金曜日は家に戻るのが待ち遠しい。
それは、単なる一週間の終わりではない。これに続く2日間は「仕事」とか「社会」とかで否応なく被せられる偽りの仮面を脱ぎ捨て、本来の「自分」に戻ることが出来る『幸せの2日間』なのだ。
部屋に戻るなり、僕は背広を脱ぎ捨て、ネクタイを毟り取る。クローゼットの扉を開け、その奥からアイテムの詰まった『秘密の箱』を取り出した。
リアルバスト
女顔マスク
音声変換機
生理体験剤
体格補正下着
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通販で手に入れたアイテムがぎっしりと詰まっている。
僕はこれを使って『女』に『戻る』のだ。
もちろん、僕は生まれた時から『男』で、戸籍上も、社会生活上も『男』である。
しかし、僕の本質は『女』だったのだ。
その事に気付くきっかけとなったのがVスキンだった。
ある日、偶然目にしたVスキンに僕は運命を感じてしまったのだ。
ペニスの上からVスキンを被せ、股間を被うようにすると、仕込まれた薬品の作用により、ペニスがなくなり、女性器が形成される。勿論、濡れるし、オシッコだってそのまま出来るのだ。
更には、その割れ目に他の男のペニスを迎える事だって出来る優れ物なのだ。
僕は速攻で通販を申し込み、手に入れたVスキンを着けた。僕の股間は『女』になった。
その後はずっとVスキンを着けたままで生活している。僕の股間にはペニスは存在していない。もちろん、服を着てしまえば、股間がどうなっているか誰にも判らない。『女』になった僕は『男』の仮面を着けて平日の一日を過ごしている。
もちろん、ストレスが溜まってしまうので、夜は少しでも『女』に戻るように、女物のナイティを着て眠る。しかし、それでもストレスは溜まってゆく。本物の『女』に戻れない限りこのストレスは解消できない。だから、週末には気合を入れて本格的に『女』に戻るのだ。
金曜の夜、僕はVスキンの他にも通販で入手した数々のアイテムを取り出して並べていった。
シャワーを浴びて全身を洗い清め、バスタオルで全身の水分を拭い取る。特殊接着剤を使ってリアルバストを胸に着けると、暫くの間ずっしりとしたバストの存在感に浸っていた。
次は体格補正下着だ。ボディスーツのようなつなぎの下着は、僕の体格を補正してくれる。これは、だぶついた肉を寄せたり引き締めたりする単なる体型補正とは違い、男と女の体型の違いを骨格のレベルから補正してくれるのだ。これを着れば、肩は撫で肩になり骨盤は広くなり自然な女のプロポーションを作ってくれる。その上から普通の下着を着け、服を着るが、体型が補正されているのでユニセックスの服を着てもちゃんと『女』に見てもらえる。無理にフェミニンなドレスを選ばなくても良いという優れものなのだ。
今夜は外に出る事もないので、タンクトップにジーンズで済ました。
姿見で服装の乱れを確認する。首から下は問題なく『女』になっていた。が、顔は『男』のままだった。それは、化粧をしていないとか髭があるとか以前に『男』の顔そのものなのだ。
僕は特注品の女顔マスクを手に取った。これは既成のものと違い、僕の顔写真を元に僕の個性を残してもらっている。目鼻口の位置を合わせてマスクを付けるが、特注品だけあって、フィット感は申し分ない。鏡には『女』になった僕の顔が映っていた。
軽くお化粧して、最後の仕上げに入る。
音声変換機を取り出し軽く喉に押し当てる。特殊な電磁波が声帯を刺激してゆくのだ。ピピピと音がして処理が完了した。「あああ。」と声を出すと、もうそれはオクターブ高い『女』の声になっていた。
今日はこれで終わりだが、完璧を期す僕は月に一度は生理体験剤を服用している。Vスキンの疑似膣からも経血が出てくるので、生理用品もちゃんと揃えてあるのだ。
『秘密の箱』をクローゼットの奥に戻し、扉をしめる。
これからは『女』の僕の時間が始まる。
最初に僕のする事は…
ベッドの上に脱ぎ捨てられた背広やワイシャツを片づける事だった。
同棲相手の服を片づけるように、
「んもう♪脱いだら脱ぎっぱなし。だから男ってだらしないのよね♪」
そう言いながら、トランクスや靴下を洗濯機に放り込んでいた。
洗濯機に後を任せると、次に来る女の仕事は炊事だ。
エプロンを着け台所に立つ。冷蔵庫の中を改め、ありあわせのもので何ができるか考えてみた。
まな板に野菜を乗せ、トントントンと調子よく刻んでゆく。
「見た目よりも、味よりも、その料理にどれだけ愛情が込められているかが一番なのよね♪」
僕はそう自分に言い聞かせて刻み終えたモノを鍋の中に放り込んでいた。
すると、がちゃりと風呂場のドアが開く音がした。
振り向くとそこに全裸の『僕』が立っていた。
「こら、変態♪ パンツくらい穿いてきなさいよ♪」
僕が笑いながらたしなめると、
「良いじゃん。直ぐにまた脱ぐ事になるんだから。」
『僕』が言う。
「もうすぐご飯が出来るわよ。」
「良いから♪」
「冷めちゃうわよ。」
「温め直せば良いじゃん?」
「バカッ♪」
僕はコンロの火を止めると、振り向いた。
目の前に『僕』の顔がある。
その唇に吸い付いた。
『僕』の腕が僕を抱き締める。
身体が向き合う。
彼の股間に掌を当てると、既に硬く天上を指していた。
エプロンが脱がされる。
タンクトップが剥ぎ取られる。
ジーンズが降ろされる。
ブラジャーの隙間から彼の手が差し込まれる。
片方の乳房がカップから外される。
ピンクの乳首が硬くなっていた。
彼の下がその先端に触れる。
「んあん♪」
僕が喘ぐと彼の唇が乳首を包み込んだ。
片方の手が背中から降りてくる。
ショーツの中に潜り込んできた。
前に回り込む。
既に叢は湿り気を帯びていた。
彼の指先がその中を這い進む。
肉のクレバスに突入する。
「ああんッ!!」
指先が僕の敏感な所に触れた。
「ここじゃだめ♪」
ようやくそれだけ言う。
もつれるようにベッドに倒れ込む。
その一瞬の隙に彼の指が僕の中に入り込んでいた。
膣の中で彼の指が蠢いている。
僕は彼の頭を抱き締めた。
彼の顔が乳房に埋まる。
2本目の指が入ってくる。
激しさが倍増する。
体液が沸騰し始める。
「あん、あぁ、ああん、あ〜あん」
僕は喘ぎ続けていた。
いつの間にかブラもショーツも剥ぎ取られていた。
彼の攻めが股間に集中する。
力強い腕で脚を抱えられる。
開かれた股間に彼の下半身が割り込んできた。
下半身が密着する。
「いくよ。」
彼の固い先端が割れ目を伝ってくる。
目的地に狙いを定め、押し入ってきた。
「ああん、あ〜〜〜〜♪」
僕は声を上げていた。
挿抜が繰り返される。
クチャクチャと淫卑な音が響く。
彼の荒い息と、僕の艶かしい喘ぎが交錯する。
そして、絶頂を迎える……
僕はベッドの上で自作自演の独芝居を終わらせた。
虚しさが立ち込める。
立ち上がり、エプロンを付け料理の続きを始めた。
妄想だけが先走っている。
どうせ明日も外には出ずに掃除と洗濯に明け暮れるのだろう。
独りの食卓に1人前の料理が並んだ。
「いただきます」
裸にエプロンをしただけの格好で夕食を始めた。
箸を進めていると、寝室からガサゴソと音が聞こえてきた。ここには僕一人しかいないのだ。
(泥棒かしら?)
僕は箸を置くと、音を発てないようにしてゆっくりと寝室に向かっていった。
カチャンとガラスの砕ける音がした。僕のお気に入りのガラス細工かも知れない。
はやる気持ちを抑えて寝室のドアノブに手を掛けた。
ドアの隙間から覗き込むと、タンスの前にいた男が丁度こちらを向いた所だった。暗い寝室で作業をしていた所に明りが差し込んできたのだ。気が付かない筈もない。
泥棒がゆっくりと近付いてくる。
ドアの端を掴み、ぐいと引き上げた。
彼の手にはサバイバルナイフが握られていた。
泥棒は強盗に変身していた。
僕はあっという間に男の持っていた縄で縛られてしまった。口には猿轡を咬まされている。
「静かにしていろよ。」
強盗は開き直ったのか、寝室の明りを灯しどうどうと物色し始めていた。
「大したモノは置いてないんだなぁ。」彼が手にしているアクセサリーはどれもガラスやプラスチックのオモチャ同然のものばかりだ。強盗は物色するのは諦め財布から現金だけを取り出すとズボンのポケットに捩じり込んだ。
僕が恨めしそうに見つめていると、
「足りない分はその身体で精算してもらおうか♪」と、手にしたナイフで縛めの一部を切り離した。
脚が自由に一部を取り戻した。
立ったりすることはできないが左右に動かすことができるようになった。
しかし、それはあくまでも強盗側の都合である。彼は僕の膝に手を当てるとグイと押し開いた。
取り戻した自由はもう一方で股間を晒す格好が取れるようにもなっていた。男の頭が僕の股間に迫ってきた。男の舌がぺろりと僕の膣口を舐め上げていった。
「ぁあん♪」僕の意志とは別に媚声が溢れ出る。
「なかなか感度が良いじゃないか。」男は今度は指でそこを弄び始めた。
「いや、だめ。」言葉では拒絶しても肉体が素直に反応してしまう。下腹部が熱を帯び、身体の中からじわりと湧き出てくるものがあった。
男はそれを指先で掬い取った。
「なかなかの美味じゃないか。」
強盗が服を脱ぐと、その股間には黒光りする逸物がそびえていた。
僕の下半身は恐怖と期待に震え出していた。
愛液がぶしゅぶしゅと撒き散らされる。
股間の袷がピクピクと蠢く。
強盗は強姦に変わっていった。
彼のペニスが僕の中に押し入ってきた。
恐怖や嫌悪を快感が圧倒する。
膣の中でペニスが跳ね回っていた。
「あん、あん、あん♪」僕は媚声を上げ彼を迎え入れていた。
腰を遣い、膣口の力を加減して僕は男に最大の快感を提供してやった。
「ぁあ!! ううっ!!」男が呻いた。
ギュッと膣を収縮させると、堪えられずにペニスの中を熱い塊が昇ってくる。
膣の力を抜いてやると。彼の溜まっていた精液が一気に放出された。
精液は僕の膣を溢れるばかりに満たしていった。
その勢いは子宮の口をも押し開いていった。
僕の中に精子の大群がなだれ込んできた。
僕は強盗に強姦され妊娠してしまうのだ。
どこの誰ともわからない男の種をもらって卵子が胎盤に着床するのだ。
十月十日で僕は子供を産む。
分娩の苦しみに堪え僕は子供を産むのだ。
生まれた赤子が僕の胸にしゃぶり付く。母乳を求めて乳首を探す。
歯のない口が蕾を含むと、ちゅうちゅうと吸い始める。
僕の胸からオッパイが迸ってゆく。
廻りからは盛んに堕せと言われてきたが、僕がお腹を痛めて産んだ子供だ。
小さくとも尊い命だ。
僕はその子をぎゅっと抱き締めた…
僕の腕は空を掴んでいた。
これもまた僕の妄想だ。
本物の『女』でない僕が子供を産める筈もない。いかにアイテムを揃えても仮の性器に男を受け入れるまでしかできないのだ。
それでも僕は満足している。
ベッドを降りてカーテンを開けると朝の日差しが差し込んできた。
ネグリジェの上から造りものの乳房を抱える。
(大丈夫。今日の僕は誰が見たって女の子だよ♪)
僕はタンスから官能的な服を選んで取り出していた。
「さぁ、シンデレラタイムよ。アタシを誘ってくれたら最後まで付き合ってあげるからね♪」
パンプスに脚を通し、アタシは颯爽と街に繰り出していた。