迎えつつあった。「あっ、あっ、あ〜〜〜〜〜〜〜〜♪」少女の叫びとともに二つの肉体は同時に絶頂を迎えていた。
 
 
 
 彼は男の肉体の上に覆い被さっていた。その股間に顔を埋めている。男のペニスを咬わえているのだ。大量の精液を吐き出し、力なく萎えたペニスにすがり付き、早く元の硬さを取り戻させようと必死になっているのである。
 彼のアイデンティティは既に女のものに置き換わっているのだろう。彼は二つの肉体を操る事が出来る筈であるが、男の肉体を使う事を完全に放棄していた。男の肉体に胸を擦りつけ、口で、舌で、指先で、男のペニスを必死に復活させようとしている。
 女の肉体は餌を待ちわびる雛鳥のように体中で啼いていた。蜜を垂らす股間を男の顔に押し当てる。男の鼻が股間の突起に触れる。女の肉体がうねり、悦感に打ち震えている。
 私は彼の意識を強制的に男の肉体に移動させた。
 女の動きが止まる。男が動きだす。
 覆い被さっていた女の身体から抜け出した。手を見る。股間を見る。
「い、いやぁ!!」女のような叫びをあげ、胸を抱いてその場に崩れ落ちる。指先で微いさな乳首を摘んでいた。男の太い指ではそこから快感を得ようとしても無理があるようだ。もう一方の手を股間に伸ばす。ペニスの裏側の合陰部に指を這わす。当然のように、そこは濡れる事はない。それでも、彼はそこに指を立てた。
「ぁあん、あん♪」男の口から女のような喘ぎ声が出される。もちろんその声は男そのものだ。本当に感じているのかは定かではない。彼は女であった時の行為を模倣し、女であった時の快感を想像していた。
 私は彼の肉体を変化させてやった。
 彼の指がそのまま彼の胎内に入ってゆく。合陰部が解け、肉襞となる。彼の股間に膣が形成される。愛液が注がれる。彼は必死に指を付き動かしていた。
 
 
 
 ベッドの上には2体の女の肉体があった。それはともに彼の肉体であった。私がレズ用のオモチャを与えてやると、嬉々として二つの肉体を重ね合わせていた。
 彼はもうこの仮想空間を去ることはないだろう。元の肉体に戻ったとしてもその肉体を正視することはできない筈である。私は彼の肉体を焼却処分するように指示を出した。
 仮想空間の中で彼は彼の人生を満喫していた。
 永久に続く白い牢獄の中で…
 
 

−了−


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