ドリル



 僕の目の前に現れたのは、電動式のドリルだった。
 グィーンと唸るような音を発てている。
 ドリルは僕の目の前から足元に移動した。
 僕はベッドの上に全裸で縛りつけられていた。
 脚が広げられ、その真ん中にドリルが据えられていた。
 
 ゆっくりとドリルが近づいてくる。
 
 おちんちんの裏側、金玉の袋の付け根に照準が合わされていた。
 ドリルの巻き起こす小さな空気の流れを袋の皮が感じていた。
 
 ドリルが僕の股間に突き立てられた。
 皮膚がねじ切られる。
 千切れた血管から紅い血が撒き散らされる。
 筋肉の筋が断ち切られる。
 
 ガ、ガ、ガ、ガ、
 ドリルは僕の骨盤を削り始めた。
 
 充分な広さの入り口を確保すると、更に奥に向かって進んでいった。
 僕の腹の中では内蔵が後退し、ドリルのために空間を提供する。
 逃げ後れた肉がドリルの刃でえぐり出されてゆく。
 
 やがて音が止み、ドリルが引き抜かれた。
 僕のお腹の中に大きな穴が開けられていた。
 今度はそこに詰め物が押し込まれてきた。
 詰め物で穴は塞がれた。
 隙間にパテのようなものが塗り込められる。
 へらのようなもので成形が済むと、余ったパテと飛び散った血飛沫が拭い取られた。
 その上に包帯が巻かれ、サポータで締めつけ固定する。
 広げられた脚が閉じられる。
 縛めが解かれる。
 
 
 ベッドを降ろされ、服が渡された。
 これからしばらくの間、僕はこの服を着ることが強要されるのだ。
 ドアを開けると両親が待っていた。
「責任はしっかりととるんだぞ。」
 父さんが言った。
「判らないことがあったら何でも訊いてね。」
 母さんが言った。
 僕はマタニティドレスの上から僅かに膨らんだお腹を抱えてみた。
 
 
*** 西暦2XXX年 ***
 非同意の性交による妊娠において女性側が中絶を希望する場合、
 男性が代理出産を行うことが義務付けられた。
 出産後の子供の養育を女性側が拒否した場合、男性が養育を行う。
 この際、母乳を与える等の各種施術費用は国がこれを負担する。
 
 現在、性転換希望者が本法により女性戸籍を取得するケースが増加
 しており、当局では本法の見直しを検討している。
 

−了−


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