制服


 
 入学式の前日になって、ようやくデパートから制服が届いた。
 「学校様より一部、制服にデザイン変更があったとのことで、調整に時間が掛かってしまいました。」
 との詫び文の下から現れた「制服」を見て、僕は自分の目を疑うしかなかった…
 
  
 箱の中に入っていたのは「女子」の制服だった。
 慌ててデパートに連絡したが、既に閉店時間を過ぎていて、自動応答が明日の開店時間を告げるアナウンスが流れているだけだった。
 
 次に学校に電話してみた。
 が…
 「問題ないから、配送されてきた制服を着て来るように。」
 と言われてしまった。
 
  
 悶々として眠った気にならないうちに朝が来てしまった。
 仕方なく、女子の制服を着て学校に向かった。
 
 
 
 
 
 
 学校の入り口では制服を着ていない男子が追い帰らされていた。
 僕はちゃんと制服を着てきたので、笑顔で迎え入れられた。
 
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 校門を通過した瞬間…何かが変わった。
 
 制服にあった違和感がなくなり、別の違和感が気になりだした。
 下着だ。
 いくら何でも下着まではと思い、いつものトランクスを穿いてきたのだが(何か違う)と感じ始めたのだ。
 
 近くのトイレに入り、制服と一緒に入っていたショーツを取りだして穿き替えると、ほっとできた。
 
  
 
 (何かがおかしい…)
 肉体的な不快感はなくなったが、まだ何か気に掛かるものがあった。
 
  
 トイレを出て集合場所に向かった。
 新入生の女の子達が所在無げに佇んでいる。
 中には同じ中学で顔見知りだったのか、いくつかのグループもできていた。
 しかし、どこを見ても男子の姿はなかった。
 そのまま入学式が始まった。
 最初に校長先生の挨拶があった。
 「新入生のみなさん。入学おめでとうございます。」
 「さて、一部の方には既にお気づきと思いますが、本校では本年度より、男女平等の精神を更に発展させてまいります。」
 「先ずは一年生は全て女子として入学していただき、二年次には男子、三年次はそれぞれ希望する性別で学校生活を過ごしてもらうことになりました。」
 
 入学式の後、それぞれ割り当てられたクラスに向かった。
 当然、教室の中は女の子ばかりだ。
 担任の先生がやってきて出席をとる。
 その時初めてその娘が男子だとわかる。
 「あとで紙を配るから、学校での通称を希望する者は提出するように。その姿で太一とか勇午とか呼ばれるのは抵抗があるだろう?」
 しかし、女の名前で呼ばれるのにも抵抗があると感じるのは僕だけなのだろうか?
 「一応、その姿になっているのは制服を着て学校内にいる時だけだ。例外は、体育など授業で着替える場合は変わらないということ。」
 「また、校外活動でこのままの姿を維持したい時には、申請すれば一定時間持続させることができる。ただ、その際の私服は事前に用意しておく必要があるから注意しておくこと。」
 
 (姿が変わる?)
 ようやく、僕は事の異常さに気が付いた。
 どう見ても女の子にしか見えない。声も女の子の声。なのに名前は「男」という娘が一人や二人なら偶然と考える事ができるが、どの男子もみな可愛い女の子にしか見えないのは不自然なのだ。
 何かの超自然現象により、男子は女の子の姿に変わっているのだ。
 
 …それは「僕」も同じなのだ。
 校門を入った途端に僕の姿も女の子になっていたのだ。
 だから、制服の違和感がなくなり、トランクスに違和感を感じたのだ。
 ごく自然に女子トイレに入り、躊躇うことなくショーツを穿いていた。
 股間もまた「女の子」になっていたのに、それが当然であると気が付きもしなかったのだ。
 鏡にも自分の顔が写っていた。
 その女の子が本来の「自分」の姿ではないなどとは思いもしなかった…
 
  
 
 こうして僕の「女子」高校生生活が始まった。
 
 面倒なので、家でも女の子でいられるようにしてもらった。
 他の女の子達と話しができるよう、アイドルとかファッションとかにも興味を持つようになった。
 この姿で長くいると、自分でも生まれた時から「女の子」だったかと錯覚してしまう。
 「女の子」なんだから、男の人を好きになってもおかしくないよね?
 どうやら僕はクラブの先輩を好きになってしまったようだ。
 先輩からデートの誘いを受けて、僕はもう舞い上がっていた。
 やはり、手作りのお弁当が良いかな?
 どんな服を着て行こう?
 お化粧なんかもした方が良いのかな?
 誘われたその日から、僕の足は地に着いていなかったと思う。
 
  
 
 「待った?」
 と先輩が待ち合わせ場所に現れた。
 (待ち合わせの時間までまだ10分もありますよ♪)
 「あ、あたしも今ちょっと前に来たところです♪」
 と定番の受け答え…
 (でも、自分のことをあたしって言っちゃった♪)
 僕…あたし…は先輩と並んで電車に乘った。
 電車が揺れてもバランスを崩さないように、ちょっとだけ体を支えてくれている。
 今日は気合いを入れて少し踵の高いサンダルを履いてきたのだ。
 いつものスニーカーと違い、バランスが取り難いのもあったから、かなり助かった。
 
 遊園地の最寄り駅で降りた。
 人の流れに乗って遊園地に向かう。
 (あたし達、ちゃんと恋人同士に見られてるかしら?)
 そんな事を考えながらゲートをくぐった。
 …そこから先はワクワクがいっぱいで、他人の目など気にならなくなっていた。
 
 ジェットコースターで絶叫しながら、彼の腕にしがみ付く。
 ホラーハウスは彼に抱かれるようにして通り抜けた。
 「相性チェックマシンだって♪やってみない?」
 と、彼を引っ張ってマシンの前に立った。
 二人で手をつないだ状態で、赤と青の掌マークにそれぞれ手を置くと…
 「やったあ♪ベストカップルだって!!」
 とはしゃぐあたしの頭を彼がナデナデしてくれた♪
 
 ステージを見て、食事をして
 パレードを見て、アイスを食べ
 二人でポップコーンを食べながら素敵な庭園を散策した♪
 「この庭のライトアップは凄いらしいよ。」
 「本当?なら、見てから帰るんで良いでしょ♪」
 
  
 彼が言った通り、庭園の夜景はすばらしく、あたしはうっとりとしていた。
 「高いところから見ると、また違って見えるよ♪」
 あたし達は遊園地に併設されたホテルに入った。
 彼の言う通り、そこからの景色もすばらしかった。
 「…きれい…」
 あたしが呟くと
 「君の方がもっと綺麗だよ♪」
 
 いつの間にか、あたし達は全裸になっていた。
 「大丈夫♪全て僕に任せてれば良いから。」
 彼の言う通り、あたしはベッドに転がった。
 彼が覆い被さり、あたしの唇を塞いだ。
 口の中を彼の舌が掻き回す。唾液が混ざり合い、あたしは口の中に満たされた彼の唾液を飲み込んでいた。
 「ひとつになろうね♪」
 彼の言葉にあたしは頷いていた。
 彼があたしのナカに入ってくる…
 あたしは彼に充たされる…
 そして
 
 …
 
 あたしはあたしのナカに彼の分身を受け入れていた。
 彼と「ひとつ」になれた悦びに涙が浮かぶ…
 「ごめん」
 と言う彼に
 「違うの…」
 と答え、もう一度、彼と身体を合わせていった…
 
  
 
  
 
 「はあ…」
 担任がため息をついていた。
 「この事は想定していました。が、貴女もですか…」
 2年への進級を前にカウンセリングを受けていた。
 規則では、2年生は男子として過ごさなければならない。
 このまま「女」でいたいのであれば、他校に転入するしかない。
 
 あたしの決心を変える事は誰にもできなかった。
 
  
 
 始業式の前日になって、ようやくデパートから制服が届いた。
 箱の中には転入先の学校の制服が入っていた。
 去年一年間着ていたのとは違う制服だ。
 あたしは明日から、この制服を着て、新たな女子高生生活を始めるの♪
 
 
 
 
 


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