まだ幼稚園の頃だ。
鮮明に思い出すでき事があった。
「大人になったら何になりたい?」
と聞かれ、
「綺麗なお嫁さん♪」
と答え、辺りが爆笑の渦に包まれたのだ。
直前の日曜日に、母の従姉妹の娘の結婚式に僕も連れられていったのだ。
皆に祝福され、幸福な笑顔の花嫁さんに感動した幼かった僕が、ついそう答えてしまったのも無理からぬものだろう。
勿論、僕に「女性になりたい」などという願望があった訳ではない。
単純に、花嫁さんが感じていた幸せを僕も感じていたかったのだ。
だが、幼稚園での僕は何を笑われたのかが理解できず「笑われた」という負の感情だけが、深く心の奥に刻み込まれたのだった。
「で、結局〈こう〉なっちゃった訳?」
その頃からの腐れ縁というやつか、幼馴染みの瑞穂が鏡の向こうから聞いてきた。
僕は鏡に向かったまま、
「幸せになれるんなら、細かい所なんてどうだって良いじゃん♪」
「〈これ〉さえも細かい事と言いきるあんたには脱帽するよ♪」
半年前に知り合ったアキラと交際を始めた途端、あれよあれよという間に話しが進んでいき、今日の結婚式に辿りついたのだ。
「まあ、アキラも女にしては凛々し過ぎるからね♪お互い、最適な相手に巡り会えたって事だよね。」
アキラは別の部屋で白のタキシードに身を包んでいる筈だ。
「幸せになるんだよ♪」
と瑞穂に言われ、
僕は「うん♪」と答えた。
鏡の中にはあの時と同じ、真っ白なウェディングドレスを着て幸福な笑顔の綺麗な花嫁さんが映っていた。